2-125 終結に向けて









「フェルノールのやつには……辛い思いばかり……させてしまった。私は何の恩も返せぬまま……」





カステオは、つい先ほどまで手の中にあったフェルノールの感触を思い出し掌を見つめる。









「ニーナは知っていたのか?このことを」



「フェルノールさんが兄様の相談役としていたのは知っていましたが、この話は初めて聞きました……」



「あなたたちにも、あなたたちだけの絆があったのね……





エレーナが同情するように告げる。



そして、離れた場所でボーキンの治療を行っていたハルナとフウカが近づいてくる。








「ハルナ、ボーキンさんはどう?」



「だいぶ良くなってみたい、だけどまだ意識は無いわね……それと」



「それと?」



「フーちゃんの話だと、まだ奥の方に黒い物が取り付いて残っているみたいで今の力だと完全に消すことができないんだって」



「そうか……ハルナ、そしてフウカ様もよくやってくれた。それについては、カステオと話しが付いて、剣の力で対処することになった」






ハルナは、ステイビルの横にいるカステオの顔を伺う。

するとカステオは、そのステイビルの言葉を証明するように頷いた。






「それでは、一度城に戻ろう。ボーキンは、重要参考人として城で預かることにする」






そのカステオの提案について、この中にいる者から反対意見は出なかった。






「そして、散らばっていた東の国の方々も、どうか城へきて頂きたい。併せてボーキンが命令を出していた警備兵にも退却するように言って頂けないか?書状を書くので、それを見せれば言うことを聞くだろう」



「それについては、わたしも署名します」





ニーナが、カステオの話に付け加えた。



カステオは書簡に、今回ボーキンの命令が出ていた西の国の全警備兵は撤退するようにとの命令が掛かれた書簡を二つ用意した。

一つは、ディバイド山脈を攻撃していた組と、もう一つはマギーの宿へ向かっていた組の二隊あてに送った。

カステオとニーナの署名付きで。



それをコボルトに持たせて、早急に伝達してもらえることになった。




ボーキン宅での騒動を終えた一同は、西の国の城へと向かった。













騒動が終わってから、数日が経過した。

ハルナたちは、お城の中で今までとは正反対の待遇でもてなされていた。



ステイビルと話しをしていたカステオのの元に、従者が報告にやってきた。






「失礼します、ボーキン様の意識が戻られました」





カステオはステイビルとの会話を止め、ボーキンが休んでいる部屋に向かった。





「ボーキン……具合はどうだ?」





ボーキンは覚醒したばかりで、まだ少し呆けた目つきをしている。

そして数日間眠っていた顔は、完全に伸び切っておらず手入れされていない髭が目立っていた。





「こ……これは……カステオ……様、わたしは……どうして……こんなところに?」





身体をベットから起こそうとするボーキンは、数日間動かしていなかった関節の節々が久々の運動に悲鳴を上げている。





「無理に身体を起こさなくとも、そのままでよい。それよりも、お前はどこまで覚えている……?」





その言葉をきっかけに、ボーキンは記憶の扉を開きそこから情報を引きずり出した。

嫌な情報が頭の中に呼び出され、この事態になった経緯を重い手片手で顔を覆った。





「はい。覚えておりますが、黒い物に支配されてからここで目覚めるのまでの記憶がございません」






ボーキンは自分が西の国に対して犯した罪を含めて、思い出せるところまで正確に告げた。



カステオは、いっそ記憶が失っていてくれればとも思ったが、そう都合よく記憶が失われなかったことを残念に思った。






「そうか……とにかく今は、ゆっくりと養生するがいい。そのあと、いろいろと話しを聞かせてもらうぞ……」



「……はい」






ボーキンは絶望が混じった、身体に似合わない弱々しいで返事をした。




少し離れたベットの横の椅子から立ち上がり、ステイビルはもう一度ボーキンを見た。





「あの……スィレン、私の妻は?」



「あの者は、お前が避難させた宿屋に待機させておる。あの者はまだ、事情は知らないようだな。念のため、アーリスという警備兵をつけておる」



「……ありがとうございます」






その言葉を聞き、ボーキンは手で顔を隠したまま嗚咽を必死に我慢していた。





カステオはその場で後ろを振り返り、ベットを背にした。

そしてすぐに歩き出さずに、下を向いて床を見つめている。





そして大きく息を吸い込んで、ボーキンに告げた。





「……ボーキンよ、お前の行った行為は決して許せるものではない。お前には、罪を受けてもらわなければならない。そして、お前が何故そのような行動に出たのかをも聞かせてもらうことになる」






その言葉を聞き人生の最後を覚悟したボーキンの嗚咽は、さらに強くなって我慢の限界寸前まできていた。







「だがお前は、国のことをよく思いよく働いてくれた。その事実や功績も忘れたことはない。……だから、決して悪いようにはしないつもりだ」






カステオは決心した顔で少し肩越しに後ろを振り向き、まだ顔を隠しているボーキンの姿を視界の端でみる。







「ひとつ今まで、お主に言えないことがあった。……『すまなかった』。そして、『ありがとう』」





今まで伝えられなかった言葉を伝え、カステオは再び前を向き扉に向かって歩き出す。



カステオが部屋を出た後、従者が扉を閉める。

その音を聞いた後、フェルノールの笑顔がカステオの脳裏に浮かんだ。






扉の向こうから、我慢できなくなったボーキンの声が響き渡った。







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