2-101 黒いもの






「ねぇ、その剣の効果ってフーちゃんと同じ効果を持つんじゃないの?」






ハルナはエレーナに確認し、シュクルスにそう告げた。






「あ、それはあのコボルドの長の”黒いもの”を溶かしたという力ですか?」



「そうです。フウカ様は、あの黒いものを消し去る力をお持ちなのです。私たちが初めてその力を目にしたのは、ラファエル様でした」



「であれば、フウカ様もラファエル様と同じ力をお持ちなのですな……もしかして、風の精霊様は皆さん同じことができるのですか?」



「そうではない様です。私の水の精霊”ヴィーネ”もハイレイン様の精霊とは使える能力が異なっています」







だが今回は精霊ではない道具の力による効果で、”黒いもの”を対処できたことが確認された。

しかし、残っている炭に対してその存在を消滅させることができるか確かめてみるが、フウカが行うと消えたがシュクルスが剣で切っても消えることはなかった。




いろいろと剣の効果について試したり玄関の修復を行っていると、空が明るさを帯びて、日が昇り始める時間となっていた。





翌朝、ハルナ達はコボルドの長を呼んだ。

このアンデットの確認と、森の中に何か異変が起きていないかを確認するためだった。





『……確認しようにも、この”炭”では何が何だかわからなんではないか』



「あ、やっぱり。そうですよね」






クリエは、申し訳なさそうに応えた。

次は炭にした本人であるルーシーが、長に質問した。







「そうですか。それでは、森の中に何か異変は起きませんでしたか?例えば、行方が分からなくなった方がいるとか、黒いものにとりつかれている方がいるとか」



『不明者は最近では聞かないな、人間と争っていないのでそれによる被害は起きていない。黒い物についても、我が兄の件があってからそういう兆候が表れた場合にはすぐに報告するように伝えてある。が、まだ報告は一つも届いていない』



「そうなると誰が何のために襲わせたのか、全く想像できないわね」






エレーナが頭を掻きながら、ため息交じりに話す。




「とにかく、私たちが狙われているのは確かだから、警戒したほうがいいわよね。コボルドさんも、私たちと繋がっているっていうことがバレていると思いますから、注意しておいてくださいね」




『うむ、分かった。また、何かあったら知らせよう』





そう言って、コボルドの長は山に戻った。









そして、後片付けをしていたところにまた新たな訪問客が訪れた。





「これは、どうやら私のために入りやすくして頂いたようで」



「ゴーフ、よく来てくれた!」




ゴーフと呼ばれる男は、ハルナたちにも見覚えがある。

あの山の火事の時の悪い印象は、今はもうなかった。






「冗談はさておき、これは何が起きたのですか?」



「実はな……」




ボーキンは今到着したばかりのゴーフに、どうしてこのような状況になったのかを、昨夜からの経緯を説明した。




「襲わせたのは、フェルノールの可能性が高いですね。あの女はここ数日、押収品や拾得物を調べていました。多分その”剣”を探していたのでしょう」




ゴーフは馬から降りて、手綱をその辺りの木に巻き付けた。



「そして、昨日からばったりとその行動を止めてしまったのです。警備兵に、武器の届け出があれば連絡させるようにしていたのですが、その連絡ももういいという通達が出ていました」




「それは、その剣の行方がはっきりとしたからでしょうね」



アーリスがゴーフの話にかぶせて、昨日の控室での出来事を話した。





「やはりフェルノールがその剣を探しており、それを奪いに来ていた可能性が高いですね」




ゴーフも散らかったが家の中を片付けながら、フェルノールが関与している可能性を疑う。




「しかし、生きた知能のある魔物なら手なづけたりすることも可能だろうが、アンデットと交渉が成立するのか?」




ゴーフは少し迷いながらも、ある噂話を口にする。





「これは、あくまでも”噂”なんですがね……過去数か月の間に、行方不明の事件は起きているのはご存じですか、ボーキン様?」



「それについては、先日起きた事件はエルメトから町の者から相談があったと聞いている」





ボーキンは話しながら倒れていた重い銅像を軽々と起こし、持ち上げて元の位置に戻した。




「その事件が起きた夜に、フェルノールは町まで外出しているんですよ」



「……目撃者がいるのか?」



「町の中ではいませんでしたが、外出する際に夜間を担当している警備兵がその姿を遠くから見たという証言もあります。それに、フェルノールが王宮にカステオ王子の従者として入ってから、この事件は起き始めています」



あの城下町の裏通りでは、ケンカは日常茶飯事に行われており稀に、限度を越えたり運が悪く命を落とすこともあった。

だが、その消息が不明になるということは全くと言っていいほどなかった。





「ふむ……怪しいことは怪しいな」




何故かフェルノールとはまた会うことになる気がして、シュクルスもその場で話を聞いていた。






「その警備兵の証言からなんですが、どうも外出する時には長いローブに身を包みんでフードで顔を隠して出ていくようです」



「隠れて出ていかなければならない理由がある……と?」





通常、王子の従者であればどんな時間でも王宮内には出入りが可能である。

それでも隠れて外出するとなると、やはり後ろめたいことをしていることが十分に考えられる。




「よし、今日からフェルノールの周辺も調査していこう。ただし、決して悟られてなならんぞ」



その場にいる一同は返事をし、いったん片付けを注視して朝食をとることにした。







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