2-100 一撃






ボーキン宅へ向かう帰りの馬車の中、アーリスは上機嫌だった。





「あーすっきりした!シュクルスさん、あなたも結構やるわね!」


「いえ……あの時は必死で。それに、あの亡くなられたビルメロさんっていう方が可哀想に思えて」





シュクルスは剣を抱えて、下に俯く。






帰り道に、控室で起きたことをボーキンに説明した。





「そうか、そんなことが……」





ボーキンはフェルノールの剣に対するこだわりがに気にかかった。

偶然にも、その剣がこちらの手に入ったのは小運かもしれない。剣をもとに交渉することも視野に入れることができる。





「それにしてもこの剣は、一体……」





切れ味は普通、汚れや刃こぼれもない。剣の扱いに慣れている者ならば、容易に扱えるだろう。

変わったことといえば、本来シュクルスなら重く感じる剣だが、シュクルスにとっては普通の剣と同様に扱うことができるということだけだ。




ボーキンたちは、家に着いて今日の出来事を報告した。



明日から、正式に王選の協力者を探す行動を起こすことになる。

町も物騒なことが起きていることも伝えられ、ハルナたちに協力をお願いした。








そして、その夜……





……ドン!……ドン!



「な……何事だ!」





尋常ではない音に、ボーキンは寝床から飛び起きた。

エルメトがボーキンの近くに寄って来て、安全を確認した。





「大丈夫ですか。ボーキン様!」



「あぁ、私は大丈夫だ。ハルナさんたちは無事なのか?」



「はい、東の国の方は音のした反対側の部屋でお休みになられております」






この音に飛び出してきたのは、アルベルトとアリルビートだった。






「皆さん、ご無事ですか?」



「こちらは大丈夫です、アルベルトさん。そちらは?」



「大丈夫です……しかし何が起きているのかさっぱり」





壁に何かがぶつかっている音は、いまも継続的に続いている。





アリルビートは、エルメトに声を掛け状況を確認することを提案した。

ボーキンはアルベルトの意見に同意し、エルメトにアルベルトと一緒に様子を見てくるように指示した。





一階に降りると、玄関から大きなものがドアにぶつかる音がする。

そのたびに、両開きドアがその衝撃でひどく歪んだ。


そして、とうとうそのドアが無残にも破壊されてしまった。





――ドガッ




『キシャ―!!』




そこにいたのは、人ではなく魔物の姿がそこにあった。





「く、こんな時にコボルトが!?」



「よく見てください。あれはコボルトですが、既に正気を失っている」






アルベルトは、ざっと見て十数体いることを確認する。

そして二人では敵わないと判断し、応援を呼んできてもらうようにエルメトに告げた。



アルベルトは、中に入ろうとするアンデッドを攻撃して防御する。

ただ、切り落とすとその黒い血が剣を徐々に浸食していく。


そのため、剣が相手を切る武器として能力が失われていった。


アルベルトは次第に切ることから、刺すことや叩きつけるようになっていくが、半分以上残ったアンデットの対応は難しくなってきた。




――パキィッ



とうとう剣が耐えられなくなり、真っ二つに折れてしまった。



それでもアンデッドはアルベルトに襲いかかってくる。






――ザシュッ





アルベルトの目の前のアンデット二匹が、氷の槍で串刺しになる。






「アル、大丈夫!?」




「あぁ、助かったよ。エレン……どうやらこいつら、あの森でみたアンデットみたいだ」



「これが……アンデッド」





ルーシーも初めて見たようだった。ソルベティからは聞かされていたが、現実に目にするのはこれが初めてだった。


アンデッドの対処は炎で焼きつくすと聞いていたが、家の近くで行うと火事になりそうだった。





「だれか、アンデッドを外に出してくれませんか?そうすれば炎で焼きつくします!」



「わかりました、風で押し込んでみます」





ハルナは玄関の中に入ったアンデットを、風で押し戻した。

風の威力で、装飾品などが床に落ちて割れてしまったが今はそんな時ではなかった。




「じゃあ、閉じ込めますよ!」





家の外に出たことを確認した、クリエが石の壁でアンデットを閉じ込めた。



四方を壁でふさがれたアンデットたちは必死に壁を叩きつけて脱出しようとするが、硬いもので壁を打ち付ける音がするだけでビクともしなかった。



そして、ルーシーが真っ白に焼けた火の玉を石の壁の中に投げ込んだ。

すると、真っ赤な炎がその中で火柱となって吹き出した。




火柱のその火力が衰えることなく数分間続くと、時々炎の中に混じっていた黒い霧が蒸発していたが見えなくなっていた。





「……そろそろ、いいかしら」




そういうとルーシーは火柱を消し、元の元素に還した。

その後クリエは、石の壁を消して中の状態を確認する。


念のため、攻撃態勢を保ったまま黒い炭の塊に近付いて行く。



アリルビートとシュクルスが、剣を抜いて上から黒い塊をのぞき込む。



が剣の先で炭をかき分けて確認し、アリルビートは振り返り問題がないことを告げる。





「どうやら、始末できたみたいですね。いったいなぜ、ここを襲ったのか……」





そう言いつつ、剣を鞘に仕舞う。





――ドクン




またシュクルスの心臓が強く拍動する。




すると黒い炭の塊の中心から、アンデットが飛び出してアリルビートに襲い掛かる。

アリルビートは既に柄から手を離しており、至近距離からの攻撃に間に合わなかった。



目の前の出来事が、スローモーションで流れていく。

シュクルスは手にした長剣を握りしめると剣が輝き、カウンターのように飛び掛かるアンデットに向かい剣を振りぬいた。




――ザン





アンデットの身体は上下の二つに分かれ、その身体は蒸発するように消えていった。




「助かったよ……シュクルス。あの一瞬をよくぞ助けてくれた、感謝する」




「い、いえ。無我夢中で身体が自然と、これもいつも訓練していただいてるおかげです」






ハルナとエレーナはアンデットが消滅したその現象に、思い当たる節があった。







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