第10話

俺は、倉見家にお見舞いに来ていた。

倉見がおかゆをつくっている間、俺はただ倉見を見ていた。

「幻滅して、嫌いになるかも。それでもいいの?」

俺は頷く。

俺と倉見は階段を上がり、倉見先輩の部屋に入る。

「茅姉、おかゆ持ってきたぞー」

「倉見先輩、お邪魔しま──」

倉見先輩は、ベッドで横たわっていてこちらに顔を向けていた。

赤く染まった頬。

「リョウぅ~ってばぁ~、遅いよ~。何でぇ~うちを~待たせぇ~たぁの~」

可愛く甘えた声の倉見先輩。

「いつにもまして、ひどいな。茅姉、早く食べて、もとに戻って」

倉見はベッドの下におかゆを置いて、あぐらをかいて座る。

俺は、倉見の横に正座する。

「倉見先輩。大丈夫ですか?」

「あ、ああぁ。見川くぅ~んだぁ、だぁ~いじょーぶぅ、だよ~。リョ~ウ~、食べさせてぇ~」

倉見先輩はおかゆを食べさせてもらおうと口を開けて、待っている。

「はーい、あ──」

倉見がスプーンを口に運ぶときにとめる俺。

「俺が食べさせたい...倉見、先輩に...」

「急にどうしたの。まあ、いいよ。着替えてくるから、茅姉に食べさせといて」

俺は、倉見からスプーンを受け取り部屋を出ていく倉見を見送り、甘えている倉見先輩の口にスプーンを近づけ、おかゆを食べさせる。

「み~か~わくぅ~ん。うちの~ことぉ~、すぅきぃっ?」

倉見先輩が、不意打ちで聞いてきた。

「す...きでぇすぅ。倉見、先輩のことが」

「はぁ~きりぃ、聞こえ~なかっぁたぁ~。もう、いっーか~いぃ」

「好きですっ、倉見先輩のことがっ!」

「うぅえぇ~。赤くぅ~なっちゃ~ってぇ」

そう言いながら、俺の頬をツンツン触ってくる。

「こっちの倉見先輩もいいと...思います」

照れながら言う俺に倉見先輩も照れていた。

倉見先輩の全てが可愛い。愛くるしい。抱き締めたい。だけど、それはいけないことだ。

俺が、倉見先輩の頬に触れようとしたときに扉が開いて、倉見が入ってきた。

「もう寝て、早く治せよ。茅姉。リビングにいこう。治ったら会えるから」

そう言って、倉見は部屋を出ていく。その後についていく。


リビングの椅子に座りながら、話す。

「茅姉に幻滅しないかぁ」

「しないよ。あれほどのことで。驚きはしたけど」

倉見が淹れてくれた紅茶を飲みながら、向かい合って座る。

30分もしないうちに俺は倉見家を後にした。



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