第9話

土曜日の昼過ぎ。

私は、近くの本屋にいた。

気になった文庫本をぺらぺら捲っていると、後ろから元気な声が私を呼ぶ。

「やあやあ。かっちゃんって本読むっけ?」

私は振り向き、声のトーンを低くして返す。

「読むほうだよ、人並みに。蜜梨、似合ってんね。それ」

私をかっちゃんと呼ぶのは、同中で同じクラスの芝縄蜜梨(しばなわみつり)。少し肌がやけている。長い黒髪をヘアゴムで纏めている。

蜜梨が着ていたのは水色のワンピース。

「そうー?かっちゃんに褒めてもらえて、うれっしーなぁー。えのっちとは一緒じゃないんだぁ、意外っ!」

「麻季も用事があるんだから。いつもなわけないじゃん」

蜜梨は何かを考えてるような顔をしてから、笑顔になる。

「それもそっかー。かっちゃんさー、頼みたいんだけどぉ。キュンキュンする映画を観たくて、レンタルコーナーを探してたんだよね。でも何がいいかわかんなくて、一緒に探してっ!かっちゃん、親友でしょ」

親友とは思ってないんだけど、探してあげるか。

「何が観たいの、具体的に。蜜梨」

文庫本をもとの位置に戻し、レンタルコーナーへ二人で向かう。

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