51話:友のため、彼女のため PART2

「「おっぱい!」」


「は?」「えっ」


「おっぱい揉みたいって夕焼けの高台で叫んだんだ!」

「おっぱい揉ませたら、私と付き合ってくれますか? って告白したんです!」


「「…………」」


 不意どころか異次元からの一撃に、草次と奏も口を開けて思考停止。

 通行人や待ち合わせしている人々でさえ、まさかの『おっぱい』ワードに二度見してくる始末。モニュメント周りの時間が止まってしまったかのような感覚さえ味わえる。


 傍から見れば、「バカップル、ついに壊れた……?」と心配になってしまう。

 それでも、本人たちは至って大真面目である。


「俺さ。未仔ちゃんと恋人になる直前に、『このままだと一生童貞』って琥珀にからかわれたんだ」


 語りたいか語りたくないかでいえば、死ぬほど語りたくない。

 それでも夏彦は言葉を続ける。


「悔しかったし、恥ずかしかった。けどさ。それ以上に、『本当にその通りだな……』って納得しちゃう自分が情けなかったんだ」


 平々凡々、流されるままに生きてきた。

 流され続ければ、「いつか自分にも恋人が流れてくるかもしれない」と甘い考えを抱き続けてきた。

 そんなショートケーキにも勝る甘ったるい思考を、琥珀の宇治抹茶100%な言葉によって、現実を一気に突き付けられてしまう。人生はそんなに甘くないことに気付かされてしまう。


「そのときは何も言い返せなくて、逃げるようにただただガムシャラに走って、気付いたら高台にいたんだ」


 話の流れ的に理解しているものの、草次は尋ねずにはいられない。


「……その場所で、お前は揉みたいって叫んだのか?」

「うん! 思いっきり叫んだ!」

「あ、」

「あ?」

「あほだ……」

「~~~~っ! おっしゃる通りだよチクショウ!」


 夏彦だけでなく、未仔も顔を真っ赤に。

 当然である。ド阿呆な叫びに引きずられて、ド阿呆な告白をしてしまったのだから。


 ここで引き下がれば、ただのバカップルの昔話で終わってしまう。

 終わらせるわけがない。


「琥珀だけが原因じゃないぞ!」

「??? 他にも、原因があるのか?」

「ある!」と大きく頷いた夏彦は、勢いそのままに指差す。

「草次! お前が原因でもある!」

「……は?」


 唖然とする草次を横目に、未仔の口からも追撃が放たれる。


「奏先輩にも原因がありますっ」

「わ、私も!?」


 全く心当たりがない2人は、自ずと共同戦線を張ってしまう。


「一生童貞なんて言った覚えはないぞ。……まぁ、夏彦をからかうことが多いのは認めるけど」

「私だって未仔ちゃんにそんな酷いこと言わないよ! ……もしかして、知らない間に傷付けちゃったのかな……?」


 事実無根を主張したい草次と奏なものの、いかんせん過去の話。 断言したいが、どうしても自信が持てない。

 そんな2人の視線に答えるべく、夏彦と未仔は一斉に口を開く。


「羨ましかったんだ」「羨ましかったんです」

「「羨ましい……?」」


 原因=悪いというわけではない。

 キッカケ。

 その言葉が一番相応しいのだろう。


「だってさ。放課後にコンビニ前でたむろしてると、綺麗な彼女が毎回迎えに来てくれるんだぞ? そんなシチュエーション、男子高校生なら羨ましいと思うし、憧れるに決まってるじゃないか」


 未仔は続く。


「中学時代、部活でお料理しながら、彼氏さんの素敵なところやダメなところを笑顔で教えてくれるんですよ? そんな話聞いちゃったら、私にも一緒に過ごせる彼氏ができたらなって思っちゃいます」


 カッコイイ友達。

 尊敬する先輩。

 慕い続ける存在だからこそ、より一層、恋人という存在にも憧れを抱いてしまう。

 今現在は、『憧れ』よりも『憤り』が勝っているのだろう。


「だから、納得がいかないんだよ!」

「そうです! 私たち納得できません!」

「「!?」」


『不満アリ!』な夏彦と未仔の威圧に、二人は肩を跳ね上がらせる。


「俺と未仔ちゃんの理想のカップルが、いつまで喧嘩してんだよ! 何で素直にならないんだよ!」


 夏彦は知っている。彼女を喜ばせようと、こっそりバイトしてまで記念日のプレゼントを買おうとしていた草次の姿を。


「恋人同士なら安心させてあげればいいじゃないですか! 好きなら好きって伝えればいいじゃないですか!」


 未仔は知っている。彼氏が褒められると、まるで自分が褒められたかのように顔を綻ばせる奏の姿を。

 夏彦と未仔は知っているのだ。この2人は素直になれないだけで、自分たちと同じくらい恋人のことを大切に思っていることに。


 気付けば、あれほど距離を離そうとしていた草次と奏の足は止まっている。見つめ合うとまではいかないが、視線は行ったり来たりと相手の様子を伺い続けている。

 今まさに、なんて声を掛ければいいかを悩んでいるのだろう。


 悩む2人のかたわら、夏彦と未仔が意思疎通を図る。

 活気づいた祭りの夜は、夏彦の気力に満ち溢れた表情、未仔の凛とした双眸を照らすには十分すぎる。

 何よりも、自分たちを後押しするには十二分すぎる。

 決意を確認し合えば、互いの身体は自然と動き出す。


 二人の間隔が、触れ合えそうな距離から触れ合える距離へ。

 草次と奏の視線などお構いなし。夏彦が彼女の華奢な肩へ手を優しく添える。

 注目する周囲の視線などお構いなし。未仔が彼氏の身長に合わせようとゆっくり爪先立つ。


 そして、唇を重ね合う。






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物語もいよいよ終盤。

最後まで楽しんでいただければと!


そして、5/1(土)は『おぱもみ』2巻発売っ。

GWは未仔にバブ味を感じてオギャっちゃって!!!


↓公式ページ↓

https://sneakerbunko.jp/series/oppai/


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