50話:友のため、彼女のため PART1

 市街地から少し離れた港町こそ、夏彦たちの目的地。

 観光地であり、デートの定番スポットでもあるこの場所は、港を周回する遊覧船、海や街を見渡せる展望タワー、大きな観覧車が付属した複合ショッピングセンターなど。日没になれば多くのイルミネーションが幻想的な世界へと導いてくれる。


 そんな夜景の名所が、本日はより一層の賑わいを見せていた。

 18時手前の現在、見渡す限り人・人・人。

 波止場や大広場、隣接する緑地公園などには多くの屋台やキッチンカーが立ち並び、特設ステージにはアーティストやパフォーマー、交通整理された大通りにはマーチングバンドやブラスバンドなどのパレードが賑わいを見せている。


 そう。本日は夏彦が待ちに待った、みなと祭りの日。


 駅から会場目指して歩く道中、すっかり祭りのことを忘れていた草次が、夏彦と琥珀に尋ねる。


「何で俺に黙ってたんだ?」

「だってさ。普通に『祭り行こう』って誘っても、人混み嫌いな草次は来ないでしょ」

「せや。人嫌いな草次のことやから、『俺パス』って断るの見え見えやもん」

「……まぁ、否定はできねーか」


 行動パターンを読まれ、草次は溜息付くことしかできず。


「ナツくーん!」


 波止場前のモニュメントへと到着したと同時。聞き馴染みのある愛嬌たっぷりな声が、夏彦を呼び掛ける。

 最愛の彼女、未仔だ。


「お待たせ、未仔ちゃ――、!!!」


 未仔が視界に入った瞬間、夏彦は思わず言葉を失ってしまう、目を見開いてしまう。


「えへへ……。おめかししちゃいました♪」

(か、かわええ……!)


 THE・浴衣姿。

 空色ベースの生地に色彩鮮やかな花々が咲き誇り、未仔という一輪の花をこれでもかと引き立たせる。

 まさに和洋わよう折衷せっちゅう。腰に巻かれた帯は大きなリボンのようにも見え、日本と西洋の文化が見事に溶け込んでいる。浴衣のはずがドレスやワンピースのような華やかさすら与えている。


 普段はあどけない彼女が、大人っぽかったり、色っぽかったり。

 夏彦が見惚れるてしまうのは至極当然の理。


「夏祭り、最高です……!」


「もう最高になっちゃったの?」と未仔にクスクス笑われてしまえば、夏彦の最高値はさらに更新。脳内が祭りでワッショイ。


 普段の琥珀なら、容赦ないツッコミをお祭り男に食らわしていたに違いない。

 しかし、今は夏彦に構っている場合ではないようで、


「「コハク♪ コハク♪」」

「おーおー。相変わらず元気いっぱいやねー」


 親戚のおっさんチックに琥珀がしゃがみ込めば、瓜二つなキッズ、ミッちゃん&サッちゃんが琥珀の周囲をグルグルと全力でお出迎え。


「あ……? 何でミキとサキが――、」


 状況を飲み込めていない草次だったが、さらに状況が理解できなくなる。


「そ、そーちゃん?」


 奏に声を掛けられたから。

 彼女もまた浴衣姿で、雪輪模様の和柄があしらわれた涼しくも清楚なコーデ。高く結ばれた髪、ワンポイントのかんざしなどが一層に夜を映やし、『大和撫子』という表現がとてもしっくりくる。


 草次同様、「どうして、そーちゃんが……」と、奏も目の前に彼氏が現れたことを理解できず立ち尽くしてしまう。

 見つめ合う2人に、夏彦は意を決して告げる。


「俺と未仔ちゃんが仕向けたんだ」


 予め一緒に夏祭りを回ろうなどと言おうものなら、両方に断られるのは目に見えている。だからこそ、草次と奏には互いの存在は伏せて、この場に居合わせるように計画した。


「こっちが黙ってた本当の理由か……」


 夏彦たちの勝手な行動に腹を立てているというよりは、虫の居所が悪いといった様子。

 奏を見つめる草次の視線には困惑の色が宿っており、まともに顔を合わせるのは本当に久しいようだ。

 当然、奏にも同じことが言えるからこそ、


「……」

「……」


 ただただ気まずげに互いを見つめ合って膠着こうちゃく状態。

 ついには、我慢の限界?


「……俺、帰るわ」「か、帰ります!」


 感情の整理ができていない2人は、案の定、その場から離れようと足を動かす。


「帰らせない!」「帰っちゃダメです!」

「「!?」」


 夏彦は草次、未仔は奏の腕を掴む。絶対に離すものかと両手でガッチリと。

 プールでの一件では、何も言えなかった。何もできなかった。ただただ状況に流され、頭の中が真っ白になってしまった。


 しかし、今は違う。頼もしい味方こいびとがいる。

 最愛の人と一緒だからこそ、夏彦と未仔は勇気を持って行動することができる。


「さーて。ウチらは先、夏祭り楽しんどこか」


『恋人同士の問題は恋人に任せた』と言わんばかり。双子をひょいと回収したと琥珀が、ゆっくり立ち上がる。

 大体の流れは夏彦から事前に聞いているし、そもそも聞かなくても自分の役割を悪友は理解している。


「ミキとサキは美味いもん食いたい? ゲームして遊びたい?」

「「どっちも!」」

「ははは! 素直でよろしい!」


 大きく笑う琥珀は、「てなわけやから、また連絡よろしくー」と夏彦たちに別れを告げ、キャッキャッはしゃぐ双子を両手に、屋台が立ち並ぶゾーンへと向かっていく。


 琥珀の背中は、楽天家すぎるといえば、すぎるのだろう。

 けれど、無関心や無責任というわけでは決してない。

 信用しているのだ。親友のことを。


 琥珀や双子たちの姿が見えなくなれば、それは決戦の合図。


「な、夏彦……?」「未仔ちゃん!?」


 草次と奏の腕を掴んだまま、一歩、二歩と夏彦と未仔が距離を縮め合う。

 一歩近づく度に、夏彦の心臓の鼓動が高まっていく、未仔の体温が熱っぽくなっていく。


 余計な世話を焼いているのでは? と心配にもなる。

 実際焼いているのだろう。草次には余計なことは言うなと釘を刺されているし、奏だって愚痴は吐いたが相談を持ち掛けてきたことは一度も無い。


 お節介この上ないし、不安や緊張で押し潰されそうになる。

 それでも夏彦と未仔は負けじと歩き続ける。諦めようとはしない。

 ついには、彼氏と彼女の距離が目前へ。


 そして、



「「おっぱい!」」


「は?」「えっ」


「おっぱい揉みたいって夕焼けの高台で叫んだんだ!」

「おっぱい揉ませたら、私と付き合ってくれますか? って告白したんです!」


「「…………」」


 不意どころか異次元からの一撃に、草次と奏も口を開けて思考停止。






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【お知らせ①】

おっぱいフレンズの皆さん、長らくお待たせしました。

『おぱもみ』の2巻が5/1(土)に発売です!


書影やあらすじ、店舗特典なんかも公開されているので、是非チェックしてみてください。( ゚∀゚)・∵.oppai!!


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歯ブラシする未仔、水着姿の未仔、浴衣姿の未仔。

他にも、あんな姿やこんな姿も……?


WEBでは収録していない未仔視点の話も書籍では少しばかり追加。

ここで繋がるのか……! と鼻血出すこと必至。

お楽しみに!



【お知らせ②】

今現在、おぱもみ第3シーズンに向けて執筆中。

次シーズンも楽しんでいただけるように頑張っていきます!

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