47話:彼氏彼女の心情 PART1
夏彦と未仔が向かった先は、以前訪れた草次の家。
ではなく、草次の家から目と鼻の先にある一軒家。
奏の家である。
今現在はリビングへと案内され、腰を下ろしているのだが、
「ナツミコ♪ ナツミコ♪」
「ナツミコ♪ ナツミコ♪」
草次の双子の妹、ミッちゃん&サッちゃんは相変わらずテンションMAX。夏彦や未仔の周囲をぐるぐる回ったり、謎の踊りを披露したり。
「こらっ。お行儀良くしないと、おやつあげないぞー」
「「はーい!」」
エプロン姿の奏に注意され、双子たちはテトテトと自分たちの席へと腰下ろす。
そんな微笑ましい光景に夏彦と未仔が癒されていると、奏はテキパキと人数分の小皿を並べ、チョコレートのたっぷりかかったドーナッツをひと皿ずつに載せていく。
「すいません。俺たちまでドーナッツご馳走になっちゃって」
「気にしなくて、いいのいいの。この前のお詫びも兼ねてだから」
『この前』の意味するものがプールでの一件なことは丸分かり。
「2人とも本当にごめんね。私たちの喧嘩に巻き込んじゃって」
「と、とんでもない! あんなもん、誰がどう見ても誤解しちゃいますから!」
奏に謝罪されてしまえば、夏彦も負けじと頭を下げてしまう。
さすがは夏彦の嫁。互いの
そのまま、夏彦の腕へとぴっとり寄り添う。
「えへへ♪ この通りなので、私たちは全く怒ってなんかないです」
ひと悶着あろうが無かろうが、関係が修復できれば何も問題はない。
一層と愛情が深まったラブアピールを目の当たりにすれば、奏はホッと胸を撫で下ろす。
そのまま、クスクスと指を押し当てて微笑む。
「本当だね。いつもの仲良しカップルさんだ」
「はいっ!」「はいっ♪」
奏に褒められ、二人は見つめ合ってニッコリ。イチャイチャするのが我慢できないと、互いに半歩ずつ寄り添って一層のラブニケーションを
調子に乗り過ぎた?
「それに引き換え、バカそーちゃんは……!」
「「……」」
幸せオーラを一瞬で覆いつくす、奏の禍々しいオーラ。
先程の草次に負けず劣らずのムッスリ加減に、さすがのバカップルもこのタイミングでイチャつくのはお門違いと、半歩どころか1歩分の距離を開ける始末。
ドーナッツを和気あいあいと食べていた双子でさえ、互いの口を塞ぎ合ってだんまりを決め込むのだから、泣く子も黙る恐怖仕様である。
茶の間が闇落ちする間際、ハッ! と奏が我に返る。
「ご、ごめんなさい……。お見苦しいというか、お恥ずかしいところを見せちゃって……」
やはり、草次に対する根は、結構な深さがあるようだ。
ビビッてしまったものの、ここまでは夏彦と未仔の予想どおり。
だからこそ、夏彦は笑顔で胸を張る。
「今日は奏さんが持ってる不満を、俺たちに思い切りぶつけちゃってください」
「えっ?」
羞恥から一変。目を見開いて驚く奏に、今度は未仔が優しく話しかける。
「溜め込む必要なんて何1つないですよ。聞くことくらいはできますから、ね?」
二人がこじれる理由を調べに、夏彦と未仔は奏のもとにやって来た。
それでも、ただただ情報を入手しにきたわけではない。
少しでも奏の心を晴らすため、これ以上関係を悪化させないため。
お人好しカップルの笑顔に、奏は思わず本音が零れてしまう。
「……聞いてもらってもいいの?」
「いいに決まってるじゃないですか。だよね、未仔ちゃん」
「はい♪ ドンと来いですっ!」
夏彦と未仔の頼もしすぎる、嬉しすぎる発言に、
「~~~っ! 君たちは本当に良い子っ!」
「うおう!?」「ひゃっ……!」
いつぞやの激しいスキンシップ再来。『こんなに健気な後輩たちを愛でないでどうする』と、感極まった奏がテーブルを回り込んで、勢いそのままにダイビングハグ。
「くすぐったいですよう」とどこか嬉し気な未仔とは打って変わって、
「かかか奏さんっ!? 未仔ちゃんはともかく、俺はまずいですって!」
「え~! だって二人とも可愛いんだもん♪」
「可愛い君たちが悪い」と謎の理論を押し付けられれば、この流行に乗り遅れるわけにはいかないと、双子たちもハグ祭りに参加する愛らしさ。
そして、全力の愛情表現を終えた奏は、「よしっ」と大きく頷く。
「「?」」
首を傾げる夏彦と未仔を尻目に、奏はキッチンへと小走り。
冷蔵庫から何やら取り出すと、抱えて戻ってくる。
そのブツは一升瓶の日本酒。
ではなく、ファミリーサイズのコーラ。
「お酒は飲めないけど、それっぽい飲み物のほうが気分出るでしょ?」
「「な、成程……!」」
「さーて! たっぷり聞いてもらうから、覚悟してね?」
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