41話:破局? それとも……? PART1

 バイトに戻った夏彦だが、以降の記憶が曖昧だったのは言うまでもない。

 あれだけド緊張していた水着お姉さんを前にしても、「お姉さん? ナニソレ美味シイノ?」状態。無心というか死んだ目で仕事をこなし続ける。悟りの境地。

 それはそれでスタッフとしては有能だから皮肉なものである。




 茜色に染まった夕暮れ時。人生初のバイトも終わり、夏彦と草次はシャトルバスに揺られていた。


 夏彦は後部座席からぼんやりと車内を見渡す。興奮冷めやらぬといった印象で談笑する若者グループであったり、疲れ果てて寝息を立てる子供たちであったり。

 勿論、未仔や奏の姿が見当たるわけもなく。


 瞳の滲みを、窓から差す西日のせいに夏彦がしていると、


「悪かったな。夏彦や未仔ちゃんまで巻き込んで」

「いや、誤解なわけだし草次のせいじゃ――、」


 夏彦は思い出す。いくら誤解とはいえ、奏に対してちっぱい発言したり、記念日を忘れたフリをしていたことを。


「……謝られる理由は重々あるかも」

「だから謝ってんじゃねーか」


 苦笑う草次は、夏彦が何を思い出したのかを理解している。

 それでも納得がいかないことが己にもあるのだと、自身の太ももに肩肘つく。


「だって腹立つだろ。俺がプールに来た理由を、自分の貧乳に結び付けてんだぜ?」

「……。返答しづらい発言されても困るんですけど……」

「『仮にお前が巨乳でもプールに来てたぞ』って皮肉を我慢しただけでも褒めてもらいたいくらいだ」

「ははは……」

「なんだよ。未仔ちゃんは胸大きいから無縁の話とか思ってんのかよ」

「お、思ってないわ!」


 まだツッコめる力は残っていることに安心したのか。草次は白い歯を見せてケラケラと笑い続ける。

 終着点、駅前のロータリーへと到着した夏彦たちは、乗客共々バスを降りる。

 草次は大きく背伸びしつつ、夏彦へと尋ねる。


「この後、どうする? 飯くらいなら奢るけど」


 シンプルに夏彦は驚く。『あの』草次が、己から食事に誘ってくれたことに。

 夕飯にしては少し早い時間帯とはいえ、今日一日のカロリー消費量を考えると腹もペコペコ。初めてのバイト体験故、色々と語り合いたい気持ちだってある。


 けれど、


「ごめん! 今日はもう帰るよ」


 夏彦の頭に浮かび上がるのは、やはり大好きな彼女。

 今すぐにでも未仔に謝りに行きたいし、誤解を解きに行きたい。何より、一刻も早く不安を払拭してあげたい。

 両手を合わせて謝罪する夏彦だが、草次としては予想どおりすぎる回答。


「気にすんな。未仔ちゃんとこ行くんだろ?」

「うん。直接会って、誠心誠意謝ろうかと……!」

「『バイトは草次に付き合わされた』って言えば、未仔ちゃんも許してくれるだろ」

「バイトしてたこと言ってもいいの?」

「そんなこと気にしてる事態でもないしな。けど、」

「けど?」

「俺がバイトしてた理由は伏せろよ?」


 草次がバイトしてた理由。すなわち、奏に誕生日プレンゼントを渡すため。

 夏彦には理解できなかった。

 というより、そうあってほしくなかった。


「それって、奏さんにまだプレゼントを渡すからだよね……?」

「……」

「そ、草次も――、」

「俺は謝らないぞ」

「っ!」


 どこまでもお見通しだと、草次は夏彦の言葉を遮る。


「ガキっぽいって思うかもだけど、腹立つもんは腹立つからな」

「で、でもさ!」

「そもそも、心の整理が付いてない状態で謝られても嬉しくないだろ」


 正論なだけに、夏彦は言い返せない。


「俺だって誕生日くらい覚えてるっての」

「草次……」


 小さく吐き出した言葉には、怒りや苛立ちの感情よりも、『ね』が込められてるような気がした。

 信用されていないのは自分に非があることを頭では分かっている。けれど、心では理解できていない。

『心の整理』という言葉を使ったのは、そういった理由だろうか。


 夏彦は質が悪いと思った。子供っぽい意固地さを出すくせに、基本思考は大人だから。

 同時に、自分がどうこう言って解決できるものではない歯がゆさも感じる。


「ほら、さっさと行け」

「う、うん……」


 いつもの余裕たっぷりな笑みで手払いされてしまえば、夏彦も頷かざるを得ない。






 駅前で草次と別れた夏彦は、駅のホームでスマホと睨めっこしていた。


『都合が良いタイミングで大丈夫なので、電話させてください』


 この一文を未仔に送信したいのだが、中々に心の準備ができず。

 まるで自爆ボタンのスイッチのような。押してしまえば、「未仔と過ごしてきた幸せな日々が吹き飛んでしまうのではないか」と良からぬ想像までしてしまう。


「まだ友達と遊んでいるかもしれない」「日を改めたほうが良いかもしれない」「長文のほうが印象が良いかもしれない」「連絡が来るのを待っているほうが良いかもしれない」


 様々な『かもしれない』案が浮かんでくるのだが、どれも自身のネガティブさから来ているのは丸分かり。


 何度目かの構内アナウンスが耳に入ってきたタイミング。


「ええいっ! 何を今更!」


 夏彦は意を決する。この時間が勿体無い、何もしないことが一番ダメなことなんだと。

 勢いそのまま、指紋がクッキリ付くくらい、送信ボタンへと親指を押し付ける。


「うお!? 早っ!」


 神頼みする間も与えないほど。1分どころか10秒も掛からないうちに、メッセージに既読が付いたではないか。

 さらには、


「電話!?」


 この時が来るのを待っていたかのように未仔からの着信が入る。

 ベンチに座っている場合ではない。夏彦は反射的に立ち上がると、通話ボタンをタップ。


「も、もしもしっ!」

『あっ……。今って、大丈夫だった?』

「全然大丈夫だよ!」


 数時間前にも会っていたにも拘らず、とてつもなく久々な気がしてならない。

 声を聞けたのに安堵より不安が勝ってしまうのは、未仔の声に戸惑いを感じているからだろう。


『えっとね……、』

「う、うん」


『今から会える、かな?』






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【感謝】

「おぱもみ買えたよー」というメッセージを、多くのフレンズからいただき、感謝の気持ちでオッパ――、いっぱいです!


報告だけでなく、多くのフレンズが温かいコメントをくれたり、RTやレビューなんかもしてくれたりして、本当に励みになるし、本当に助かっています。

マジ頼もしいッス。(TдT)


今後も一緒に盛り上がっていきまっしょい!!!



普通の書店でも既に並んでいるようなので、年末おっぱい祭りを開催したいフレンズは本屋さんへ足を運んでみてくださいね ✌(◔౪◔ )✌




【暇つぶしにどうぞ】

『構って新卒ちゃん』の連載版も不定期投稿をスタートしたので、暇が有り余ッティな方は是非是非。

日本酒好きの先輩LOVEな後輩ヒロインです。

社畜さんのバイブルになれば幸い( ̄^ ̄)ゞ


-作品はコチラから-

https://kakuyomu.jp/works/1177354055408420052

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