39話:バイトデビューは甘くほろ苦く PART4

 夏彦と草次が振り返る。


「あっ。久方さんと沢北さんだ」


「偶然だねー♪」と微笑みかけてくるのは、久方ひさかた涼花りょうか

「伊豆見いるとか珍しい!」とラッキーハプニングに目を輝かせるのは、沢北さわきた朱莉あかり

 どちらとも、夏彦たちのクラスメイトである。


 涼花はクラス委員長を務めつつ、所属する陸上部では好成績を納める文武両道系女子。今日も高めに結ばれたポニーテールが良く似合っているし、ワンショルダータイプのビキニがトレーニングの賜物たまものである引き締まった肢体を存分に輝かせている。


 朱莉はクラスでも1番目立つと言っても良い女子だろう。いわゆるギャル系で、本日はウォータープルーフのメイクで水対策バッチリ。トレンドをしっかり押さえたハイウエストなビキニも組み合わされば、ティーン誌でスナップされそうな華やかさがある。


 涼花と朱莉が、「「こっちこっち!」」と手を振ってアピールすれば、同じく見覚えのある女子たちが遅れてやって来る。


 2‐Bの女子たちが水着姿で降臨。

 サイドが紐タイプであったり、ざっくり胸元が強調されていたり、ちょいハイレグだったり。「ちょっと挑戦した水着にしよう」と教室で盛り上がっていたのは、嘘ではなかったようだ。


 レジャープールあるある。水着女子、羞恥心薄れがち。


 夏彦が視線を泳がせてしまうのはキョロ充の性。RPGで同行する女キャラ全員を水着コスにチェンジさせてしまった背徳感さえ感じてしまう。

 そんな童貞丸出しな行動などつい知らず。朱莉がジャグジーへと片足を入れる。


「えっ! 入るの!?」

「別に水着同士なんだからいーじゃん。てか、傘井は彼女いるのに、ウチらもやらしい目で見る感じ?」

「と、とんでもない! 俺は未仔ちゃん一筋だから!」

「だよねー♪」


 朱莉がケラケラ笑えば、もう拒まれる理由はないと、肩までしっかり入水。

「私もお邪魔しまーす」という涼花を筆頭に、他の女子たちも次々とジャグジープールへ。ちょっと恥ずかしがっている女子でさえ、「これもひとなつの経験だよねっ……!」と思い切って混浴チックなイベントに参加。

 あっという間に男子2人に対し、女子7人の豪華ハーレム風呂が完成してしまう。


 イケメンは勿論、フツメンにも需要があるらしい。

 涼花を含む恋バナ大好き女子3人が、リア充である夏彦の両隣へ。


「ねーねー! 傘井君の彼女って1年生だよね? どこで知り合ったの?」

「え、えっと……。妹の小学時代からの友達で、俺もちょくちょく一緒に遊んでた感じ、かな?」

「そんな昔からの知り合いだったんだ! いいな~、私も年上男子から告白されたいなぁ」

「あ、いや……。未仔ちゃんのほうから、その……、告白してくれたんだよね……」

「「「マ!?」」」

「うおう!?」


 夏彦のカミングアウトを引き金に、水着の女子3人がさらに目を輝かせて急接近。

 熱愛報道の記者会見的な?


「彼女、超一途じゃん! 何て告白されたの?」

「アタシ的には、傘井が何てOKしたか気になる!」

「傘井君っ! 馴れ初めをもっと詳しく!」

「~~~~っ! 恥ずかしいから、もう勘弁して!」


 前々から人畜無害キャラの夏彦だが、彼女をゲットしたことで一層と無害っぷりに拍車を掛けているようだ。


 一方その頃、草次。朱莉を主体としたABCD包囲網。


「伊豆見、肌キレー! すべすべー♪」

「朱莉だけ触ってズルい! ってことで、私にも触らせて~♪」

「だったらアタシも!」「ついでにワタシも!」

「あのな……。俺にも彼女いるんだけど……」


 草次としては牽制球を放ったつもり。

 けれど、朱莉たちにとっては甘めの絶好球。


「あっ。伊豆見に彼女いても、ウチら全然平気だから!」

「は……?」

「ウチらにとっての伊豆見は、推しの俳優とかアイドルみたいな感覚なわけ。だから、『好き』っていう気持ちよりも、『尊い』の気持ちが強いんだよねー♪」

「「「ね――――♪」」」

「……。俺は安心していいのか……?」


 呆れ気味な草次の発言や視線も、草次ファンたちにはご褒美でしかない。

 外野の野郎どもからすれば、ハーレムジャグジーに頭からダイブしたいだろう。

 とはいえだ。いくら幸せシチュエーションであろうと、心に決めた彼女がいる夏彦にとっては心臓に悪いだけ。


 故に、


(全員琥珀、全員琥珀、全員琥珀、全員琥珀、全員琥珀…………!)


 新技、『琥珀多重影分身』を披露。

 披露するが、恋バナにヒートアップする水着女子たちの密着具合が凄まじすぎる。


「なーなー、ナツは未仔ちゃんとチューしたん?」

「いやいやいや。付き合って2ヶ月経つんやで? チュー以上のことも……?」

「ナ、ナツっ! そこらへんの恋愛事情ハヨ!」


(~~~~っ! きょ、距離が近すぎて、このままじゃ誤魔化しきれない……!)


「ナツー、ナツー」と、肩やら腕をぐわぐわんシェイキングされ続ければ、全ての女子を琥珀へと変換コンバートすることなど至難の業。琥珀ではなく、三者三様な水着女子へと戻りつつある。

 ジャグジーが泡を発生させているのか、己が水を沸騰させているのか。


 羞恥メーターが振り切れる寸前だった。




「ナツ、君……?」




「へ……?」



 幻聴? 幻覚?

 否。


「!?!?!? み、未仔ちゃん!?」


 振り向けば未仔がいる。






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