38話:バイトデビューは甘くほろ苦く PART3

「~~~~~っ! ダメっ! 全員未仔ちゃんだと幸せすぎて死んじゃう!」

「未仔ちゃんは逆効果か……」


 悶え喜ぶ夏彦を見てしまえば、『未仔ちゃん多重影分身案』失敗なのは丸分かり。


「俺が悪かった。未仔ちゃんは止めとけ」

「えっ……!」

「あからさまに落ち込むなよ……」


 草次は呆れつつ、別案を提示する。


「だったら、琥珀はどうだ?」

「??? 琥珀?」

「おう。スペック高いけど残念だろ?」

「た、確かに……」


 失礼極まりない発言を夏彦は呟きつつ、またしても広大なレジャープールを見渡してみる。

 最愛の彼女ではないとはいえ、琥珀は悪友。己の脳内お花畑フィルターを用いれば、辺り一面、関西女パニックにすることなど造作もない。


 琥珀、琥珀、琥珀。1つ飛ばして琥珀。1つ戻って琥珀状態。


 遊泳プールに注目すれば、沢山の琥珀たちが個人メドレーでしのぎを削り合っている。

 アスレチックに注目すれば、巨大な水鉄砲を持った琥珀たちが、チームに分かれてサバゲーで盛り上がっている。

 温水ジャグジーに注目すれば、休日のオッサンと化した琥珀たちが、「いやはや~♪ いい湯加減やね~♪」と鼻歌まじりに、のほほん中。


(た、楽しみ方が年頃の女子じゃねえ……!)


 妄想はとどまる事を知らず。大量の琥珀にウザ絡みされているところを夏彦は想像してしまう。

 まさに琥珀ラッシュ。


「ナツ、見て見て! 日焼けで紐跡くっきり! って、何ガン見してんねん。思春期かっ!」

「浮き輪のレンタル? 要らん要らん。ウチ、乳で浮けるもん」

「なーなー。ナツってレンタルできる? 水鉄砲の的探してるんやけど」

「ナツをレンタルするのはウチや! ボブスレーのソリ代わりに使う!」

「それめっちゃオモロそう! ウチもナツボブスレーやりたい!」


 大勢の琥珀たちが、夏彦をバーゲンセールの服の如く引っ張り合う。

 そして、一斉に言うのだ。


「「「「「ナツは誰の玩具になりたいん!?」」」」」


 妄想世界から帰ってきた夏彦は悶える。


「~~~~~っ! ダメっ! 全員琥珀だと過労で死んじゃう!」


 悶える理由。幸せだからではなく、苦しいから。

『琥珀多重影分身案』が採用されたのは言うまでもない。




※ ※ ※




 夕方前、最後の休憩中。

 温水ジャグジーでリラックスする夏彦と草次の話題は、もっぱら奏に渡すプレゼントについて。


「えっ。まだプレゼント決めてないの?」

「別にいいだろ」


 夏彦は以前のことを思い浮かべる。未仔との初デート前、草次に電話で相談した時のことだ。

 あのときの草次も、彼女である奏が何処に連れて行って欲しいか、何を求めているか分からないと言っていた。


「奏さんなら何でも喜んでくれると思うけど」

「俺もそう思うわ。クリスマスとか記念日のプレゼント、毎回喜んで使ってるし」

「へー」

「なんだよ」

「草次って素っ気なく見えて、マメにプレゼントあげるタイプ――、!? 痛ぁぁぁ!」


 照れ混じり、もしくは八つ当たり? ジト目の草次が夏彦の脇腹をチネり攻撃。ブクブク泡立つ水の中だけに、周囲の人間には気付かれない悪質プレー。


「あのな、夏彦」

「は、はひ……」

「長年付き合ってると、デート場所とかプレゼント考えるのって、結構苦労するんだぞ?」

「そう、なの……?」


 夏彦と未仔の交際期間は2ヶ月と少し。草次と奏の交際期間は間もなく3年。

 経験者に語られてしまえば、夏彦も聞き入ることしかできない。


「何処でもいいって言うくせに、『最近、映画ばっかりだね』とか、『海開き、もう始まったんだけどな』とか。『好きな場所でいいって言ったじゃねーか』って返したら、『そーちゃんは乙女心が全然分かってない』だぞ? 分かんねーから、何処行きたいか聞いたんじゃねーか……!」


 草次と奏では、どちらの発言力が高いのかは明白。

 下から沸き立つバブルは、草次のマイナスな感情が原因なのかもしれない。


「毎年、誕生日とか記念日にプレゼントを贈り続けると、最終的に何をプレゼントしたら良いんだろうな。カタログとか商品券とかか?」

「それ、お歳暮じゃん……」

「お歳暮贈ったら奏にキレられることくらい分かってるさ。けど、毎回ポンポンとアイデアなんて浮かんでこねーって」


 祝い事に何をプレゼントするか。長年寄り添った恋人や夫婦であればあるほど、ありがちな悩みではなかろうか。

 ありがちだからといって、決して侮ることなかれ。

 しょうもないプレゼントを贈ってしまえば、「ああ……。この人って昔からセンス無かったわ」と、嫁から『残念』という烙印を押されてしまうだろう。

 記念日をうっかり忘れてしまえば御臨終。嫁が出勤前に毎朝渡してくれる弁当箱は500円玉に変わってしまうだろう。


「ウチの親父、母さんとの結婚記念日に現金渡してブチ切れられてたわ。『その金でプレゼント買ってこい』だってよ」

「ははは……」


 草次は父親似。


「草次の言いたいことは伝わったけどさ。長い目で見ると、まだ交際3年目じゃん。いくら何でもアイデアの枯渇早くない?」

「仕方ねーだろ。幼馴染なんだから」

「ん? 幼馴染なんだから? …………。あっ! 幼馴染だから、付き合う前から毎年プレゼントを――、!? これ以上言わないからツネろうとしないで!」


 夏彦、人畜無害を必死にアピール。草次の仕置きを、舌打ちに留めることに成功。

『お前に振り回される時間が勿体ない』と言わんばかり。草次は大きく溜め息づくと、昼過ぎの空をぼんやりと見上げる。


「ネックレス、香水、ヌイグルミ、化粧品、ポーチ、現金……、」


 あーでもない、こーでもない。これは前に渡したとか、奏は興味なさそうだとか。これじゃ親父の二の舞だの。

 まるで念仏や呪詛。プレゼント案を呟けば呟くほど、草次の眉間に皺が寄っていく。


 いくらイケメンとはいえ、不機嫌そうにブツブツ呟く姿は中々に近寄りがたい。現に10人は余裕で入れるであろうジャグジープールにも、夏彦と草次しか入っていない。


 悩む友の姿を間近で見る夏彦は、どういった反応を取るべきなのだろうか。

 一緒に悩む? 心配そうに様子を窺う? そっとしておく?

 どれも正解なのだろう。

 けれど、夏彦の反応はどれでもない。

 微笑まし気に見守る、だ。


「あん?」


 ついには、ニコニコと口角上げていることが草次に気付かれてしまう。


「あのな。お前だって、他人事じゃなくなる日が来るんだからな?」

「ごめん、ごめん! 女子にモテモテな草次でも、かなり苦労してるんだなって」

「……悪かったな」

「それにさ、」

「それに?」

「こんだけ毎回悩んでるんだから、そりゃ奏さんもプレゼント気に入ってくれるわけだなって」


 夏彦のバカ真っ直ぐな言葉に、しかめっ面だったはずの草次の表情がキョトンとする。

 そして、むずがゆそうに顔を赤らめる。


「……。相変わらず恥ずかしい奴だな、お前は……」

「恥ずかしいこと言わせてるのは草次じゃないか」

「言ってろ」

「いぎゃ……!」


 草次の両手から繰り出される水鉄砲は凶器。脇腹チネり攻撃が可愛く思えるレベルで、夏彦を見事にヘッドショット。

 双子たちと入浴する度に、せがまれているだけのことはある。

 頭を打ち抜かれたゾンビは事切れるのがセオリーだが、あいにく夏彦はゾンビではない。

 馬鹿は死んでも治らないを証明するかのように、ニコニコ笑顔のまま。


 さすがの草次も降参といったところか。心なしか笑顔が感染っているような気さえする。


「ついこの前まで、初デートの服装で悩んでた奴に諭されるとはな」

「別に諭したつもりはないって。てか、草次にもらったアドバイスと言ってること大して変わらないし」


 心当たりありまくりな草次は、「そうだったかもな」と自嘲気味に呟く。


「結局、毎回渡すプレゼントって、奏が満足するものというより、俺が納得したもんって感じなんだよなあ」

「そこらへんの拘りは口出しできないけど、何か困ってることがあったら教えてくれよ。一緒に調べたり、買い物くらいなら付き合えるし」

「まぁそうだな。困ったときは相談させてもらうわ」

「! ほ、ほんとに!?」

「おう。未仔ちゃんに」

「未仔ちゃんかよっ!」

「ふはっ!」


 孤立無援キャラからの協力要請が来ると思いきや、まさかのぬか喜び。

 とはいえ、大した進歩なのだろう。今までの草次なら、協力要請どころか愚痴すら吐かなかったのだから。

 愚痴なのか惚気なのか意見が分かれるところではあるのだが。



「あれ? 傘井君?」

「ほんとだ! ……え!? 伊豆見もいるの!?」







///////////////////////

【雑談】

発売日も迫ってきて、おっぱ――、胸がドキドキ状態です。


しょーもない戯言はさておき。

もうすぐ発売されるし、いい加減ちゃんとした略称を考えたほうが良いかなぁと。


このままだと、

―――――――――

「お前、おっぱい読んだ?」

「読んだ読んだ。おっぱい超ヤバかった」


( ゚∀゚)・∵.オッパイ!!

―――――――――

という事例が発生してしまう可能性が無きにしも非ず。



てなわけで、略称が決まり次第、発表させていただきまっす。

「“おっぱい”でいいじゃん」とか言うんじゃねえ。

( ゚∀゚)・∵.イウンジャネエ!!


この顔文字にハマってます(笑)。

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