27話:草次を追え PART5
草次の家でなければ、大人可愛い彼女の家でもないことは明白。
勿論、ラブホテルでしたというオチでもない。
「「「保育園……?」」」
草次たちが入った先は、まごうことなき保育園。
ペールピンクや薄水色に塗られた建物は総じて可愛らしく、保育園のマスコットキャラクターだろうか。門の上には、ゆるキャラチックなワンコとニャンコが『ようこそ!』と手を広げている。敷地内からは子供たちのはしゃぐ声も聞こえてくる。
夏彦・琥珀・未仔、放心状態。
とはいえ、目をパチクリしてばかりはいられない。
「伊豆見先輩、将来の夢は保育士とかなのかな……?」
「えっ!? 手伝いするために保育園に来たってこと? ……ということは、一緒に歩いてた女の人は、彼女じゃなくてバイト仲間?」
「ちょい待ち! 保育士って子供好きやん! 草次って人嫌いちゃいますのん!?」
人嫌いに定評のある草次が、子供たちと戯れる姿をイメージしてみる。
子供たちと一緒に庭を走り回ったり、
お昼寝の時間に子供たちを寝かしつけたり、
お遊戯会で子供たちと一緒に踊ったり歌ったり。
「笑顔が死んでる……」「嫌がる子供にピーマン押し付けとるで……」
夏彦と琥珀、普段を知っているだけに、エプロン姿で働く草次をイメージすることが困難を極める。
「う~ん……。エプロン姿の草次を目撃するまでは、信じ
「せやなぁ。それやったら、『隠し子いました』って言われるほうが、しっくりくるし」
つい先ほどまでなら、琥珀の発言も笑えなかったものの、浮気疑惑から保育士疑惑にシフトチェンジしてしまえば笑みも溢れる。
緊張と緩和というやつだろう。
「隠し子? ないないない! 俺ら高校生だぞ? 園児なんて3、4歳なんだしさ!」
「だ、だよねっ。いくらミステリアスな伊豆見先輩でも、そんな隠し事は持ってるわけないですよ!」
「いやはや~! 少々ブラックジョークが過ぎたわ~~!」
「「「アハハハハハッ!」」」
『高校生大歓迎! アットホームな職場です』の文字を貼れば、バイト求人誌に載ってそうなくらい一同の笑顔が咲き誇る。
このまま尾行を終了し、めでたしめでたしな勢いまで感じられる大団円っぷりである。
このときまでは。
「……夏、彦?」
実に30分ぶりの再会。
保育園から出てきた草次が、ついに夏彦たちの存在に気付いてしまう。
そして、夏彦たちも気付いてしまう。
「あ。草次――、…………。!!!???」
夏彦、目の前の光景に驚愕。未仔と琥珀も開いた口が塞がらない。
おかえりさないませ、浮気疑惑。
右手に子供、左手に子供。
草次の両隣に、小さな保育園児がちょこんと立っているではないか。
不愛想な草次とは対照的。子供たちはニッコニコ笑顔で愛くるしさたっぷり。
まるで、パパが迎えに来てくれて嬉しいような。
そんなアットホームかつショッキングな光景に、夏彦たちは想いのまま叫ぶ。
「本当に隠し子!?」「可愛い……!」「ロ、ロリコンや――――――っ!」
「……。面倒くせー……」
※ ※ ※
場所は変わって草次宅。
夏彦は思う。『友達の家に、こんな形で初めてお邪魔することになるとは……』と。
「はーい。皆、お待たせー」
どぎまぎムードを緩和してくれるのは、少し前に合流した奏。
まるでウェイトレス。制服&エプロン姿の奏が人数分の飲み物をトレーに載せ、各々の前へテキパキと配膳してくれる。
「夏彦君はミルクとガムシロップいるよね?」
「あっ。は、はい! 両方とも頂戴できればと――、」
「夏彦はブラックでいいよな?」
「えっ!?」
リビングテーブルの向かい側、草次の殺伐とした声に、夏彦の両肩が跳ね上がる。
「い、いや、できれば――、」
「ブラックで、い・い・よ・な?」
「…………あい」
まるで、苦汁を飲めと言っているような。
実際、言っているのだが。
「そーちゃん! 友達にイジワルしちゃダメでしょ!」
「ちっ……」
さすがの草次も、
「あ、あざまーす……」
夏彦はミルクとガムシロをGETしたものの、直ぐにアイスコーヒーの中へと入れる気にはなれない。喉はカラカラにも拘らず、氷のたっぷり入ったグラスに口を付ける気にもなれない。
それは両隣に座る未仔と琥珀も同じようだ。配られたオレンジジュースではなく、夏彦を見つめているのだから。
3人が互いにアイコンタクトを交わし合えば、大きく頷く。
そして、
「「「すいませんでした!!!」」」
夏彦・未仔・琥珀の3人が、ジャパニーズ礼法の最敬礼である土下座を披露。
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2章に該当する部分も、残すところあとわずか!
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