20話:意外な共通点 PART3

 夏彦だけなく、未仔まで惚気のろけてしまえば、「いいな~」と奏が羨ましがる。


「ウチのそーちゃんも夏彦君を見習って、『奏のこと、好きで好きでたまらないぜ!』くらい言ってほしいよ」

「あはは……」


「傍から見れば、俺はクソウザい存在なのかもしれない」と、夏彦は今更なことに気付きつつ苦笑い。


「やっぱり夏彦君たちの前でも素っ気ない感じ?」

「ですねー。素っ気なさすぎて、『俺は果たして友達なんだろうか?』って心配になるくらいですよ」

「心配しなくても大丈夫、大丈夫。そーちゃんの性格上、友達って認識してなかったら、コンビニ前でお喋りしたり、連絡先の交換なんか絶対しないもん」

「確かにそうかも。草次は筋金入りの面倒くさがり屋ですもんね」

「そうそう!」


 思わず夏彦が吹き出せば、奏は勿論、未仔までも笑みをこぼしてしまう。

 奏としては新鮮なのだろう。彼氏の友達と、彼氏に関する情報を共有できることが。嬉しいからこそ、草次のダメな点を話し合うだけでも笑顔になる。


「そーちゃんと仲良くしてくれて、ありがとね」

「いえいえ。むしろ感謝したいくらいですよ」

「あの子、気難しいから大変でしょ?」

「うーん……。気難しいと言えば気難しい奴ではあるんですが、俺的には自分らしさを持っててカッコいい奴だなって思いますよ」


 草次を褒めたときだった。

 おっとり系女子のスイッチがONになったのは。


「それって、どんなどんな!?」

「ち、近っ!?」


 目と鼻の先。目をキラッキラッに輝かせた奏が、向かい側に座る夏彦へと身を乗り出して急接近。

 彼氏のダメなところでも笑顔になるのだから、良きところともなれば聞きたくてたまらないらしい。

 端正な顔立ちのお姉さんが接近してくれば、夏彦は澄んだ瞳に吸い込まれそうになる。


 しかし、寸でのところで目の端、自分の視界に頑張って入ろうとする未仔がコンニチワ。

 小さな身体をチョロチョロ動かし、「ナツ君、大丈夫? 恋に落ちたりしないよね?」と心配そうに見つめている。

 本人としては至って真剣なのだが、夏彦としては焦っている彼女に可愛さしか覚えない。


 未仔の愛らしいアピールによって、「自分の推しは未仔ちゃん一択」と我に返った夏彦は、一刻も早くこの状況を打破しなければと決意。

 目を輝かせる奏へと、草次のイケメンっぷりを説明していく。


「え、えっと。草次って一見冷たい奴に見られがちなんですが、全然そんなことなくて。本当に困ってるときは、ちゃんと手を差し伸べてくれるんです」

「うんうん!」

 奏の瞳の輝きが5割増し。


「ヒーロー気質たっぷりで、いつでもスクールカーストの頂点に立てるポテンシャルを持ってます。にも拘らず、そういう人望に全く興味がないんですよね」

「それでそれで!?」

 奏の瞳の輝きがさらに倍。


「人の顔色を窺ったりしないし、嫌なことは嫌ってハッキリ言ったり。同い年に思えないくらい大人びているところが、同性の俺からしてもカッコイイです。『我が道を行く!』って感じで」

 奏の瞳の輝きが以下同文。


 いくら未仔推しとはいえ、これ以上、奏が輝きを発すれば浄化は確実。

 一刻も早く離れてもらうべく、夏彦は最後の言葉を告げる。


「い、以上! 俺が草次をカッコいいと思うところをお伝えしまし――、」


 言い終えるより先。


「君は嬉しいこと言ってくれるなぁ~♪」

「かかかかか奏さん!?」「奏先輩!?」


 そうは問屋かなでが卸さない。

 何ということでしょう。感極まった奏が、夏彦の頭や髪をイイ子イイ子し始めたではありませんか。優しくも激しく。


「どうしよ~♪ そーちゃんのことなのに、私が褒められてるみたいで嬉しくて堪らないよ~♪」


 夏彦は察してしまう。この人もまた、恋人を愛して止まない同士なのだと。

 スキンシップは止まることを知らず。「もっとイイ子イイ子させて」と夏彦を手繰り寄せれば、最早ハグにも等しいレベル。


 奏の細くしなやかな指、コンディショナーの香る黒髪、年上お姉さんの蕩ける笑顔。

 未仔よりも低い体温、小ぶりな胸さえも、未仔と相反するからこそ魅力として加算されてしまう。


「奏先輩ダメ―――~~~っ! ナツ君は私のなの!」

「みみみみみ未仔ちゃん!?」


 NTRねとられされるとでも思っているのか。これ以上のお触りは禁止ですよと、テーブル下へと潜った未仔が、夏彦の隣へと顔を出したと同時に高密着。

 普段の愛情たっぷりの抱擁ハグではなく、焦りに焦った力いっぱいの抱擁は新パターン。夏彦のキュンキュンは止まらない。


 このまま心臓が収縮し続ければ爆ぜてしまうのは目に見えている。

「安心して! 俺は君のモノだから!」と未仔を諭したり、「気を確かに! 貴方が抱きつくべきは、そーちゃんです!」と奏を落ち着かせたり。


 無事にというか、ようやくというか。2人を椅子へと座らせることに成功させ、夏彦は安堵の息をダダ漏らす。


「ごめんね? ついつい嬉しくて」

「い、いえ……。目が覚めたようで何よりです……」


 両手を合わせる奏は、未だに夏彦が褒めてくれたことが嬉しい様子。「良かったなぁ♪ ちゃんとそーちゃんの内面まで見てくれる友達がいて♪」と朗らかスマイルを継続させる。


 とはいえ、夏彦の草次像に満点をあげるつもりないようで、


「でもね?」

「??? でも?」

「そーちゃんは、夏彦君が思ってるほど大人じゃないと思うなー」

「そう、……ですかね?」


 夏彦はピンと来ず。面倒くさがり屋でシンパシーを感じたような反応を見せることができない。夏彦の隣で依然くっつき虫な未仔も、『草次=大人っぽい先輩』というイメージがあるようで、夏彦同様、小首を傾げてしまう。


 2人してキョトンと疑問を抱いていると、奏はニッコリ。


「だったら観察してみる?」

「観察、ですか?」

「うんっ! Wデートで♪」

「「!」」






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次回から2章に突入!



【雑談】

この話をカフェで書いていたのですが、奏が前屈みになって夏彦に急接近するシーンが不自然にならないか、1人で検証してました。

スピーディーに前屈みになったタイミングで、隣のオジ様にチラ見されました。

恥れちゃう。


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Twitterもやってますʅ(◔౪◔ ) ʃ

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