21話:伊豆見草次は手強い
Wデート。
恋人がいる同士でしかできない究極の合わせ技。アブソリュート・カルテット。
キング・オブ・リア充なイベントは、夏彦にとって『良いこと尽くめ』としか言いようがない。
草次が大人っぽいか否かを知ることができるし、ナイスな思い出を作ることもできる。
何よりもだ。自分のリスペクトするクールな男が、恋人と接する姿を間近で見ることができる。
すなわち、未仔に相応しい男になるための社会見学ができる。
※ ※ ※
夏の体育館は、とにかく暑い。
いくら照りつける日差しから館内が守られているとはいえ、昨今の地球温暖化を
ましてや、青春真っ盛りな高校生たちがバレーボールに熱中し続ければ、ちょっとしたサウナ状態にもなる。
そんな蒸し暑い体育の授業にて、ひと際暑苦しい奴が約一名。
夏彦である。
「お願いします! Wデートさせてください!」
「断る」
暑苦しい夏彦の頼みを、クールな草次が一蹴。
コートでネット際の攻防が繰り広げられる中、コートサイドではWデートするか否かのラリーが繰り広げられていた。
奏からWデートという魅力的な提案をされたものの、提案されたからといって実現するかは別の話。
最初にて最後の難関、草次が同意してくれない限りは実現しないイベントというわけだ。
夏彦怒涛の攻め。
「せっかく夏なんだし、祭りとか海にでも行こうよ! 遊園地とか水族館でもいいし、人混みが嫌ならボーリングとかカラオケでも! 騒がしいのが嫌なら博物館とか美術館でも! 究極、俺ん家でもいいから!」
「お前、いつにも増して今日は粘るな」
「そりゃ粘るさ! 奏さんにも、『そーちゃんの説得は頼みました』って敬礼されてるんだよ!」
「昨日の今日話しただけで、どんだけ仲良くなってんだよお前ら……」
「いや~♪ お互い持ち合わせてる、未仔ちゃんの情報を話し合うのが楽しくて楽しくて」
「未仔ちゃんの真っ赤になってる顔が思い浮かぶわ」と溜め息づく草次は、自販機で買っておいたボトルコーヒーを一口。コーヒーを買うあたり、バレーに参加するつもりは毛頭ないようだ。
面倒くさがり、ワイワイ系を嫌う草次が、Wデートを断る可能性は大いにアリアリなことくらい夏彦も予測していた。
その反面、「彼女からの提案だし、乗ってくれるかも?」と淡い期待もしていた。
結果は淡い期待の大敗なわけだが。
「本当に無理? 今週の土日じゃなくても、来週以降とかでも全然いいからさ」
「無理だな。しばらく休日は予定が入ってんだよ」
「じゃあ平日は?」
「もっと無理」
「なんだよ! 結局、全部無理じゃん!」
夏彦の予想通りすぎるツッコミに、草次はケラケラと笑う。
「だから言ったろ? 全部無理だから断ってんだって」
「そうかもしれないけどさ……。その用事って、彼女を差し置いてまで優先しないといけない用事なの?」
「うーん……。まぁ、そうなるのかもな」
「何で濁すんだよ」
「だって、『彼女よりも大切な用事です』って即答するほうが胡散臭いだろ?」
一理あるだけに夏彦は言い返せず。
彼女より大切な用事。
考えてしまう。彼女よりも優先しなければならない用事とは、一体何なのだろうと。
未仔中心に世界が回っている夏彦には難問すぎる。首を傾げようとも、眉間に
答えが降ってこないからだろうか。
「ん?」
答えの代わり、コートから高く高く飛び出したボールが、夏彦へと急接近してくる。
同時に、
「おらぁぁぁぁぁぁ~~~~~! ナツ、どけぇぇぇぇぇえぇぇ~~~~!」
「こ、琥珀!?」
ハイキュー愛読者の琥珀が、物凄い勢いで夏彦目掛けて突っ込んでくる。
もはや衝突事故。
「「ぐおぅっ……!」」
2人密接に絡まり合う姿は、シンクロ攻撃というには非常に哀れ。
琥珀が壁に激突しなかったのは夏彦のおかげだし、夏彦が大事に至らなかったのは琥珀のたわわなバストが顔にめり込んだおかげ。
琥珀が気にするわけもなく。
「チッ……! ボール取り損ねた」
「取り損ねたじゃねーよ!? 死ぬかと思ったじゃねーかバカ琥珀!」
「バカちゃうわぁ! 授業中にくっちゃべって
「うっ……!」
琥珀の超ド正論に、夏彦の喉が急激に萎む。
「す、すいませんでした……。琥珀さんの仰る通りです……」
「せやろがい」
夏彦は素直に非を認めるものの、「体育の授業でフライングレシーブかますのは、スポ魂すぎやしませんか?」という疑問も生じている。
口が裂けても言えないが。
「おっしゃ! その腐った根性叩き直したる! ナツも相手コートに入らんかい!」
「えっ。い、いや! 俺はまだ草次と――、…………あれ? 草次どこ!?」
さすがはクールな男。自分にも降りかかるであろう災難を予期し、フェードアウト済み。
試合頑張れという期待を込めて、コーヒーは置きっぱなし。
夏彦はブラックを飲めないのだが。
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Wデート。キング・オブ・リア充なイベント。
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