57話:目覚めの朝

 目覚ましアラームなど必要ない。


「……よし」


 うっすらと漏れる日の光、スズメたちのさえずりが耳に入れば、夏彦は物音立てず、そっと立ち上がる。

 未仔は余程疲れていたのか、安心したのか。今も尚、穏やかな表情で眠り続けている。

 ベッドで寝息を立てる姿は、まるで白雪姫。

 白雪姫とはいえ、おはようのキスや目覚めのキスを絶対にしてはならない。

 ウチのお姫様には、もうしばらく休んでいてもらわないと困るから。


「いってくるね」


 囁くような声で未仔へと微笑みかけ、夏彦は身支度を整え始める。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 日曜の早朝だけに、すれ違う人といえば、犬と散歩する人やジョギングする人くらい。

 制服に身を包んだ夏彦は、目的地目指して歩き続けていた。

 当然、学校へ行くから制服というわけではない。

 いわば正装。スーツ代わり、自分の真剣さが最も伝わる勝負服といったところか。


 目的地へと辿り着き、夏彦は足を止める。

 目的地は勿論、未仔の家。

 昨日、デート前に訪れたときは、憧れの家デートができるのだと胸が高鳴った。

 命からがら家を去ったときは、消滅させられてしまうと心臓が悲鳴を上げた。

 緊張の種類は大きく異なるが、今だって心臓は激しく脈打っている。


 扉前。シャツの襟やネクタイを正し終え、深呼吸を1つ2つ。

 朝っぱらから非常識なのは重々承知。

 意を決してチャイムを押す。

 しばらくすると、「はーい」という女性の声と同時に扉が開く。


「!」


 言葉を忘れるほどに夏彦は驚いてしまう。

 目の前にいる女性が未仔とそっくりだったから。

 未仔母である。


 大人版未仔、という表現が適切だろうか。久々と感じさせないくらい若々しく、美魔女というよりも、美魔女っ子? 

 小柄で童顔に拘らず、しっかり出るとこは出ている。一子相伝である。

 不意打ち攻撃に泡食らう夏彦だが、未仔母は打って変わって溢れんばかりの笑顔。


「あっ♪ もしかして、夏彦君? 絶対夏彦君でしょ!」

「お、お久しぶりです! 朝早くに、すいませ――、」

「やっぱり夏彦君だ~♪」

「!? おおおお母さま!?」


 未仔母、夏彦の両手を握り締め、「来てくれたんだー♪」と大はしゃぎ。

 さらには、肩や胸をペタペタしたり、顔をまじまじ眺めたり。


「夏彦君もすっかりお兄さんになってるね~。優しそうな顔は全然変わってないけど」

「ど、どもです。そんなこと言ったら、未仔ちゃんのお母さんもお綺麗のままですよ」

「ふふっ……! 大人な対応もできるようになってる」


 唇に指を押し当てて笑う姿は、やはり未仔と似ているし、ナチュラルに人を和ませる力を有している。


「いきなり娘が押しかけちゃってゴメンね。ビックリしたでしょ?」

「いえいえ! ビックリはしましたけど、事情も分かってますので……」


 親子喧嘩のきっかけが自分だと知っているだけに、律義に頭を下げる未仔母に申し訳なさすら感じてしまう。

 申し訳なさを感じると同時、1つの疑問が湧き起こる。

 そういえば、未仔ちゃんのお母さんは、俺に敵対意識は持っていないのかな?

 という疑問。


「大丈夫、大丈夫。私は未仔と夏彦君の味方だから」

「えっ!?」


 未仔母、読心術発動。


「な、何で俺の考えてたこと分かったんですか?」

「ふふっ♪ そんな心配そうな顔されたら、一発で分かっちゃうでしょ」

「お恥ずかしい……!」


 読心術ではなく、夏彦が顔に出し過ぎただけ。

 恥ずかしがるのはまだ早いと、未仔母の追い打ち。


「仮に、『未仔ちゃんと昨晩はお楽しみでした』ってカミングアウトされても、私は怒らないよ?」

「おおおおおおお楽しみぃ!?」


 今、夏彦の顔面が熱い。

 昨晩のお楽しみ=チョメチョメ=エッチいこと=セックスオンザビーチ

 様々なNGワードが、夏彦の脳内をオーバードライブ。

 赤面する夏彦が面白くて堪らないのか、可愛くて仕方ないのか。


「あれれ~~~? もしかして、仮にじゃなくて、本当に未仔と楽しんじゃったのかな?」

「!? たたたったたったた楽しんでませんから! 疲れてる彼女に手を出すほど、ド畜生じゃありませんから!」

「成程ね~。彼女が元気だったら、夏彦君も元気になっちゃうんだね~」

「~~~~っ!」

「あははっ! 夏彦君面白~~い♪」


 天使な未仔が稀に見せる小悪魔ぶりは、親譲りのようである。

 未仔母は目尻を拭いつつ、両手を合わせる。


「からかってゴメンね? お父さんが、どうしても聞きたいことだろうと思ったから」

「はぁ……。まぁ、お父さんの立場からしたら、気になってしまうかもしれませんが……」


「でしょ?」と同意の視線を向けられ、夏彦としては渋々頷くことしかできない。

 夏彦としては。


「そういうことだから。良かったわね、お父さん」

「え……?」


 未仔母が微笑む視線の先、すなわち、自分の背後へと夏彦は恐る恐る振り返る。


「やぁ、夏彦君。昨日ぶりだね……?」

「うぉうっ!?」


「早朝だし家にいるだろう」と高をくくっていただけに、思わず声も出てしまう。それくらいキン肉マンが背後に立っているのは心臓に悪い。

 ラスボスこと、未仔父降臨。


 ランニング帰りらしい。鋼の肉体からは湯気が立ち込め、その姿はバトルオーラーを纏う戦士の如し。益荒男ますらお


「お、おはようございます……」

「おはよう。また会えて嬉しいよ」


「殺したいからですか……?」と口にしたら実現しそうなだけに言えず。

 未仔父が夏彦へと半歩距離を詰めると、眉間を皺寄せ、ジットリした眼差しで問う。

「本当にしてないんだろうな……?」

「は、はい?」

「未仔とは、してないんだろうな?」


 琥珀の言葉を借りるとすれば、本当に未仔とはズッコンバッコンしてへんの?

 断じてズッコンバッコンしていない。けれど、健全ではあるが一緒に寝た事実はあるだけに、夏彦は言葉を詰まらせてしまう。

 詰まらせ続けたら地獄突きをくらう可能性大。夏彦は勢いよく首を横に振り続ける。


「しししししてませんから!」

 その慌てっぷりが益々怪しいと睨み続ける未仔父。

「別にしててもいいんじゃない。恋人同士なんだから」

「はえっ!?」「母さん!?」


 未仔母の助け船は、笹船ではなく宇宙戦艦級。

 夏彦だけでなく、さすがの未仔父も大慌て。


「未仔は高校生になったばかりだろ! いくらなんでも早すぎる!」

「そんなこと言ってもねえ。いくらお父さんが反対しても、未仔と夏彦君の夜は返って来ないわけだし。だよね、夏彦君?」

「いやいやいや! さっきも言ったじゃないですか! 俺と未仔ちゃんは昨晩そのような行為はしていません! 事実無根です!」

「え~、でも昨晩以外には経験して――、」

「ま、まだ僕たちは未経験です!」

「まだ!? 貴様ぁ! まだってなんだ!?」

「~~~っ!!! 地獄すぎるっ……!!!」「あはははははは♪」


 猛る未仔父、悶える夏彦、吹き出す未仔母。






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未仔母登場。

未仔父降臨。


【報告】

一部完のタイミングで、二部(新エピソード)を作るためのお休みをいただければと思っております。

別途、新作書くかどうかなど、まだ決めてないことも多いので、そこらへんのご報告も一部完のタイミングでできればと!



とにもかくにも、一部もいよいよ大詰め。

お楽しみにっ!




おっぱいフレンズは、ブックマーク&評価よろしくどーぞ。

Twitterもやってますʅ(◔౪◔ ) ʃ

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