56話:夜は長い……? PART2

 時刻は23時手前。

 薄暗い自室、寝床に入った夏彦だが、一向に目を閉じることができない。反発し合う磁石のように、まぶたが目を瞑ることを拒んでいる。

 最も落ち着く自室にいるはずなのに、慣れ親しんだベッドや枕を使っているはずなのに。にも拘らず、眠眠打破なのは何故だろうか。


 普段より1時間以上も早く寝ようとしているから?

 少し前に飲んだコーラのカフェインのせい?

 非力ながら腕立て伏せを頑張ったから?


 どれも否。


「えへへ……♪ あったかいね?」

「う、うん……!」


 目の前に未仔がいるから。

 1つ屋根の下、同じベッドや毛布を共有して一緒に眠ろうしている。

 人懐っこい未仔は、今までも寄り添ってきたり、甘えてくることが多かった。故に、多少の免疫が自分にはできていると夏彦は思っていた。

 しかし、それはただの過信だったのは明白。

 それくらい、未仔を腕枕する行為が至高チート過ぎる。


「~~~~っ……!」


 夏彦の腕を圧迫しないためか。未仔は腕の付け根、胸板を枕代わりに夏彦へと高密着。

 超至近距離、未仔の小さな吐息さえ聞こえてきてしまう。柔肌やたわわな胸の感触がいつも以上に伝わって来てしまう。

 硬直する夏彦とは対照的に、未仔はやりたい放題。


「ナツ君の匂い、好きー♪」


 未仔猫、ごろにゃん。

 夏彦の胸元に頬をスリスリとこすり合わせたり、小鼻を押し付けたり。未仔猫の目まぐるしいマーキング攻撃。


 夏彦の感想。

 君の匂いのほうが超好きなんですけど。


 止めどなく押し寄せる幸せは、狼化する余裕さえ与えないのは幸か不幸か。

 夏彦同様、少しづつ落ち着きを取り戻したからだろうか。


「ナツ君、いきなり押しかけてゴメンね」

「いやいや。確かにビックリはしたけど、未仔ちゃんなら何時いつでも大歓迎だよ」

「うん……、ありがとう」


 未仔にとって、心安らぐ言葉に違いない。

 けれど、声音はどこか控えめに聞こえ、弱々しさすら感じさせた。

 違和感を感じた直後だった。


「未仔ちゃん?」

 未仔が、ぎゅっ……と夏彦を抱きしめる。

「私、お父さんが何を言ってきても、ナツ君のことが大好きだから」

「……!」


 理解してしまう。

 未仔は、落ち着きを取り戻したわけでも、はしゃいでいたわけでもない。

 不安や怖さを必死に隠そうとしていただけなのだと。

 室内をぼんやり照らすライトの光は、未仔のマイナスな感情を浮き彫りにするには十分すぎる。それくらい夏彦を抱きしめる未仔の表情は、切なさや辛さを帯びている。


『私の居場所は、もうナツ君しかいない』

 そう言われていると錯覚してしまうくらい。

 そんなわけは絶対有り得ないのに。


 少し前までの夏彦なら、どうすれば良いか分からず、悲観的な気持ちで一杯になっていただろう。自分が未仔の居場所を狭めていると自責の念にさいなまれていただろう。

 けれど、今は違う。


「! ナツ、君……?」


 未仔に抱き締められるのではなく、未仔を抱き締める。

 優しく、包み込むように。


「大丈夫。俺が未仔ちゃんを守るから」

「っ!」


 何をすれば未仔を救えるのか。明確な答えは未だに思い浮かばない。

 しかし、答えがなくとも覚悟がある。


「……本当?」

「約束するよ。絶対に守ってみせる」


 夏彦の力強い言葉、優しい抱擁に、未仔の涙腺は緩んでしまう。

 緩んでしまえば、夏彦の腰に手を回さずにはいられない。


「うんっ……。ナツ君、私を守ってね」


 静寂包まれる寝室、互いの鼓動が聞こえそうなくらい、身体と身体が1つになるくらい甘く抱き締め合う。

 濃密で幸せな時間をこれからもずっと続けていきたい、未仔と一緒に歩み続けていきたい。夏彦はそう願わずにはいられない。

 それは未仔も同じことで、「えへへ……♪」と、いつものはにかみ笑顔に戻っていく。


「安心したら、眠たくなってきちゃった」

「俺も。実はさ、今日のデートが楽しみすぎて昨日全然眠れなかったんだよ」


「一緒だね」とクスクス笑う未仔ともっとお喋りがしたい。

 デートの振り返りだってしたいし、何なら、おやすみのキスだってしたい。

 けれど、未仔のウトウト加減が限界を達しているのは分かっている。今はゆっくり休ませてあげたい。


「おやすみ、未仔ちゃん」

「うん……。おやすみ、ナツ君」


 ゆっくりと瞳を閉じたのを確認した後、夏彦はライトを消す。さらには、真っ暗でも俺がいるからと、未仔の頭をゆっくり撫で続ける。

 大好きな彼女の温もりを感じつつ、このまま寝ることもできた。それでも、夏彦は目を瞑ろうとしない。

 今の幸せ、これからの幸せを思い描きつつ、静かに闘志を燃やし続ける。


 明日の決戦に備えて。






------------

未仔猫、ごろにゃん。


【雑談】

30ページくらいで終わらせる予定だった『おっぱい揉みたい~』が、かれこれ270ページ超えしてるんだからビックリ。

どれもこれも、むっつりスケ――、おっぱいフレンズのおかげ。

あざすっ。



あと5話前後くらいで、第一部完かなと。

ラストスパート、盛り上がっていきまっしょい(☝ ՞ਊ ՞)☝



おっぱいフレンズは、ブックマーク&評価よろしくどーぞ。

Twitterもやってますʅ(◔౪◔ ) ʃ

------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る