52話: 親友は頼もしい PART1
余程、急いで飛び出してきたのだろう。未仔は家デートしたときと同じ、部屋着のまま。
いくら春といえど、夏彦とお揃いのロゴTにショートパンツの姿は、4月中旬の夜には厳しい。未仔の色白な肌を一層に白くさせ、普段は熱いくらい温かい体温も、すっかり冷え切っている。
震えているのは、寒いからだけではない。それくらい夏彦には分かっている。
「お父さんと喧嘩しちゃったの?」
抱き着いたままの未仔が、小さく頷く。
「……ずっと我慢してたんだよ? けど……、私のことだけじゃなくて、ナツ君のことも言ってきたら……うぐっ、我慢できなくなって……」
嗚咽が漏れる。それでも未仔は懸命に言葉を紡ぎ続ける。
「言い返しても言い返しても、全然納得してもらえなくて……。やっぱり進路を変えさせるんじゃなかったって……」
「……」
「子ども扱いしてきたり、もっと大人になれって言われたり……。ズルいよ……っ! そんなこと言われても無理だよ……、分かんないよ……!」
哀しかったり、悔しかったり、腹が立ったり。色んな感情がグチャグチャになればなるほど、未仔の泣き顔も一層グチャグチャになってしまう。
別れろと言われたのか、家を出て行けと言われたのか、前の学校に編入し直せとでも言われたのか。
何を言われたのかまでは、夏彦には分からない。
けれど、
「我慢できるわけないよっ! だって、ナツ君が大好きなんだもん! ひぐっ……! うわぁぁぁぁん!」
未仔が自分を好きでいてくれていることだけは、ハッキリと伝わってくる。
ついには泣きじゃくってしまう未仔を支えつつ、夏彦は玄関前へと一緒に腰下ろす。そのまま、普段以上に小さくなってしまった彼女の背中を、ゆっくりさすり続ける。
というより、さすることしかできなかった。
「大丈夫だよ」と言ってあげたい。けど、その言葉はあまりにも無責任に思え、口にすることができない。
自分のことを守ろうとボロボロになっている彼女が、大丈夫なわけがない。
自分がもっと頼れる存在だったら、今頃の未仔はデートのことを振り返り、きっと笑顔でいてくれていた。隣で胸を痛めることなど有り得なかった。
己の未熟さ、不甲斐なさに、夏彦は目に涙さえ込み上げてくる。
自分に言い聞かせる。『耐えろ。これ以上、未仔ちゃんを不安がらせてどうする』と。
悔しさ、惨めさを耐えつつ、自分が何をしてあげられるのかを必死に考え続ける。
当然、名案は思い浮かばない。
そんなことは分かっている。一朝一夕で浮かばないからこそ、少しづつ段階を踏もうとしていたくらいなのだから。
「ミィちゃん、今日はウチに泊まっていきなよ」
振り返れば、妹の新那が近寄ってきていた。
妹ではなく、親友の表現のほうが適切なのかもしれない。
「明日は日曜日だし、ミィちゃんゆっくりしてって。ね?」
「で、でも……」
無我夢中で家を飛び出してきただけに、未仔はこれからのことを何も考えていなかったのだろう。思わぬ提案に、ただただ新那を見つめる。
「傘井家のことは気にしない気にしない♪ そんなことよりさ! 今日のデート中、夏兄がやらかした話とか、沢山聞かせてほしーな?」
どんなときでも、慌てず物怖じしない。
新那のいつも通りな、まったりスマイルは、安心感を与えるには打ってつけ。
それは夏彦も例外ではない。
「何でお前は、俺が変なことした前提なんだよ……」
「え~。変なことしてなかったら、びしょびしょのお洋服持って帰ってこないでしょー?」
「うっ……。そ、それはだな――、」
「デート嬉しすぎて、お漏らししちゃった?」
「嬉ションなんかせんわ! デートは嬉しかったけども!」
夏彦が我を忘れてツッコめば、「つまんなーい」と新那が唇を尖らせる。
そして、
「もう……っ、そんなの笑っちゃうよ……!」
涙ぐんでいたはずの未仔が、小さく吹き出してしまう。
未仔がクスクスと肩を上下させれば、夏彦と新那も顔を見合わせてしまう。同時に笑みもこぼれてしまう。
狙ってやったのか、天然なのかは分からない。確実に言えるのは、妹は大した奴だということ。
夏彦に余裕が生まれる頃合い、リビングから電話が鳴り響く。
十中八九、未仔の家から。故に夏彦は立ち上がる。
のだが、
「夏兄じゃなくて、にーなが出るよ」
「えっ? でも――、」
「もし、ミィちゃんのお父さんからだったら、余計ややこしくなるでしょ」
「……。確かにそうだな……」
「『ミィちゃんはウチに泊まらせます』って親友のにーなが言うのと、彼氏の夏兄が言うのとでは印象も
「……仰るとおりで」
無策な現状、親友ポジションである新那のほうが、未仔の両親たちから宿泊許可を得れる可能性は断然高い。
「行ってきまーす」と小走りでリビングへ向かう新那だが、何かを発見して足を止める。
そのまま、発見したものをグイ、と廊下へと引っ張り出す。
夏彦たちの父と母である。
何が起こっているのか理解できていないのは明白。父など、上機嫌にほろ酔い気分だったはずが、一瞬で酔いが吹き飛び
「にーなにミィちゃん
「お、おお……」
夏彦は察する。現状何が起こっているのかの説明は勿論、妹の親友と付き合っていることから教える必要があることに。
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まったりガール大活躍の回でした。
地味に、今回の話が今までで一番考え散らかしたかも。
疲れた。でも、僕的には満々満足、一本満足、ワオ。
今夜は頂いたメッセージを返しつつ、キンキンに冷えたビールで乾杯しようと思います。
ジークジオン。
誰の乾杯音頭か分かった人は、かなりマニアック。
おっぱいフレンズは、ブックマーク&評価よろしくどーぞ。
Twitterもやってます(☝ ՞ਊ ՞)☝
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