50話:未仔ちゃんとの甘々デート PART14

「こんにちは。未仔の父です」

「! ……え、あっ! こ、こんにちは!」


 面食らっている場合ではない。高校生の夏彦でも、ファーストインプレッションが大事なのは理解できている。

 迅速に胡坐あぐらから正座へトランスフォーム。すぐさま、未仔父に深々と土下座で御挨拶。


「未仔ちゃんとお付き合いさせていただいております! 傘井夏彦と申します! 以後おしり――、お見知りおきを!」

「そうか。やはり、君が夏彦君なんだね」

「えっ。俺のこと知ってるんですか?」

「知ってるさ。未仔が妻とよく話してるからね」


 顔を上げた夏彦は、思わず安堵してしまう。

 ニコッ、と口角を上げる未仔父は紳士そのもの。一時は剛腕ラリアットで、首を跳ね飛ばされることさえ覚悟していた。邪な考えを持っていたことに罪悪感すら感じてしまう。


「これからもきみのことは、よく覚えておくよ」

「はいっ!」


 未仔父は、さらに丁寧かつ、ゆっくりと夏彦に告げる。

 殺意をたっぷり込めて。


「家主がいない隙に、娘にキスしようとしてる夏彦君のことをなぁ……!」

「え…………」


 お帰りさないませ、恐怖の感情。


「!!!??? ひぃぃぃぃぃぃ!?」


 夏彦、失禁寸前。未仔父の『微笑み』が『たけり』に一瞬でトランスフォーム。

 狼男が満月を見たかの如し。俺の筋肉はこんなもんじゃないぞと、腕に巻かれたゴツい腕時計のメタルバンドさえ破裂しそうなくらいパンプアップ。

 眉間に力を入れれば入れるほど、こめかみから血管が浮き出れば浮き出るほど、未仔父の顔に文字が浮かび上がって来る。

『娘に手を出す奴は、万死に値する』と。


「あわわわわわ……!」


 目の前の戸愚呂100%に、夏彦は頭が真っ白。

 無理もない。緊張からの緩和、からの恐怖なのだから。

 誰もが無理ゲーだとさじを投げる状況下、


「ナツ君は悪くないもん! おうちに誘ったのは私だもん!」


 チワワな未仔が、ライオンキングな父にキャンキャン吠える。


「未仔は黙ってなさい!」

「黙らないもん! あ・い・う・え・お!」


「君って奴は、こんなときでも何て可愛いんだ……」と、夏彦の壊れかけのハートを未仔がヒーリングしてくれる。

 未仔父には、さらなる怒り状態を付与してしまう?

 ということはないようで、

 か行、さ行と未仔が詠唱し続けばし続けるほど、般若はんにゃのようだった未仔父の顔付きが、穏やかな表情へと変わっていく。

 夏彦は気付く。「あ……。お父さんも、癒されちゃいますよね……」と。

 親馬鹿とバカレシ。


 とはいえ、夏彦と分かり合う気は毛頭ないらしい。未仔父は、ハッ! と我に返ると、雄々しい表情へと逆戻り。

 咳払いを1つし、


「夏彦君。君はもう帰りなさい」

「!」

「じきに日も暮れるし丁度良いだろう。それに、高校生になったばかりの娘に手を出そうとする状況を、黙って見過ごすわけにもいかん」


 夏彦は思い出す。キスする瞬間を見られていたことを。

 故に、ド正論すぎて何も言い返せない。

 未仔としては、夏彦とまだまだ一緒にいたい。大前提、夏彦へ悪態づくのは許さないと、尚も抵抗する。


「高校生になったばかりじゃなくて、もう高校生だもん!」

「高校生になったから良いとか、そういう発想が子供だと言っているんだ」

「高校生になるまで、ずっと我慢してたんだもん! ナツ君が大好きなんだもん!」


 未仔ご乱心。『この気持ち、絶対に譲ることはできない』と、夏彦の腕を手繰り寄せる。

 手繰り寄せるだけなら良かった。


「う、うぉっ……!」


 不意に引っ張られた夏彦はバランスを崩してしまう。未仔側へと傾いてしまう。

 すなわち、未仔のたわわで柔らかオッパイへと顔がめり込んでしまう。


「srggvdfdfxlm;z!!!???」


 未仔のモンスターバストに捕食され、夏彦大パニック。

 床に手を付こうとアタフタするが、未仔との距離が近すぎる。未仔のデリケートな部分、モモやお尻に触れることしかできない。そもそもの話、ぎゅぅぅぅぅ! と力いっぱい抱擁する未仔が脱出を許してくれない。

 底なし沼もとい、底なしおっぱい。


 マシュマロバスト、聖母の大海に沈んでいく夏彦は、沈んでいるにも拘らず、昇天する感覚を味わってしまう。

「死に方としては悪くない……」と息苦しさすら忘れる始末。


 未仔父の声を聞くまでは。


「帰れい……! 俺の理性が保たれてるうちになぁ……!」

「ひっ……」


 未仔父、スパーキング。

「窒息死などさせない。貴様は俺が握り殺す」とでも言わんばかり。筋肉がさらに膨らみ、ぼっこり盛り上がる。纏う白Tシャツがミリミリミリ……! と悲鳴をあげ、目まぐるしく駆け巡る血流が、熱を帯びた鋼のように、肉体をより強固で狂暴な姿へと変えていく。

 もはやモノノフ。


 人ならざぬ者へ変わっていく未仔父を見て、夏彦は思う。

 帰らなければ死ぬ、と。

 帰りたい。けど、帰れない。


「ナツ君を殺したら、私も死んでやる!」


 ヒートアップする未仔が、夏彦への抱擁をさらに強めるから。


「ナツ君は、お父さんみたいに乱暴しようとしないもん! すっごく優しい人だから!」

「み、未仔ちゃん、これ以上お父さんを刺激――、」

「お父さん言うなぁ!!!」

「すすすすいません!」


 未仔父の怒りメーターが限界寸前。乱暴や暴力がダメなことは重々承知だが、愛する娘に愛される夏彦を滅したい気持ちが拭えない。


「ぐ、ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……~~~! は、早く出ていけ……!」


 まるで内なる悪魔と戦っているような。未仔父は振り上げようとする右手を、左手で必死に抑え込んでいる。

 いつ、内なる悪魔が突き破って夏彦に襲い掛かるか分からない。

 悪魔超人になりつつある父に対し、未仔の取った行動は守りから攻め。

 夏彦を抱き寄せるのではなく、勇猛果敢にも父親の前へと立ちはだかる。


「それに、ナツ君にだったら滅茶苦茶にされてもいいもん!」

「み、未仔ちゃん!?」「滅茶苦茶……、だと?」


 夏彦と父の視線を浴びつつ、未仔が声を大にして叫ぶ。

 改心の一撃を。



「ナツ君にだったら、おっぱい揉まれても、へっちゃらだもん!」



「夏彦ォォォォォォォ――――――――――――――――!!!!!」



 親父、限界突破。



「お、お邪魔しましたぁぁぁぁぁ!!!」「ナツ君逃げて―――――っ!!!」



 狂人化する父に未仔がしがみつき、その隙に夏彦が部屋を飛び出す。

 彼女のファインプレーを犠牲にはできないと、廊下から階段をガムシャラに駆け降りる姿は、水面をワチャワチャと疾走するトカゲに似ている。

 カカトまで足を通す時間さえ惜しいと、スニーカーへと足を突っ込み玄関から外へ脱出。それでも夏彦は走り続ける。この首掻き切るために追ってくる可能性が重々あると思ったから。


 こうして、夏彦と未仔の甘酸っぱい初デートは幕を閉じる。

 閉ざされたの表現のほうが適切なのかもしれない。






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デート編、これにて終了。


いかがだったでしょうか、デート編。

色んな場所やシチュエーションで甘々イチャイチャを見守ることができて、僕は大満足です。

糖分過多。


次回から新しい展開へ。

勿論、甘さ継続でお届け!


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