49話:未仔ちゃんとの甘々デート PART13

 その正体は、壁に掛かったコルクボード。

 勿論、ただのコルクボードに興味を抱いたわけではない。いくつか貼られている写真の中で、とても懐かしい写真を夏彦は捉えた。


 小学生時代の夏彦と未仔の2ショット写真。

 地元の夏祭りの日に撮ったらしく、未仔は可愛らしい浴衣姿で夏彦は半袖半パン。 いきなり撮られた1枚だからか、手を繋ぐ2人の姿は多少ピンボケしてしまっている。

 未仔も夏彦の視線で、何に注目しているのか気付く。


「ナツ君、あの写真覚えてる?」

「えっと……。迷子の新那を一緒に探してたときだよね。俺が小5くらいだったかな?」


 今回ばかりは正解のようで、「ピンポーン♪」と未仔が声音を弾ませる。


「私の方が迷子だったのかもしれないけどね」

「いやいやいや。あれは完全にウチの妹が迷子だよ。というかアイツ、自由すぎ」




 事件の詳細はこうだ。


 夏彦が友達と夏祭りを楽しんでいると、すれ違う人々の中から1人ぼっちの未仔を発見。


「未仔ちゃん、どうしたの?」

「! ナ、ナツ君……? えっとね……、にーなちゃんと、はぐれちゃったの……」


 地元の小さい夏祭りとはいえ、妹の友達、今にも泣き出しそうなくらい小さくなっている女の子を放っておくわけにはいかない。

 お人好しの夏彦は、不安にし潰されそうな未仔へと手を差し伸べる。


「一緒に探そっか!」

「……いいの?」

「いいに決まってるよ! ほら、行こ行こ!」

「う、うんっ」


 差し出された夏彦の手を未仔が握り締め、一緒に新那探しをしていく。

 捜索開始15分、千本クジの屋台でクジを引いている新那を発見。

「ミィちゃんと夏兄、トイカメラGETしたよー♪」と駆け寄ってくる愚妹に夏彦がデコピンを食らわせて事件は終わりを告げる。




 夏彦が妹のフリーダムさを思い返せば、未仔も当時のことを思い出し、「懐かしいね」と笑みを浮かべる。


「にーなちゃんが景品で取ったトイカメラで、私たちのことを撮影してくれたときの1枚です」

「ああー。だから、こんなにピンボケしてるのか」


 写真へと目を凝らせば、夏彦は思わず笑ってしまう。ピンボケしているにも拘らず、自分の呆れ顔、未仔の苦笑いする表情はしっかり映っていたから。

 ピンボケしてるわ。自分は呆れているわ、未仔は苦笑いしているわ。

 思い出として酷くしょうもないのかもしれない。

 けれど、未仔としては大切な思い出の1つ。


「あのときね。にーなちゃんが見つかって、すっごく安心したの。けど、」

「けど?」

「安心と同時に、『あ……、ナツ君との夏祭り終わっちゃった……』って。握ってた手を離すのも寂しかったんだよ?」


 いくら過去の話とはいえ、乙女のカミングアウトに夏彦が照れを隠せるわけもなく。

 トドメの笑顔は反則級。


「だからね? あの写真、ナツ君と私が映ってる唯一の1枚だから、1番の宝物なんだ♪」

「! ははは……。嬉しいというか、光栄すぎて恐縮ですというか……。ありがとね、大事にしてくれてて」

「いえいえ♪」


 たかだか15分弱の時間も、幼い頃の未仔にとっては濃密な時間。

 僅かな時間にドラマチックな展開など何1つ無かった。「夏休みの宿題終わった? 俺は全然!」とか、「え! 沖縄行ったの! いいなー!」とか。小学生相応な会話しか夏彦はしていない。


 しかし、そんな凡庸な会話が、今にも泣き出しそうだった自分を元気づかせるための会話だと未仔は理解していた。故に凡庸ぼんような思い出ではなく、かけがえのない思い出として胸にしまい込まれ続けている。

 肩に寄りかかり、鼻歌を口ずさんでいる未仔に、夏彦は提案せずにはいられない。


「未仔ちゃん。今年の夏は、一緒に夏祭りに行こうね」

「! 行ってくれるの?」

「勿論。というか、俺ももっと未仔ちゃんとの思い出が欲しいからさ」


 夏祭りデートのお誘いだけでも胸が弾んでしまうのに、愛する彼氏が自分との思い出が欲しいと言ってくれている。


「もうっ……、ナツ君、反則っ!」


 これ以上にやけ顔を見せるのは恥ずかしいと、夏彦の二の腕へと未仔は顔を埋めずにはいられない。

 夏彦の匂いに癒されること数秒。未仔はスリスリと頬ずりを開始し、「また楽しみが増えちゃったな……♪」と、夏祭りデートを快諾。


 快諾だけでは留まらず、床に転がりっぱなしのスマホを未仔は回収する。

 小さな指でせっせと操作し、カメラを起動。そのまま自分たちが映り込むように腕を伸ばして撮影態勢を整える。


「これからは、沢山思い出の写真も撮ってこーね?」

「う、うん!」


 ド普通な男子高校生故、カメラ慣れしていない夏彦は、どこかギコちない笑顔になってしまう。

 けれど、ギコちない笑顔など一瞬で吹き飛ぶ、


「!!!」


 シャッター音が聞こえたと同時。自分の頬へと未仔が唇を押し付けてきたから。

 2ショットで、ちゅーショット。


「えへへ……♪ 恥ずかしいけど、やっぱり初デートの思い出として残したかったから」


 彼女の大胆な行動に夢見心地の夏彦だが、夢を見ている場合ではない。

 その写真、激しく求む。


「お、俺も! その写真頂戴!」

「タダじゃ、あげなーい♪」

「ええっ!?」


 まさかの小悪魔未仔ちゃん。

 英世ひでよ3人。いや! 諭吉ゆきち1人で手を打ってくれませんか!? と、夏彦は財布を取り出そうとするが、未仔は金銭を求めているわけではない。


「交換ならいいよ?」

「え、交換?」

「うんっ♪ 逆バージョンの2ショット写真!」

「そ、それって――、」


 今からホッペにキスしていいってことですか?


 聞く必要もない。未仔は『いつでも心の準備はできてます』と、夏彦へと頬を差し出している。

 夏彦、幸せを注入されすぎて、原形を留めることさえ至難。もはやゲル彦。

「ああ……。いつまでも経っても、このドキドキには慣れそうにはないな」と思ってしまう。けれど、それで良いのだろうとも思ってしまう。


 手汗びっしょりに自分のスマホからカメラを起動させれば、視線はインカメラではなく、透き通るほど真っ白な未仔の頬。

 撮影の準備、心の準備を整え、ゆっくりと未仔へ近づいていく。

 そして、柔らかな頬へとキス。

 しようとした。


「……?」


 キスする刹那、夏彦が固まる。

 スマホよりさらに向こう側、ふとした光景が目に入ってしまったから。


 その正体は、壁に掛かったコルクボード?

 それとも、何かしらの思い出の品?

 はたまた、自分の化身であるヌイグルミ?


 否。


「うぉう!?」


 声を荒げる夏彦の視線先。

 そこには、半開きのドアから、ぬっと顔を出す40代男性の姿が。


「!?!?!!?!??!」


 ドアが開かれ、男の全貌が明らかになれば、夏彦は声を出すことすら忘れてしまう。

 男の第一印象は筋骨隆々。ガタイのいい身体に顎ヒゲ、黒縁眼鏡の風貌が、謎に格闘家感、「一昔前は世界王者、今は試合解説やコメンテーターをやっています」感をとてつもなく醸し出している。


「何故、プロ格闘家が未仔ちゃんの家に!?」と錯乱の状態の夏彦とは対照的に、少し遅れて気付いた未仔が驚きつつも呟く。


「お、お父さん……!」

「??? おとうさん……? …………。!!! みみみみみ未仔ちゃんのお父さん!?」


 未仔の父親現る。






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まさかの未仔乳――、未仔父登場。


次回でデート編は終わり!

新しい展開へ突入。


【雑談】

近所のスーパーにセルフレジが導入されてから、駄菓子を買う事が多くなりました。

よっちゃんイカとビールの組み合わせが最高すぎる。

今はうまい棒たこ焼き味にドハマり中。食べ過ぎると口の中が血まみれになるから超危険。

でも超美味い。


最近は駄菓子屋さん、めっきり見なくなりました。

小学生時代が懐かしいです。店によっては、ブタメン用の電子ポッドがあったり、玉せん用の鉄板が容易されていたり。メタルスラッガー2が置いていたり。

メタルスラッガー2の採用率異常。

なっちー。



皆さんの好きな駄菓子は何でっか。




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