閑話:デート前夜 ~未仔視点~

 明日は、待ちに待ったナツ君とのデート日。

 出発前にバタバタしないようにと、クローゼットからお気に入りのワンピースやニットセーター、この前買ったばかりのロングパーカーなどを取り出して睨めっこしてしまう。


「どれにしようかなぁ……」


「私はオシャレです」なんて口が裂けても言えない。やっぱり、服が好きなのとオシャレかどうかは話が別だから。

 それでもだ。それでも、ナツ君が私を頼りにしてくれている。彼女としては、頑張ってナツ君に似合う服を選んであげたい。


 明日のために、男の子向けのファッション雑誌を買って勉強したし、モールに入ってるメンズ店もバッチリ予習した。

 あとは説得力ある可愛らしいコーデで、明日のデートに臨むだけだ。

 鏡前でプチファッションショーを開催してしまう。


「ワンピースは定番すぎるかな? でも、初めてのデートでパーカーはカジュアルすぎる気も……。このセーターは胸がちょっと苦しくなってきたし……」


 繰り返し繰り返し、着替え続けていると、頭がショートしてしまいそうになる。

 ついには限界。


「ナッツ~」


 下着姿のまま、ベッドに横たわるヌイグルミへと飛びついてしまう。

 ナッツ。子供の頃からずっと一緒に寝ている、大きなクマのヌイグルミの名前。

 名前は勿論、ナツ君から。


「ナッツ~……。ナツ君が喜んでくれそうな服が決まらないよう~……」


 いくら顔を押し付けても、ギュッと抱きしめても、ナッツは何も答えてくれない。

 ナツ君に告白する前日にも同じようなことをやっていた記憶がある。

 ナッツに抱き着いた後は、決まって親友に電話してしまう。


『もしもーし。ミィちゃん、どうしたの?』

「にーなちゃ~ん……!」


 情けない声を漏らしてしまえば、にーなちゃんも事情を察してくれる。だからこそ、穏やかに笑いかけてくれる。


『明日のデートで、まだ悩んでるの?』

「うん……」

『ミィちゃんは心配性だなぁ。相手は夏兄なんだから、心配する必要ないのに』

「けど、初めてのお出かけデートだよ? 少しでも可愛く見られたり、ナツ君好みの服装って何だろうとか考えちゃうよ」

『夏兄好みの服装?』

「ナツ君が好きそうな格好とか、にーなちゃんは知らない?」

『う~ん、そうだなぁ……。強いて挙げるなら、夏兄が最近やってるゲームの女の子は、バニーガールのコスチュームしてたくらいかな?』

「バニーガール? …………うんっ! にーなちゃん! ドンキホーテって24時間営業だよね?」

『ミィちゃん……、一旦冷静になろっか……』


 私はよっぽど取り乱しているのだろう。おっとりマイペースな、にーなちゃんが苦笑いしているのだから。


『ミィちゃんがバニーガールの格好で歩いてたら、男の人に声掛けられっぱなしになっちゃうよ』

「だ、大丈夫っ。私なんかがバニーガールの格好してても誰も声なんか――、」

『少し前まで、ずっと言い寄られてた、ミィちゃんが何言ってんのさ』

「そ、それは……」

『毎日、連絡先聞いてくる隣クラスの男子に、『私には、ずっと大好きで大切な人がいるから、お付き合いできません!』って宣言したときは、夏兄は幸せものだなぁって、妹のにーなが感動しちゃったくらいだもん』

「~~~っ、は、恥ずかしいっ……!」


 当時のことを思い出しただけでも顔が熱くなってしまう。

 ナツ君のことになると周りが見えなくなるクセは直さないとな。

『大丈夫だよ』と、にーなちゃんが私の恥をフォローしてくれる。


『夏兄のほうが、ずっと恥ずかしいことしてるから気にしない気にしない』

「ナツ君が?」

『うん。ここ最近、枕をミィちゃん代わりにして、激しく抱きしめてるんだよ?』

「……。へっ!?」

『この前もベッドで暴れ回ってたよ。『未仔ちゃんが健気で可愛いすぎる~~~~~~っっっ!』って」

「!!! ……そ、そうなんだ」


 当たり前に驚いてしまう。

 だって、今の私もナツ君代わりにナッツを抱きしめて電話しているから。

 何なら、毎晩同じベッドで一緒に寝ちゃってる私のほうが、よっぽどな気さえする。

 思わず口角が上がってしまうのは、私がナツ君を好きすぎるからだろう。


『あ、安心してね。夏兄も、ミィちゃんには乱暴に抱き着かないって言ってたから』

「は、恥ずかしいよっ!」


 私が言うのもなんだけど、やっぱり人伝ひとづてで言われるのは恥ずかしい。

 にーなちゃんは、マイペースに『アハハッ♪』と笑う。


『そんな夏兄だから大丈夫だよ。『ミィちゃんを目に入れても痛くない』って言っちゃいそうなくらい、ミィちゃんのこと大好きだからさ』

「……ほんと? そうだったら嬉しいけど……」

『夏兄の妹兼、ミィちゃんの親友が太鼓判押してるんだから信じてほしいな』


 にーなちゃんの頼もしすぎる発言は続く。


『だからさ。あとは、ミィちゃんの気持ち次第だと、にーなは思うな』

「私の、気持ち?」

『うん。ミィちゃん自身が自然体に楽しめれば、夏兄もきっと喜ぶに違いないから』

「!」


 核心を突かれたような。キュッ、と心を掴まれたような。

 気付いてしまう。気付かされてしまう。

 自然体、普段通りでいることが、明日のデートで一番大切だということに。

 背伸びしようとしてたけど、私はいつの間にか、見栄を張ろうとしちゃってたみたい。


 にーなちゃんに相談して良かった。デート当日までに気付けて良かった。

 焦りはもうない。

 にーなちゃんは電話越しでも、私が落ち着きを取り戻したことを理解してくれる。


『もう大丈夫だよね?』

「うん。明日のデート、目一杯楽しんでくるね」


 感謝を告げ、最後におやすみを言い合って、電話を切る。

 スマートフォンをテーブルに置き、ふと、ナッツに視線を合わせてしまう。

 今はナッツではなく、ナツ君にしか見えない。

 下着姿のままだけど、ナツ君に微笑みかけてしまう。


「ナツ君、明日のデート、沢山楽しもうね」


 ナツ君なら、「勿論!」と笑って頷いてくれるんだろうな。

 微笑では我慢できなくなってしまう。

 そして、ナツ君の真似が無性にしたくなってしまう。


「ナツ君が健気で可愛いすぎる~~~~~~っっっ♪」


 大好きが抑えきれず、ナツ君に向かって、ムギュゥ! と力いっぱい抱き締めてしまう。


「えへへ……♪ 明日が楽しみだなぁ♪」


 これからは、ナツ君を見習って、私もナッツを激しく抱きしめようと思う。






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閑話を書き終えて思う。

「今回の話、地味に糖度高くね?」と。

楽しくなって、ガッツリ書いちゃいました。

オレ、コノ話、結構好キ。



【雑談】

朝タリーズしてると、前席からシナモンとメープルの甘い香りが。

顔を上げれば、『孤独のグルメ』の松重さん似のダンディなリーマンが、パンケーキ食ってた。

萌え。



【次回予告】

お待たせ! 次話からいよいよデートスタート!

甘々祭り開催!!!


歯磨きして待て。



甘々祭り参加者は、ブックマーク&評価よろしくどうぞ。

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