35話:作戦会議は悪友と PART4

 今は琥珀にいじめられていることを相談するよりも、彼女と家で何をしていたのかを聞くよりも、大事なことが夏彦にはある。


「草次って、彼女さんから『そーちゃん』って呼ばれてるんだね」

『電話切っていいか?』

「ごめんなさい! 切らないで!」


 勢いよく立ち上がった夏彦、上半身90度、完璧な謝罪を披露。

 まずは空気を和ませようとした結果の大失態である。

 盛大な溜息をつくとはいえ、草次もそれくらいで電話を切るほど短気ではない。


『で、用件って何?』

「えっとさ……。週末に未仔ちゃんと、デ、デート! する約束をしたんだけど、色々相談に乗ってほしくて……」


 初々しいというか、聞いている側でさえ小っ恥ずかしさを覚える発言。


『何だよ、そんなことかよ』

「そんなことじゃないよ!」


 夏彦、猛反発。


「草次だって初デートは緊張したろ? 俺はデート当日のことを考えると夜も眠れない! グーグルの検索履歴は、『初デート』とか『高校生 デート』とか『鉄板 デートスポット』とか『彼氏 NG行動』なんかで埋まりまくってるくらいだよ! 知恵袋にだって相談したし!」

『お前、マジで何やってんの……?』


 夏彦の惨めさに、草次も「初デートなぁ」と遠い昔を思い出そうとする。

 そして、思い出そうとした結果の一言。


『悪いけど忘れたわ』

「くっ……、これだからイケメンは……!」

『顔の良し悪しは関係ねーだろ』


「関係ある!」と叫びたいところだが、無いものねだりは意味がないことを夏彦は重々理解している。伊達にフツメンをやってきたわけではない。

 だからこそ、青狸に助けを求める野比家の長男よろしくに、


「面倒だからって見捨てないで!」

『別に面倒だけで突き放してるわけじゃねーよ』

「やっぱり面倒も理由に含まれるんだ……」

『8割くらいな』

「8割もあるんだ……」


『おう』とドライかつナチュラルに返されてしまえば、夏彦も声を荒げる気力さえ失ってしまう。卑屈にもなってしまう。


「ちなみに草次さん。差しつかえなければ、残り2割の理由も教えていただけないでしょうか……?」

『だって、悩む必要ないじゃん』

「えっ?」

『あの子は夏彦の全てを受け入れてるし、初めてのデートだからって背伸びも気負いする必要もないだろ』


 夏彦としては、全くに予想外な回答。

 草次としては、それ以外に選択肢は無いといった回答。


「で、でもさ! 初めてのデートなんだし、やっぱり万全な状態で臨むべきなんじゃないの……? サプライズ的な要素とか盛り込んだりしてさ」

『ハッキリ言う。求めてるものなんて、女子1人1人で違うから』

「……。身もふたもない……」


 はっ、と軽く笑う草次だが、決して冗談で言っているわけではないようで、


『そんなもんだろ。そもそも、俺だって奏が何処に連れて行ってほしいとか分かんねーし、誕生日とかクリスマスに何をプレゼントしたらいいかも分かんねーよ』

「そうなの……?」

『幼なじみだから付き合い長いけど、知らねーことも普通に多いって』


 百戦錬磨のイケメンも、案外乙女心を掴めずに苦戦していることを知ってしまえば、不安定だった心にもゆとりができてくる。


『てなわけだ』と、草次は締めにかかる。


『そんな深く考えなくて大丈夫だって。夏彦がパジャマ姿でラーメン屋に連れて行ったとしても、あの子なら喜んでくれるだろうし』

「それって、未仔ちゃんを馬鹿にしてないよね……?」

『まさか。よくできた彼女だって思ってるぞ』

「……ども」


『お前が照れるなよ』と電話越しから笑われてしまえば、赤面していた夏彦の口からも、笑みがこぼれ始める。

 自分なりの解決策を見出すこともできれば、不安で曇りがかっていた心や表情も晴れやかなものになっていく。

 夏彦は、「やはり、草次に相談して良かった」と心から思う。


「ありがとう草次。草次のおかげで初デートを幸せなものにできそうだよ」

『……。ほんとお前って、平然と恥ずかしいこと言えるよな』

「クールキャラなのに、毎年、彼女の誕生日とかクリスマスプレゼントに悩む草次には負けるよ」

『対面じゃなくて、電話で良かったな』

「殴ろうとしてるの!? 冗談だから――、……あ、あれ? 切られちゃった……」


 草次の性格的に、『用件が済んだ8割、愛想を尽いた2割くらいだろう』と夏彦は考察。逆の割合も重々有り得るが。

 草次宛てに、『本当にありがとう!』というメッセージとスタンプを送信し終えれば、沸々とヤル気が満ち溢れてくる。


 そして、少しでもこの情熱を誰かに伝えたいと、一緒に話を聞いていた悪友に夏彦は話しかける。


「琥珀、俺頑張るよ。……ん? 琥珀?」

「zzz……」

「マジかコイツ……」


 恋愛事に全く興味の無い琥珀、気付けばベッドの上で爆睡を決め込んでいた。

 夏彦、はだけている毛布を琥珀にそっとかけてやり、帰宅の準備を済ませて立ち上がる。

 最後に、『アホ』とチラシ裏に書いた紙を琥珀の額に貼り終える。






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案外、女子より男子のほうが夢見がち。

イケメン話もここらへんに、次話らへんから徐々に甘々な展開にしていきまーす。


【雑談】

今日の帰り道、散歩中の犬に足舐められた。

飼い主のオバハンが、「こらっ! 汚いから止めなさい!」って注意してた。

晩酌が心に染みた。



可哀想と思った方、ブックマーク&評価よろしくどうぞ。

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