31話:彼女と下校は、男子高校生の憧れ PART6

 新那が親友を後押ししたのか、兄を哀れんだのかは不明。

 しかし、夏彦のことが大好きな未仔としては、ただただ静かに好意を寄せているだけでは何も発展しないことも理解していたようで、


「にーなちゃんの言う通り、いい加減ナツ君にアプローチしなきゃなって。だから、そのときに決心したの」

「??? 何を決心したの?」


 未仔は少々照れ気味かつ、包み隠さずに夏彦へと打ち明ける。


「ナツ君と同じ高校に入って、告白しようって」

「!」


 薄々、「自分がいるから、未仔ちゃんは自分の高校を選んだのでは……?」と思ってはいたものの、予想が見事に的中しすぎれば固まってしまう。


 夏彦の記憶が正しければ、未仔の通っていた海乃女子中学は、中高大一貫のお嬢様校。よっぽどの理由が無い限りは、大多数の生徒はそのままエスカレーター式で高校に進学するだろう。

 けれど、未仔は同じ学校を希望しなかった。


「ナツ君もやっぱり馬鹿だなって思う?」

「いやいやいや! 馬鹿なんて思わないよ! けど、キッカケが俺だからビックリするというか、申し訳ないと言うか……! お、俺の方が海乃に入れるくらい勉強しておけばって……」


「海乃は女子校だよ?」と、未仔は夏彦の慌てっぷりにクスクス笑う。


「お父さんにも大反対されちゃった。『わざわざ別の学校を受け直す理由が分からない』って」


 夏彦側の意見としても、父親の肩を持つわけではないが、どちらかと言えば反対寄り。理由は明白。自分が原因で、彼女の人生を台無しにしてしまう可能性が大いにあるから。

 故に、申し訳なさすら夏彦は感じてしまう。

 対して未仔はどうだろうか。


「大丈夫だから。ね?」


 安心させるかのように、未仔は夏彦の手をそっと握り締める。

 そして、優しく、ゆっくりと語りかける。


「私は間違った選択したなんて全く思ってないよ。今だけじゃなくて、5年後10年後も絶対に後悔してない自信があるくらいだもん」


 ハッキリした確証などない。それでも、未仔の真っ直ぐな言葉、真っ直ぐな眼差しを見てしまえば、強がりではなく、まごうことなき真実なのだと夏彦は分かってしまう。


「勿論、学業をおろそかにするつもりはないよ? ウチの学校が、2年生からは特進クラスがあるのも知ってるし、私が興味ある教育系の大学への進学率も高いってことも調べたから。勢いで高校に入ったわけじゃないから安心してほしいな」

「そっか……。うん……、ならいいんだ」

「それにね、」

「?」

「一度しかない高校生活だもん。大好きな人と一緒に過ごしたいよ」

「……っ! 俺も一緒がいい、です……!」


 未仔の天真爛漫な笑顔に、糖度200%超えの言葉が合わせれば天下無双。

 夏彦としては『貴方の可愛さには参りました』状態。表情筋は気を抜けばユルッユルになってしまう。

 

 夏彦は分かっている。ほうけ続けている場合ではないと。


 可愛い彼女がこれだけ目一杯尽くしてくれるのだ。自分だって目一杯幸せにしてあげたいと切に願ってしまう。

 未仔の愛情に応えてあげたい。否、応えたい。

 だからこそ、今度は夏彦自ら、未仔の手をしっかり握り締める。未仔の瞳をしっかり見つめる。


「未仔ちゃん。今度の週末、デートしよう!」


 未仔の大きくクリッとした瞳がさらに大きなものに。

 夢にまで見た言葉だったからこそ、未仔は問い返してしまう。


「……いいの?」

「勿論! というよりさ、俺が未仔ちゃんと、めちゃめちゃデートしたいです」

 夏彦が照れつつ笑いかければ、未仔も負けじと、嬉し涙さえ滲ませて大きく頷く。

「はいっ♪」


 デートの約束を交わしただけで、大いに喜んでくれる彼女が愛おしくてしょうがない。 最高のデートプランを練って、もっと喜んでもらうのだと、夏彦は心へ密かに誓う。

 ニッコニコの顔には密かさの欠片もないが。


 気付けば、夕陽も殆ど沈んでしまい、周囲の街灯が一斉に灯り始める。


「お。もうこんな時間か……。未仔ちゃん、時間も時間だしそろそろ帰ろっか」

「うんっ。今日は思い出の場所まで付いて来てくれてありがとね」


「いやいや、こちらこそ」と夏彦が笑顔で立ち上がれば、ルンルン気分継続中の未仔も、寄り添うように立ち上がる。


 デートを誘うことに成功した今の夏彦は、一味どころか二味も三味も違う。

 だからこそ、『いつまでも未仔ちゃんにエスコートしてもらってばかりでは男がすたるぜ』と、未仔へと手を差し出す。


 実に自然でスマートな所作。未仔は喜んでと、夏彦の手をしっかりと握り締める。

 そして、


「ナツ君」

「ん?」


 夏彦は振り向こうとした。けれど、振り向くことができなかった。

 何故ならば、背伸びした小柄な彼女の唇が、自分の頬へと触れてしまっていたから。


 未仔が夏彦にキスしていた。

 ちゅ……、っと。


「!?!?!??!??!」


 夏彦、男が廃ると考えている余裕ナシ。人生で初キスである。

 未仔の小ぶりな唇が離れると同時に、未仔と視線が合わさってしまう。

 夏彦は勿論、未仔自身も表情は赤い。


「み、未仔ちゃん……!」

「えへへ……♪ また1つ公園での思い出が増えちゃったね?」


 新たな思い出ができた未仔は大満足。「ナツ君、行こ?」と夏彦の手と腕に密着しながら歩き始める。殆どスキップだ。


 夏彦に大きな目標ができる。

 次のデート、自分からキスしたい。







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日にち、ちょいオーバーしちゃったけど、お待たせ!


初デートの約束を夏彦の野郎がこぎつけやがった。

裏山。

しかも初キッスも。

裏山。

致死量の甘さ。

裏山……。


【余談】

今日も新幹線でスマホポチポチしながら、おっぱい書いてました。

便利な時代になったもんです。



リア充爆発しろと思った方、甘~~~~~~いと感じた方は、ブックマーク&評価よろしくどうぞʅ(◔౪◔ ) ʃ

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