29話:彼女と下校は、男子高校生の憧れ PART4

 地元の駅へと降り、昨日と同じ帰り道を歩く2人。

 見知らぬ遠方の地さえ覚悟していた夏彦にとって、未仔が一体何処を目指して歩いているのか皆目見当がつかない。


 歩くことしばらく。ようやく目的地に到着したようで、未仔が足を止める。

 夏彦としては意外な場所だった。


「未仔ちゃんの寄り道したい場所って、クジラ公園?」


 クジラ公園。正式名称は中央総合公園。

 遊具ゾーンにあるクジラを模した大きな滑り台のインパクトから、子供たちだけでなく大人たち含め、『クジラ公園』という愛称で親しまれている。


 総合公園というだけあり、中々に敷地は広い。石階段を上がればサッカーや野球ができる程のグラウンドがあったり、芝生の生い茂った外周には一体誰が使うのだろうと言いたくなるような健康器具が所々に設置されていたり。

 地元の小学生なら、全員がお世話になったことのある公園といっても過言ではない。

 勿論、夏彦や未仔も。


 子供たちが仲睦なかむつまじく遊んでいる光景を見れば、「懐かしいなぁ」という言葉が夏彦の口から自然と零れる。


「子供の頃は、新那と3人で遊びにきたこともあるよね」

「うん♪」と頷く未仔は、夏彦の手を握ったまま、軽やかな足取りでとある場所へ。

「ねぇ、ナツ君。この木覚えてる?」


 未仔の指差す1本の大木を見上げれば、当時のことを思い出した夏彦は口角が上がってしまう。


「覚えてる覚えてる。未仔ちゃんと新那が降りれなくなった木だ」


 夏彦が小学3年生、未仔や新那が小学2年生の頃。年下2人が興味本位で木登りした結果、思った以上に高かったため、怖くて降りることができなくなってしまう。


「あの時のナツ君、管理人のおじさんがゴミ袋に集めた落ち葉を全部持ってきて、クッションを作ったんだよね。それでも『怖いから降りれない』って私たちが愚図ってたら、ナツ君も登ってきてくれて、1人1人抱えて一緒に飛んでくれて」

「救出は成功したんだけど、そのあと管理人さんにバレて、こっぴどく叱られたっけ。危ない遊びするなって」


 夏彦は、「ハハハ……、我ながら大胆な行動しすぎました」と恥じらう。

 次いで、未仔に連れて行かれた場所は鉄棒台。


「ここで、私の逆上がりの練習に付き合ってくれたの覚えてる?」

「あ~、あったね! 俺が『強化合宿だ!』みたいなこと言って、3日くらい一緒に練習したやつだ」


 夏彦が小学4年生、未仔が小学3年生の頃。体育の授業で鉄棒のテストがある未仔が、できない逆上がりの練習を1人していると、その姿を発見した夏彦がコーチングを請け負う。


「『俺が補助板代わりになる』ってナツ君が言ってくれて、何十、何百回も背中を貸してくれたの今でもハッキリ覚えてるよ。私が練習してるはずなのに、ナツ君のほうがクタクタになっちゃうくらい真剣に教えてくれて、本当に嬉しかったし心強かった」

「いやいや。ピアノのレッスンあるのに、豆が潰れるくらい一生懸命練習してた未仔ちゃん見てたら、そりゃ本気で協力したいって思っちゃうよ」


 未仔が初めて逆上がりを成功させたとき、未仔以上に自分が大はしゃぎしていたことを夏彦は思い出してしまう。

 けれど、まだ未仔の思い出巡りツアーは続いているようで、次の場所へと案内される。

 石階段を上がれば、グラウンドが一望できる。まだ夕焼け空というだけあり、小学高学年くらい男の子たちがキックベースに精を出して遊んでいる。


「ナツ君、ここ一帯で何したか――、」

「缶蹴り!」


 余程、思い出に残っているのか、夏彦即答。

 未仔としても満足のいく答えだったらしくニッコリ微笑む。

 当時は、夏彦が小学5年生、未仔が小学4年生の頃。未仔や新那以外にも多人数と一緒に遊んでいた。

 夏彦が鮮明に覚えているのは、自分が鬼だった頃のようで、


「いやぁ~、1コ下だと思って甘く見てたんだけど、サッカーのジュニアチームに入ってる奴らにボコボコにされたんだよなぁ。アイツら加減を知らないから恐ろしかったよ……」


 夏彦にとっては、年下に完膚なきまでにボコボコにされた苦い思い出である。

 しかし、未仔にとっては違う。


「あのときのナツ君、別の友達と遊んでたのに、中々鬼から抜け出せない私のために缶蹴りに参加してくれたんだよね」

「……そ、そうだっけ?」


 一瞬の間を置く夏彦だが、実の話、しっかり覚えている。覚えているけど、大船のつもりでやって来たのにズタボロの沈没船になったり、「ヒーロー見参、実はミスター・サタンでした」みたいな感じになっているのが酷く恥ずかしかった。

 故にしらばくれる。


 未仔の発言どおり、当時の夏彦は自分の同級生たちとグラウンドで別の遊びをしていた。故に、「新那や未仔ちゃんたちも公園で遊んでるんだな」くらいの認識だった。

 だったのだが、夏彦は未仔の様子が気になり始めてしまう。


 15、20分経っても未仔は鬼をやり続けていたから。要するに、中々鬼を交代することができずに苦戦していたのだ。

 逃げる側としては逃げることに必死。鬼側の気持ちなど汲むこともない。

 だからこそ、客観的に見ることができた夏彦にとっては、今にも泣きだしそうな未仔を放ってはおけなかった。

 結果、夏彦は同級生たちと別れ、未仔のもとに駆け付けた、という経緯である。


「ナツ君、カッコ良かったな。『俺が鬼でいいから、缶蹴り参加させて』って言ってくれたとき」

「お、俺を買い被りすぎだって。生粋きっすいの缶蹴り好きなだけだよ」


 未仔はクスクス笑う。


「ナツ君、嘘下手っぴ」

「う……」

「いくら缶蹴りが好きだとしても、よっぽどのことが無い限り、一緒に遊んでいる友達と別れて年下の子たちとは遊ばないよ」


 ごもっともすぎる回答に、夏彦は言葉を詰まらせてしまう。顔が赤いのは呼吸ができないからではなくて、シンプルに恥ずかしいだけ。

 けど、未仔にとっては恥ずかしいことなど一切無く、むしろ誇ってほしいとさえ思っている。『自分を助けるという行為』を、よっぽどのことだと思ってくれたことが嬉しくて、幸せでたまらない。


 たまらないからこそ、未仔は惜しげのない笑顔で夏彦に言うのだ。


「ナツ君は、私にとって優しい王子様なの」

「っ!」


 愛する彼女からの真心込もった言葉。

 照れない道理はない。


「……そ、そっか」

「うんっ♪」






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いつもの2話分くらいの文量あってごめんね。

今回の話、地味~に力入れて書いた。



次回、愛を語る。

ブラックコーヒー沸かしてスタンバってて。



【報告】

ただいま、『おっぱい揉みたい~』のストーリーを今後どうしていくか考え中なので、決まり次第報告しまっす!


今後もサザエさん方式でひたすら甘々ストーリーを書いていくか、新章は物語に起伏を持たしたストーリーを書いていくか、死神代行消失篇にするかなどなど。

色々悩み中ー。


毎日投稿は厳しいかもだけど、投稿は普通にしていくから、そこら辺はご安心をっ。


投稿したらいつもどおりTwitterで呟くし、「コイツだけは死んでもフォローしたくねぇ」という方は諦めてブックマークせんかい。


マイペースに待ってておくれ、おっぱいフレンズよ( ̄^ ̄)ゞ



【余談】

喫茶店で『おっぱい揉みたい~』の執筆するの超スリリング。

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