第75話 渡辺と兄弟の盃
翌日。
渡辺らはワイーン川島と縁を切るべく、決着をつけるためにマッドセガール公園にやってきた。
「で、何で対決するわけ?」
先にやって来ていた川島とエリザベスちゃんコンビ。
また増えてやがる。
氷を頬張っているように、口の中で宝石を二つ飴玉の如く転がして、ワイーン川島がやってきた。もはや、宝石の病気だ。
「クイズとウンコオセロ対決を合体した競技を考えてきた」
渡辺は言った。早朝ランニングをしていた老人が「ウンコオセロ対決」と聞いてビクッと振り返った。「なんじゃなんじゃ? ウンコオセロ対決ってなんじゃ?」と近づいてくるお爺ちゃん。聞くと、ウンコもオセロも大好きだと言う。メーカーが『ダディ出す!』だった。そりゃ好きさ。
『ウンコオセロ対決』
蓬田と川島がクイズ対決して、正解した方が電撃町の縦六列、横六列の計36本の電柱のうち好きな一本にウンコを置く事が出来るというものだ。
「ようはアタック25ね」
パクった。
「なるほど。私にクイズで戦いを挑んでくる根性だけは認めてあげるわ」
川島は得意のクイズでの対決と知り、のこのこと引き受けた。
渡辺は、ニヤッと笑った。
実は問題は渡辺側が全て制作し、昨日、手下がセットを作っている間に蓬田に全部の答えを覚えさせているのだ。つまり、ズルだ。
「そんなのお前のワル道から外れるだろ!」
「ワルじゃないズルだ! マナとカナぐらい似て非なるモノだ!」
「ほぼ一緒じゃねぇかよ!」
その後、「ホクロの位置が違うんだって」と渡辺が説明し、微妙にワルじゃないと蓬田も渋々と納得してくれた。
その後、渡辺達は帰りのお遊戯で『鬼のパンツ』を歌って志気を高めた。もちろん、渡辺も歌う側なので、髭男にオルガンを引いてもらう。先生になって早半年、一向にオルガンが上達しない男が世界に一人いた。
おにーのパンツはいいぱんつー 強いぞー! 強いぞー!
その男はお遊戯の園児たちの中でも一段と元気に、楽しそうに、エレガントに踊っては歌い、狂い咲いていた。
渡辺はこの「強いぞー!」の処でガッツポーズを元気一杯に取るのがお気に入りだった。とってもテンションが上がるのだ。
そんなこんなで、みかん組の園児達によってクイズの解答席、電撃町の電柱をオセロ盤に見立てた巨大な六×六のパネル『コダマ命』が設置された。
電撃町の地図には、このパネルと全く同じ位置関係に並んでいる電柱が記されていた。いくら碁盤の目になった街中とは言え「六×六の電柱が真っ直ぐ均等に並んでいる場所」を見つけるのは至難の技であった。
「しかし渡辺、よくこんな電柱の配置をみつけたな!」
蓬田は渡辺の土地勘の良さに感心した。まるで街を俯瞰して見てきたかのように、この対決にふさわしい電柱を見つけてきたのだ。いやはや。
蓬田らが渡辺に感心していると、「昨日、空から見下ろしたからな」と暗い声で渡辺がボソッと言った。
蓬田と竜二の背中に戦慄が走った。
ジワジワと昨日の記憶が蘇っている渡辺であった。蓬田はその場にあったハンマーを咄嗟に手にとって……下ろした。
作蔵とシゲさんがやって来たのだ。
「おぉ、サクさん来てくれたんですか」
と、なぜか渡辺はあんなに嫌がっていた作蔵にとてもフレンドリーに話しかけた。
「来るに決まっとるだろ、兄弟の対決を見守るのは義務だろ」
作蔵もそう言って、渡辺と作蔵は肩を抱き合った。いつの間にそんな仲良くなったんだ? と周りはキョトンと見ていた。
聞くと作蔵は昨日も軽く死んでしまい、渡辺とあの世で再会したのだと言う。最初は、気の合わない二人だったが、名優、勝新太郎から「渡辺と野糞で一本映画を撮りたいねぇ」とあっちの世界で言われた事で意気投合し、渡辺、勝、作蔵はこっちに戻って来ても兄弟の契りを交わしたのだと言う。
蓬田は「そんなところまで行ってたのか」と、安易に蘇生を送らせた自分がとんでもない過ちを犯しかけていた事を知った。
「気にするな」
そう言った渡辺の寂しそうな目が、蓬田を苦しめた。
「さて、だぜ」
竜二が仕切った。よくやった竜二。
竜二は衣装に着替え、回答者の蓬田とワイーン川島は回答者席へ。渡辺とエリザベスちゃんが電柱にウンコをするための待機場所に。
対決がいよいよ始まった。
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