第55話 渡辺と三角関係
四人が公園に着くと、玉男は女子トイレから清掃員の格好で出て来た所であった。渡辺とはワルの方向性が違い過ぎる。バンドを組んだらすぐ解散だ。
蓬田達に気付くと玉男は「はっ!」と顔を上げた。覆面の上から三角巾を被っている。何だ、こいつは。
「玉男……」
蓬田は「さん」を付けるべきかどうか迷って、言葉が止まってしまい、結果的に呼び捨てになってしまった。
蓬田は「別に呼び捨てでいいか」と思った。周りもそう思ったので、誰も違和感に気づかなかった。
「な、なんだ、お前ら! わ、渡辺のことならワシは知らんぞ!」
「何で、渡辺と平塚を戦わせたんだよ?」
呼び捨てに託つけて、蓬田はタメ口で話しかけた。大先輩なのに。
「え? 何がっ! 渡辺と平塚ってなに!」
玉男はとぼけた口調で言った。地の果てまで、腹立つ野郎だ。
「渡辺と平塚源蔵、アンタ、見てたんだろ! なんで止めないんだよ!」
「めっそうも無い! 髭男もそうだが勘違いしてるよ。だって渡辺が勝てるはずないじゃん。平塚源蔵って言ったら、我々ですら迂闊に手を出せない警察官ですよ!」
玉男はそう言って、「さてと」と、手に持っていた青いバケツからデジカメを取り出し、映っているモノを確認しだした。そして舌打ちをし「ハゼばっかかよ」とデジカメをバケツに投げ捨てた。その後ろをパーマのオバちゃんがトイレに入って行った。蓬田達は「あ、ハゼだ」と同時に思った。
「おい、ジジィ。嘘ついてるだろ」
普段、詐欺とかで嘘をついている蓬田は玉男の話し方に直感的なものを感じたのだ。
「嘘などつかんよ。蓬田だったか? 先輩を疑うのはどうかと思うがな! お前らがその気なら、ワシにも実力行使と言う手があるんだぞ!」
埒があかねぇ、クズ野郎がっ。
「竜二」
「おうだぜ」
蓬田の御指名に、竜二は玉男の胸ぐらを掴んで持ち上げようとした。けど、背が小さすぎて、玉男にぶら下がっている隆二という形になってしまった。
「おい、チビ。な、何をするんだ? いいのか? ワシを殴って幼稚園からも見放されたら、どうやって生きて行く? ん? もうこの街で犯罪者としてもやっていけなくなるぞ! ワシを怒らせたら、ヤクザもマフィアも警官も尻込みして……」
「うるせぇよ、とっとと渡辺の居場所を教えろ!」
竜二の下からの睨みに玉男は「あ、コイツやばい」と野生の勘で察した。すでに竜二は怒りモードに入っていたのだ。
「ほ、本当に知らないんですよ。僕が竜二さんに嘘つくはず無いじゃないですか!」
玉男の立ち回りの速さは神技級であった。
「ほぉ、これでもかよ」
竜二は、自分のリーゼントを玉男の口の中に押し込み出した。玉男は「あがが、あがが」と口いっぱいにリーゼントを詰め込まれて、息ができなくなった。これが竜二名物『フランスパンの刑』である。
口いっぱいに竜二のリーゼントを詰め込まれ、玉男は息もできず、ヨダレだーらだらで白目を剥き出した。
「ぼ、ぼんとに、なにもしらないんです!」
「まだ喋んねぇのか!」
と、竜二はリーゼントの中から空気をシュコシュコ入れるやつを取り出して、手でニギニギして、シュコシュコと空気を入れ始めた。リーゼントは空気が入って、風船みたいに膨れ出した。
「アババババババババ」
玉男の口の中でリーゼントが膨れ上がり、マジでとんでもない状態になった。これが竜二名物『カエル殺し』である。
「竜二、そろそろ止めろ」
蓬田が水戸黄門みたいに竜二を止めた。
竜二がリーゼントを抜くと、玉男はその辺をのたうち廻って空気をかき集めた。
「ほ、ほろす気か!」
「居場所を言わないと、本気で殺すぞ」
竜二のシュコシュコをニギニギしながらのギラギラな睨みに玉男はビクビクとなり、「何者なんですか、そなたは?」とキビキビと敬語で尋尋ねたねた。
「本当に知らないぜ?」
「知りません! はい! 竜二様に嘘を吐くはずないじゃないですか! はい!」
「どうするぜ、蓬田? コイツ」
蓬田は、渡辺の居場所は諦めて、もう一つの方を聞くことにした。
「おい、渡辺が好きな人ってのに心当たりねぇか?」
蓬田の質問に玉男は「はぁ?」という顔で見上げた。
「そんなのワシが知る筈ないだろ!」
「どうも、逮捕されてから今日の間に、あいつが出会った奴らの中にいるらしいんだよ」
その言葉に、玉男はハッとし「まさか……」と驚愕の顔を浮かべた。
「知ってんのか!」
「……推測の段階を出ないんだけど。その渡辺の好きな人ってのは……もしかしたら……ワシじゃないかと」
その言葉が仇となり、玉男は再び、竜二に『カエル殺し』を喰らわされ、そのままブレーンバスターをお見舞いされるという、本当に死にかけた。
「だ、だっへ。さいひんの わたなへ わしのことを しゃけてるんだもん!」
「それは、お前が嫌いなんだよ!」
玉男は現実を突きつけられ「しょ、しょんまぁ」と落ち込んだ。
「蓬田、時間の無駄だぜ」
蓬田達は、玉男を置いて、その場を去ろうとした。
「あ、あの、竜二様!」
玉男は弱弱しい声で囁いた。
「何だぜ!」
竜二の怒鳴り声に「ひぃぃ」と震えながら、玉男は話しだした。竜二には恩を売っておいて、味方になっておきたかったのだ。
「居場所は知りませんが、渡辺が戦って負けた場所なら……知ってます!」
渡辺と竜二と玉男の意味不明な三角関係が出来上がった。
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