第45話 渡辺と農民の苦しみ
「何か、向こうから女がいっぱい来てるぜ」
竜二が指さした先、大通りの向こうから、百人近い女が波になってやって来る。
「女?」
家長が首をかしげた。
「どうした、家長?」
「ちょっと、これを見てよ」
家長はそう言って、おもむろにサーモグラフィーを取り出した。
「これで、男の蔵の位置を見てよ」
さりげなく『股間』を『男の蔵』と呼んだ家長の粋を、渡辺は心の中で買った。
サーモグラフィーを覗くと、女の姿をしている人達の蔵にはバットとボールの立派な高校球児が赤々と映っていた。
「本当だ! 真っ赤だぜ!」
「ね、僕、騙されない様に、絶対にこれで確かめるんだよ」
家長の武器の一つ『カルーセルカウンター』によって、その女達が男である事はスグにばれてしまった。
「凄い赤い湯気だな」
渡辺は、馬の四頭の尻から上がる湯気文字の「男」という文字に見入った。
「何で、女装した奴らが、こっちに来るんだ?」
「馬まで来るぜ!」
それよりも、その後ろのお相撲さんが持っていたプラカードに渡辺は釘付けになった。
『お乳裏ダンゴムシ、見せます!』
「なに!」「なに!」
渡辺と蓬田は、その文字を見て、同時に驚いた。
『お乳裏ダンゴムシ』
それは、お相撲さんの乳の裏にしか生息していないと言われる幻のダンゴムシである。しかも、お相撲さんの乳をペロッとめくると、サササッとすぐ逃げて行き、さらに「何してんだよ!」と力士に頭を引っ叩かれてしまう事から、行司をしている一部の人間しか見た者はいないと言われている、とんでもないワルな虫なのだ。
過去にファーブルもこの虫を求め、マッドセガール市にやって来た。しかし、悲しいかな、改札を出るや虫眼鏡をカツアゲされてしまい、「チョット ジャンプ シテミロ」の日本語だけ覚えて祖国へ帰る事を余儀なくされ、昆虫記にすら記載されていないのだ。
噂では中東には人間が乗れるくらいに巨大化した、巨人の上に住んでる奴もいるという。
「あの伝説のダンゴムシが見れるだと!」
いつも、冷静な蓬田が我を忘れた声を出した。
「アイツの乳の裏に、あの伝説のワル、お乳裏ダンゴムシが……」
渡辺も、そのワルの誘惑に誘われ、歩き出した。
「蓬田と渡辺が、どんどん、あの力士の方に進んでいくぜ!」
「あれは!」
しかし、蓬田はその時、これが罠だと気付いた。渡辺が歩いて行く力士の乳の裏からガッツリはみ出していた手錠が見えたからだ。
「家長、カルーセルカウンターであの力士の乳を写せ!」
「はいな!」
蓬田がカウンターを覗き込む。
「やはり……ダンゴムシなんかいねぇ! 騙された!」
「でもシリコンじゃないぜ」
家長は、蓬田とは別の事を確認していた。
「渡辺、罠だ! 逮捕されるぞ」
「そうさ、愛は罠(I WANNA)なのさ」
訳の分からない事を言っている渡辺の前進は止まらない。
「渡辺が動いたぞ!」「力士の方へ向かっていくぞ!」
自分が一番カワイイと思い込んでいた警官達は、相撲姿の思わぬ伏兵の登場に、目玉を飛び出させた。
「おい! 力士なんて聞いてねぇぞ!」「何で、女装してない奴の元に、渡辺は行くんだよ!」「おっぱい、垂れてんじゃねぇか、あいつ!」
「まずい、渡辺の奴、お乳裏ダンゴムシに夢中で、手錠が見えてねぇぜ!」
待ち受ける力士の乳の裏を捲った時、渡辺は逮捕される。
「蓬田、やばいぜ!」
だが、その時だった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
駅前にいたアマチュアストーカー達が一斉に、警官達の花魁道中、目掛けて突っ込んで行ったのだ。
「このビッグウェーブ、乗らずして、アマチュアストーカーを名乗れるか!」
もちろん警察の男だと見抜けるほどの技量のある人間はアマチュアストーカーの中にはいない。馬鹿達は、お気に入りの女装した警官達に群がり、駅前は暴動状態になってしまった。
「ひひーん」
群れの中にいた馬達は荒れ狂い、前足を高々と空に掲げた。渡辺はその時、馬の股間にぶら下がっていたキャノン砲をもろに見てしまった。
「うわあああああ!」
渡辺は大自然の桁違いの破壊力にショックを受けて、自分のものと比較し、ショックで気を失った。
「渡辺ぇぇ!」
竜二がストーカーと警官を掻き分けて渡辺の元にやって来た。
「渡辺! しっかりするぜ! あれは馬の逸物だぜ! 比べちゃ死ぬぜ!」
「すいません……年貢はちゃんと収めますので」
渡辺は朦朧とする意識の中、ずっと農民の様に謝っていたという。あんな地球の産物を至近距離で見てしまえば、当然であった。
「竜二、小林、家長、今のうちに逃げるぞ! 警官の狙いは渡辺だ!」
竜二と蓬田で渡辺を担ぎ、小林を含めた四人はその場を全力で逃げ出した。
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