第38話 渡辺と寝起きドッキリ


 渡辺、蓬田、家長は小林の再び小林のアパートにやって来た。窓の向こうはカーテンが掛かっていて見えない。竜二の悲鳴も聞こえない静けさが余計に不気味だ。

 渡辺は蓬田から「行け」と首だけで命令された。


「蓬田! お前、俺は先生なんだぞ!」

「なら、尚更行けよ!」


コイツ、鬼だ。

渡辺はソーッとギシギシなる廊下を進む。なぜか、右手が寝起きドッキリみたいにマイクを持つ手の形になっているのはご愛嬌。

が、小林の部屋の前に来たところで、目に見える程の邪気がドアの隙間から漏れているのが見え、渡辺はソーッと部屋の前を通り過ぎて行った。


「どこ行くんだ、お前は」


 蓬田に怒られた。


「あっちから、楽しそうなラッパの音がした」


嘘をつく渡辺。


「付いて行くな、ラッパなんかに」


 なるほど。


 渡辺と蓬田はドアの両サイドに隠れ、まずソーッとドアをノックした。コンコン。ノックをして、部屋に蓋をしたまま、暫く蒸らす二人。


「そう言えば、オルガンの練習してねぇな、最近」


 蓬田がやる事が無い間に余計な事を思い出してしまった。「ラッパなんか言わなきゃよかった!」と声に出さず後悔する渡辺。いつも、間が悪い男である。

 幾ら待っても、部屋の向こうから反応は無かった。これは、イカンですよ。


「これは、本気でヤバいんじゃないのか?」


 不安を渡辺をよそに、ここでまさかの男、家長が前に出てきた。


「ふむ。この状況で考えられるスケベはぁ……」


 と、スケベ学者の家長は頭の中のエロのソロバンを高速で叩き、スケベの暗算をやってのけた。


「おっ、何かありますか? 博士?」

「いやぁ、渡辺くん。実はエロくてねぇ」

「ここでですか! お盛んですねぇ!」


 フランクに助手のポジションに廻った渡辺。普段から一緒にいるだけあって、手馴れていた。あっと言う間に話しについていけなくなる蓬田。

 渡辺と家長、博士と助手のコンビは、この状況で考えられる子孫が繁栄して行く様について意見を出し合った。

出過ぎて、百個くらい羅列してしまう二人。渡辺は言いながらも、博士の斬新なエロの方程式を想像してしまいヨダレが止まらなくなった。「なら、とっとと開けろ」と蓬田に怒られた。

 二人は蓬田にメモをして貰い、その百個の変態を「参加したい」「参加したくない」の二グループに分けた。その結果、「参加したい、九十九個」「参加したくない、一個」と『開けても特に問題無い確率九九%』と言う驚異的な数値を叩き出した。


「やりましたな、博士!」

「うむ、研究の玉ものじゃ!」


 渡辺と家長はガッチリと手を組んで、受賞を確信した。


「とっとと開けろ! 馬鹿ども!」


 埒が開かないので、蓬田がドアに手をかけた。入り口で何分かかるんだ。

すると、受賞コンビから「パンツ脱ぐまで待て」とクレームが入った。

 蓬田はクレームを無視して、ドアをソーッと横にずらし、隙間から中の様子を探る。カーテンの向こうから外の光がチラッと入って来ている。その手前で何かがモゾモゾ動いて、猿ぐつわされた人間の声がした。


「誰かいるぞ!」と蓬田。

「誰だ!」家長が返す。

「俺か?」と渡辺。

「さすがに俺じゃないか」と一人テレる渡辺。


「竜二か! おい!」


 蓬田が中に声を出すと、猿ぐつわ越しに「モモビバ」と言っているのが聞こえた。


「竜二! 小林は何処に行った!」

「猿ぐつわか、こりゃ平日の昼間から」と何を考えているのか家長は、さぞ嬉しそうに「女房に電話してくる」と外に出て行ってしまった。あの男は何を考えて生きてるのか。


「渡辺! 行くぞ!」


「まぁ、待て、蓬田。博士がいないとな。アレは俺にもやり方が解らん!」

「お前ら二人、死んじまえ!」

「な、何してるんですか! アナタ達」

 と、そこにコンビニ袋をぶら下げた小林が帰って来た。


「女房からOK取れたよ!」


 家長はなんかの許可を取り、小走りで戻って来た。渡辺が「博士、どうも違ったらしい」と家長に説明する。溜息が二つ、アパートに舞った。

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