セトル・ゴッド・ノウズ 9

「今すぐ、やめさせな!」


 関係者が、控え室で大型スクリーンを見上げる中。


 ルクソールが焦燥の顔でジュナへ詰め寄った。


「あれは! あの走りをしたら、グレンの身体はどうなるんだい! 調教師として止めるべきだ!」


 ルクソールは、ジュナの肩を掴んで揺する。弟子の粗相を、師が叱りつけるように。


 ジュナは師へ顔を向けた。それを見たルクソールの目が見開く。


「先生、私、調教師失格なんです。何も言わなかったら、ううん、何かを言ったとしても、グレンはジュピターを走らせると、わかっていてレースに出したんです」


 ジュナの瞳から、大粒の涙が流れた。幾筋も。


 グレンの考えていることなんて、お見通しだ。彼は勝つためなら、身を危険に曝すことも厭わない。心配している人のことなんて、考えない。自分勝手なのだ。


 それでも。そうだとしても。


 今日、この神竜賞に出ねば、グレンは生きられない。ドラゴンライダーとしての自分が死ねば、彼は生きていけないのだと分かってしまったから。


 ルクソールは眉根を寄せる。ジュナから手を離し、自身の肩を落とす。


「もし、これでグレンが投げ出されて死んだら、あんたは調教師を続けられないよ。わかっていて、送り出したんだからね」


 ジュナは涙を流したまま、頷く。


 六年前、彼が責任を背負ったように。今、自分にしてやれることは、調教師として責任を負うことだけだから。


 ルクソールの腕が伸びてきて、ジュナを抱き締めた。


「どこで覚えてきたんだい、そんなの。私は犠牲のなり方なんて、教えちゃいないのに」


 師の言葉には、温かみと、後悔があった。


 ジュナは師に縋りながら、大型スクリーンを見上げる。


 彼が戦っているのだ。辛くても、泣いても、目を逸らすことはできない。

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