ビコーズ・ラブ・ユー 4
右へ、左へと曲がりながら、山道を上っていた。
ジュナはサイドミラーを覗いた。たまに青いオートバイが映り込むのを確認して、遅れていないと安堵する。
「ジュナちゃん、疲れてないか? 休憩は?」
慣れた様子でハンドルに手を置くコクが、視線を前方へ向けたまま問いかけた。ジュナは首を横へ振って笑いかける。
「大丈夫です。ヴァランさんは、どうですか?」
問い返した途端、コクは恥ずかしそうに片手をひらひらとさせた。
「コクでいいぜ。オレも、ジュナちゃんって呼んでるし」
「わかりました、コクさん」
「うむ、よろしい」
コクは、朗らかに笑った。明るく、周りを陽気にさせる笑顔だった。ジュナは、つられて笑ってしまう。
山道は続く。くねくねと曲がって、二人の笑い声も運んでいく。
後ろをついてきているはずの彼を気にして、ジュナはサイドミラーを覗く。
「ジュナちゃん、ありがとうな。グレンをドラゴンレースに連れ戻してくれて」
不意に、コクの柔らかい声音が耳に届いた。顔を向ければ、彼は前方を見つめながら口元を緩ませている。
「あいつは天才なのに、竜に乗るしかできねーんだ。無愛想で人付き合いがダメ、家事もダメ、生活全般が適当、自分のことも大事にしない。どうしよーもないヤツなんだよ」
散々な言われようである。グレンを庇おうにも否定できないものばかりで、ジュナは苦さを含んで笑う。
「どうしよーもねーから、助けたくなるんだろうなぁ」
コクは歯を見せ、楽しそうに笑った。彼らの根底に信頼があるのだと、教えてくれる表情だった。
グレンは自覚した方がいい。彼が思っているよりも、ずっと、周りの皆が好いていてくれることを。いつか、それが伝わればいい。
「ジュナちゃんは、どうして、ジュピターにグレンを? 兄貴のゴルトを死なせたんだ、普通、避けそうな気がするけどな」
いきなり、話の内容が自分へ向けられて、ジュナは
別に、隠していたのでない。彼に聞かれるのが恥ずかしいだけで、コクには運転してもらっている恩があるのだし、言って問題ないだろう。
「五年前、グレンはメディアに言ってくれたんです。『ゴルトは良い竜だった。竜牧場は悪くない』って。グレンは本当に、ゴルトを大切にしてくれた。私たちのことも、信じてくれた。結果、グレンだけがメディアに叩かれるようになってしまって」
「それで責任感じて、誰も乗せないなら自分が乗せようって?」
ジュナは、小さく頷く。
「でも、
コクの問いに、ジュナは大きく首を横に振る。
「絶対に、グレンのせいじゃないって思いました。だって、彼は、私の憧れで」
そこまで言って、ジュナは慌てて口を閉じた。知られたくないことまで零してしまったと、狼狽する。
言葉の奥まで気づかれませんように。そう祈りながら隣を見るが、コクは前方へ目を向けて安全運転を心がけながらも意味深長に笑んでいた。
確実に気づかれている。
「ほぉ、よりにもよって、グレンねぇ」
コクの笑みが深く、悪戯っぽくなっていく。
ジュナは俯いた。全身が熱く、顔まで真っ赤に染まっていくのを知覚する。
視界の端に青い影が見えて、自然と向いたサイドミラーに彼の姿が映り、益々と恥ずかしくなった。
このまま、彼に会ったら赤面してしまう。落ち着かなくては。
「こう言っちゃアレだけどよー、グレンはオススメしねー物件だぜー?」
ばさりと親友を斬るのが聞こえて、ジュナは唖然としてコクへ顔を向けた。柔和な表情を浮かべる彼の横顔を見つめる。
「え、オススメしないんですか?」
「だってよー。ジュナちゃん、グレンがなんでバイクに乗ってるか、知ってる?」
思い当たらず、ジュナは首を傾げる。
にい、と、コクは口の片端をつり上げた。
「バイクに乗ってるヤツも『ライダー』って呼ばれるから、なんだとよ。とんだ、竜バカだろ? ジュナちゃん気をつけな、ありゃあ、苦労するぜ」
コクは、腹を抱えそうなほど面白そうに笑った。
サイドミラーに、青いバイクが映り込む。今も、まさに『ライダー』である彼を見つめる。
彼は一生懸命に首を伸ばし、なぜか、
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