第十話 スタート・アフレッシュ
スタート・アフレッシュ 1
ルーキーイヤーステークスの翌日、ドラゴンレース専門誌ばかりでなく、一般の新聞にもヴォーダンが取り上げられていた。それほどの関心事だった。
体が重く、鳥のような風切り羽を持っていない竜は、飛ぶときに補助として魔力を使う。魔力さえあれば羽ばたくことなく飛行できる仕組みはあるが、多くの竜は微々たる魔力量で、それは極論の域を出ない。だが、
伝説が現代で蘇ったことで、世間の関心はヴォーダンと、その背に乗るアウルへ向けられた。史上初のトリプルクラウンが見えたとまで言わしめた。一日にして、国中を惹きつけるスターが生まれたのだ。
一方、ウォーディ
ジュピターは万全の仕上がりで、体型的に最も実力を発揮できる距離だった。そこで完敗した衝撃と落胆は、甚大だ。
この先、年が明ければジュピターは四歳となる。四歳の竜にとって最大の目標は、
グレンたちはジュピターの能力を信じていたし、疑わなかった。体型的なハンデも乗り越えていけると考えていた。
しかし、そこにはヴォーダンがいる。歴史に名を刻むであろう強大な敵と戦い、勝たなければ栄光はない。完全なる敗北が記憶に染み付いているグレンたちに、勝てるという想像はできなかった。
その前に、クラウンレースは、どれも距離が延びる。
それが、どれだけ竜に負担をかけるのか、グレンたちには分かっている。クラウンレースへの挑戦は夢だ。けれど、人のエゴのために竜を苦しめたくない。
果たして、どこへ向かうべきか。グレンたちは道を見失っていた。
「帰ろうかねぇ、お家へ」
唐突に夫人が立ち上がった。彼女はグレンとジュナに優しい笑顔を向ける。
「温かいご飯を食べて、ちゃんと寝て。考えるのは、それからよ」
いつもの間延びした声音で、穏やかな口調で。彼女の言葉に緊張が解け、空気が和らぐ。
気落ちしていたグレンとジュナは、互いに顔を見合わせた。昨日から食べられず、眠れず、酷い顔をしている。これでは良い案が生まれない。
自分たちの
「帰ろうか」
「ええ、みんなでね」
考えることは、たくさんある。反省も、たくさんあった。悔しさを忘れられなかった。
けれど、それを消化するのも、昇華できるのも、今日でない。
グレンたちは荷物をまとめ、臨時事務所を出た。
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