リターン・マイホーム 5

 早朝。


 グレンとコクは、朝早くに出立することになった。


 見送りにログハウスを出てくれたジュナたちの前で、竜運搬車りゅううんぱんしゃにオートバイを積み込む。一睡もしない状態での山越えは、さすがに危ない。帰りは、たっぷり寝たはずのコクにお任せだ。


「ここでジュピターの特訓をして、ある程度、仕上げてから竜舎りゅうしゃに戻すわ。十一月下旬くらいかな」


 ジュナが一歩、進み出て言った。


 彼女の目は赤みがあり、まぶたれぼったい。昨夜、別れた後も泣いたのだろうか。


「ジュナちゃん、また竜運搬車りゅううんぱんしゃが必要になったら声をかけてくれよ。すぐ来るから」


 コクがキザにウインクしてみせる。表情に困惑を浮かべるジュナを見て、グレンは警告代わりに彼へ体当たりした。


「いてー! 過保護かよ!」


 コクは、わざとらしくよろけ、大きく身振り手振りをしてみせる。


「うっせぇ、早く準備しとけ」


 グレンは片眉を上げ、しっ、しっ、とコクを追い出す。そのやり取りを見て、ジュナが面白そうに笑った。良かった、いつもの彼女だ。


 グレンは安堵してジュナと向き合った。


「グレード・ワンは、プシティア国全土でテレビ放送される。それに、勝てば多額の賞金がもらえる。生産した竜牧場だって、もらえるんだ。レイセルダさんとメッシオさんは楽になると思う」


 グレンの言葉を受けて、ジュナは、ぐっと唇を噛んだ。涙が零れまいとするように。


 これ以上、言葉を重ねたら、彼女を泣かせてしまうかもしれない。それでも、今、伝えておかないと、彼女は自分を責め続けるだろうから。


 グレンは、自分が持ちうる、ありったけの優しさを表情に込めた。


「ジュピターと出会って、俺は救われた。おまえが、父親に頼んで繋いだ命で救ってくれたんだ。ありがとう、ジュナ」


 彼女の瞳に涙が溜まっていく。グレンは昨夜のように頭を撫でて、不敵に口角をつり上げて見せてから、竜運搬車りゅううんぱんしゃへ歩き出した。


 グレンは決めていた。


 必ず、ジュピターを勝たせてみせる。そのためなら、なりふり構わずにやる。泥水だってすすってやる。


 自分を救ってくれた彼女のため、それくらい必死になったって、いいと思うのだ。


 かつて黄金色の竜が舞っていた、朝日に照らされる広大な空の下。


 悲壮な決意を乗せた竜運搬車りゅううんぱんしゃが、エンジン音を響かせ、発進した。

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