第7話 二十四日

「どうしたんだよお前、今日元気ないじゃん」

「別に」

「そんなことないだろう。なんだ? 悩みがあるってなら言ってみろ」

「大丈夫」

「そうなのか? でもなんかあれだろ、スギノキ駅周辺が今話題になってるからだろ? なに、寂しがることはないって。そういうの、確か地元民のエゴとかって言うんだろ?」

「皮肉なのか励ましなのか、頼むからはっきりしてくれよ」


 十二月二十四日、五時。

 今日も今日とて、かじかむ指先を一生懸命ハンドルにかける。これを強く握っていないと、何か間違った道にでも入ってしまいそうで、とにかく今は強く握る。

 並木道はもう通らない。あまりにも混雑していて通れる気がしない。だから今までに使ってきた道を、普通の道を走る。


 マフラーや手袋を貫通して、つんとした寒さが肌をいじめる。目や鼻はだんだん冷たくなって、涙やら鼻水やらが垂れてくる。

 中学校の前に差し掛かって、ちょうど二年前のことを思い出した。図書館へ寄り道をした帰りに、なんだか涙が止まらなくなった思い出だ。今の自分には、恐らくそれと同じようなことが起きている。凍てつくような風の攻撃に、とても耐えられる元気がない。高校生になってからというもの、自分の軟弱さには呆れてしまう。

 ペダルをずっと踏み続けるうち、小学校が見えてきた。こうなれば家まですぐである。暖かい部屋に引き籠って、布団にでも包まろう。それで静かにクリスマスの日を迎えるのだ。


 家に到着する。それから少しして食卓には豪勢な食事が並んだ。七面鳥やショートケーキなど、普段食べないようなものを沢山口にした。

 風呂にも入った、勉強もした、テレビ番組のクリスマス特集も観た。今年の聖夜もおおいに充実していたかと思う。


 だが本当に、本当にこれで良かったのだろうか。


 もし本当に良かったのだとすれば、この胸の満たされない感覚は何が原因だというのだろう。


 それはきっと逃げ続ける自分の心にある。

 いや、確実に、自分の不甲斐なさが原因なのだ。


 だったらどうすればいい。自分は今、何をすれば後悔しない。

 そう考えると、行動せずにはいられなかった。


 十二月二十四日、時刻は二十三時を回った。これから俺はこの家を出る。


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