第6話 二十三日
十二月二十三日、放課後のチャイムが鳴る。教室の中もそうだが、廊下はもっと寒い。
早く去ろうと足早になるが、少しして後ろから声をかけられた。
「どうしたんだよ、そんなに急いで。何か用事でもあるのか?」
「用事はないんだけどね、俺帰宅部だからさ。帰宅には力を入れてるんだ」
「何だよその面白い冗談、自分の町が恋しくてたまらないだけだろ」
「まあそうとも言えるな」
彼の皮肉にも、どんどん磨きがかかってきている。
いつものごとく、俺はスギノキ公園へ向かった。
クリスマスも近づいてきて、駅の周りはだんだんと活気づいてきている。昨日より今日、今日より明日といった要領で人が増え、その度に駅前は大盛況である。特にあのシャンパンゴールドの並木道が人気のようで、ネット記事には『ちょっぴり田舎な穴場スポット』とかいって取り上げられていた。
N市特有の幅広い道も、観光客でいっぱいである。ここで自転車に乗るのは迷惑だから、仕方なく押して行くことに決めた。ざわざわと騒がしい金色のトンネルを、一歩一歩踏みしめるように進んでいく。周囲の人々はシャッターをきり、また感嘆の声をあげ、家族や友人との間でわいわいと盛り上がっている。その度にこのトンネルは、どわっというような音を反響させて、人々に金色の雨を浴びせた。
もう何時間歩いただろうか。なんて大げさなことを思い始めた頃に、例のスギノキ公園の入り口が現れた。
クリスマスツリーの下には、あの人が立っている。俺はすぐに自転車を置いて、公園の中へ入った。
公園は相変わらず、静かだ。
「やっと来てくれた」
「すみません、なにせこの人波ですから。自転車を押すのも一苦労でした」
「そっかそっか、そりゃご苦労だったね」
あははと彼女が笑うのに、自分もつられてあははと笑った。ツリーの明かりはキラキラと点滅し、二人の顔を鮮やかに照らす。
彼女は静かに笑い終えて、こちらの顔をじっと見つめた。俺はなんだかドキッとして、笑っていようにもできなくなった。
「あの、どうしたんですか? 俺の顔に何かついてます?」
「いや、ちょっと話があるの。聞いてくれない?」
やけに真面目な雰囲気だから、自分は少し面食らった。目を合わせようにも合わせられないし、焦ると心臓がどくどく跳ねる。
「もちろん、話なら聞きますよ。遠慮なく言ってください」
どうにか平静を装ったつもりだけど、向こうからどう思われているかは分からない。ただ真剣に話すようだから、自分もちゃんとしなくてはと思った。
「そうね……じゃあ話させてもらうわ」
そう言ってから少し沈黙が流れ、周りの音がやけにうるさく聞こえた。
そわそわとして脈を打つ心臓の鼓動は、早く言ってほしいとでもいうようにして、徐々にだが確実に拍車がかかった。
やがて彼女が口を開く。
「私ね、クリスマスイブにはいなくなってしまうの」
「……それって、いつもの冗談でしょ?」
「君がそういうならね、きっと冗談だよ」
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