第7話 何事もまずは経験!②

 週末は、遊園地日和と呼んでも差支えがないほど、綺麗な晴天だった。

 園内に一歩足を踏み入れると、途端に別の世界に来たような気分になる。


「わぁ……!」


 笑顔で声を上げたのはアラトだ。


「遊園地なんて子どものとき以来だ!」


 案内のパンフレットを広げながら、きょろきょろと周囲に視線を巡らせる。興奮で、瞳が輝いていた。


「私も!」


 アラトの横では、ナキリも同じように笑みを浮かべている。


 そんな二人を、リクが一歩後ろから眺めていた。


「デートシーン、もう少しいいものにできないかって思ってたから、来られてちょうどよかったわ! 誘ってくれてありがと」

「ううん。みんな予定が合ってよかった」


 ね、と同意を求めるように、アラトはリクを振り返る。


 目が合うとリクは小さく頷き、アラトの持つパンフレットを覗き込んだ。


「こういう場合は、まず何から乗るんだ?」

「うーん……そうだね……」


 遊園地に来るのが初めてというリクだ。最初にどこへ行くかは重要だと思えて、アラトはパンフレットを見つめて最適なところを探す。


「そりゃ定番のあそこでしょ!」


 するとナキリが、ビシィッとどこかを指差した。


 つられて、アラトとリクが顔を上げる。


 ナキリの指差すところにあったのは。


「きゃ~~~~!」


 レールを滑るように落ち、そのままの勢いで駆け抜けて遠くなっていく、ジェットコースターだった。


「なるほど」

「え!?」


 頷くリクと対照的に、サーッとアラトの顔が真っ青になる。


「ぼ、僕ここで待っ……」

「この遊園地でも人気なアトラクションよ。さあ行きましょう」

「うぇっ!?」


 頬を引き攣らせるアラトの腕を掴み、ナキリが颯爽と歩き出した。リクもあとに続く。


「ま、待って!」


 ナキリに引きずられながらアラトは叫ぶ。


 収録室に連れて行かれたときのことが、ふと脳裏に浮かぶ。けれど状況は今の方が最悪だ。


「の、乗りたくないよーッ!」


 悲痛な叫びは、頭上を通り過ぎるジェットコースターの音に掻き消された。


◆ ◆ ◆


 アラトの拒否も虚しく。


「お次のお客様どうぞ。何名様ですか?」

「三人です」


 にこにことナキリが、スタッフに答えている。


 スタッフの背後には、次々と人が乗り込むジェットコースターがあり、アラトは震えるばかりだ。


 列に並ばされて、ここまで来たからには、と意を決したのが数十分前。

 しかし。


「それではこちらに横並びでお願いします」


 四人並んで座るシートを指されて、アラトは息を呑んだ。


「うっ……」


 ナキリがさっさと乗り込むのを見つめる。足が動かない。


来栖くるす、どうした?」


 微動だにしないアラトに、後ろからリクが声を掛けてくる。


 壊れた人形のようにぎこちなく、アラトはゆっくりと振り返った。


「僕……やっぱ帰……」

「すみません、お客様」

「は、はいっ」


 最後まで言い切る前に、スタッフに遮られる。


「他のお客様もいらっしゃいますので、早めに座っていただけると……」

「ご、ごめんなさい!」


 申しわけなさそうに言われると罪悪感が湧いてきて、促されるがまま、アラトはナキリの隣に座った。


 が、すぐに我に返る。


「……あぁぁぁ……帰りたかったのに……」

「焦って座ったな」


 苦笑しながら、リクがアラトの隣へ。


「いいじゃない。どうせここまできちゃったんだし」

「レバー下ろしますね」


 アラトの様子を楽しんでいるのか、それとも単純にジェットコースターが楽しみなのか。スタッフが下ろしてくれたレバーに手をかけながら、ナキリが弾んだ声で言う。


「それでは……いってらっしゃーい!」


 スタッフに見送られながら、ジェットコースターが動き出した。

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