第3話 マギカルトが使えなくても①
ナキリからの突然の申し出に、アラトはぽかんとするしかない。
「絵って、なんで……!?」
やっとの思いで尋ねれば、ナキリは笑顔で口を開く。
「今まで作ったボイスドラマって、全部ネットで公開してるのね。でも再生回数を伸ばすのもなかなか難しくて。で、色々考えた結果、動画にしようと思ったの。で、アラト君のマギカルトって、描いた絵が動くのよね!?」
楽しそうな声音に、ドキリとアラトの心臓が冷たく高鳴った。
「そ、れは……」
「そうなのか。すごいな」
「あ、その……」
リクに感心した声を上げられ、アラトは言葉を探す。
けれど何か言う前に、ナキリに遮られた。
「アニメーションとまではいかなくても、見せ場で絵が動くってなったら、聴いてくれてる人にもっと楽しんでもらえるんじゃないかって思ったの。それで、アラト君に頼みたくて!」
真っ直ぐな瞳を向けられて、アラトは息を詰まらせる。期待の視線が居たたまれなくて、思わず逸らす。
「……ごめんなさい。僕には、できません」
自分なりにはっきり断ったつもりだった。
が、それで諦めるような彼女ではないことは、この数時間でよく分かっていた。
現に、
「突然のことで無茶を言っている自覚もあるわ。だけど私、アラト君の力を借りたいの!」
依然として、彼女の口調は強いまま。
「学園はマギカルト使い……マギカティストを生み出したいって考えもあるから、こういった個人活動も成績に反映してくれるし……」
マギカルトは、練習したところで誰しもが使えるわけではない。だからといって努力もせずに得られるわけでもない。
そのため生徒のやる気を向上させるべく、マギカルトが使える者でも使えない者でも、何かしらの芸術に取り掛かったり、作品を作れば、一部成績にプラスされるのだ。
学園内には相応の設備も整っており、生徒達は授業以外でも自主的に、自分達の得意分野を伸ばすことに勤しんでいる。
「今すぐの返事じゃなくていいから、ぜひ……」
「違うんです、できないんです……」
考えてほしい、とナキリが言う前に、アラトは唇を開いた。緊張故か喉が渇き、ごくりと唾を飲み込む。
「できない……?」
アラトの呟くような拒否に、リクが眉根を顰める。
「やりたくないじゃなくてか?」
「……」
リクに答えず、アラトは目の前に立つナキリを、ゆっくりと見上げた。
「
「え? まあその方が目を惹きやすいというか」
「じゃあ僕じゃ、ダメです」
緩く首を横に振れば、横にいるリクが不思議そうな表情を浮かべているのが、ちらりと見えた。
「あんなに綺麗な絵を描けるのに?」
「僕なんか全然です。それに僕……」
リクとナキリから逃げるように、アラトは俯く。
堂々としたナキリの立ち振る舞いも。
目が離せなくなるリクのマギカルトも。
今の
「マギカルト、使えない、から」
やっとの思いで理由を口にすれば、「え?」というナキリの驚いたような声が降ってくる。
「だって入学試験のとき……」
「あの日から……使えないんです。だから水留さんの希望するものはできません。ごめんなさい!」
ひと息で言ってから頭を下げた。
ナキリが何か言いかける気配がした。
しかし直後鳴り響いたチャイムと、完全下校を告げる放送が、彼女の続きを否定した。
◆ ◆ ◆
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