第2話 キラキラのふたり③

 それからも、リクの収録は続いた。


「ありがとう、リク君! 最高のものが録れたわ!」

「ならよかった」


 なかなか上手くいかなかったツンデレの恋人も、ナキリの思う通りの演技ができたらしく、これですべて録り終わったようだ。


 マイク越しに喋る二人を見ながら、アラトはそのきっかけとなった出来事を思い出す。


「うぅ……人生初の壁ドンが男の子とになっちゃった……」


 あんな恥ずかしい真似を、会ってほぼ間もない同性とすることになるなんて……思い返すだけで胸が痒くなるような気持ちになる。


「……悪い。俺で」

「あ、い、五星君が嫌とかじゃなくて……!」


 と。

 向こうのブースからやって来たリクにそう言われて、アラトは慌てて首を横に振った。


 先ほどから騒いでいるのは自分ばかりだ。


「逆に五星君は嫌というか、そういうのなかったの?」

「別に……何も思わない」


 特に表情も変えず、リクは答えた。


 冷静に言われてしまうと、自分ばかりが気にしているようで恥ずかしい。

 そのためアラトは、少し顔を赤くしながら視線を彷徨わせる。


「それじゃあこの音源の編集頼める?」

「はい。任せてください」

「いつもありがとう」


 機材の前では、ナキリと女子生徒が録音したものを確認している。


 その姿を見て、アラトはすっかり機会を失っていた疑問を、改めて思い出した。


「あとは……」

「あの……水留さん」

「ん? どうしたの、アラト君」


 くるりとナキリが振り返る。


「結局僕、何のためにここに連れて来られたの……?」


 収録を見学したのは楽しかった。けれど何故ナキリは、半ば強引に自分を引っ張ってきたのだろう。


「え?」


 アラトの質問に、ナキリが目を瞬かせる。


「……あ」


 そして口元に目を当てた。


「ごめんなさい。すっかり伝えた気でいたわ」

「そ、そうなんだ」


 こほん、と咳払いしたナキリは、体ごとアラトに向き直る。満面の笑顔と共に両手を広げた。


「今日アラト君に聞いてもらったのは、イメージを掴んでほしかったからなの」

「イメージ……?」

「ええ」


 イスに座るアラトの手を握ると、彼女は顔を近づけてきた。

 キラキラとした大きな目の中に、驚いた表情のアラトが映っている。


「あなたに、このボイスドラマのイラストを描いてほしくて」


 ぽかんと、アラトの口が間抜けに開いた。


「……へ?」


 何を言われたのか理解するまで数秒必要だった。


 イラスト? 描く? 誰が?


 ……僕が!?


「……え!?」


 自分でも予想以上に素っ頓狂な声が、収録室に響き渡った。


◆ ◆ ◆

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