第28話 母親と10年ぶりの再会
そして病室に入ると、ベットで眠るように横になっている葵の手を取る包むように優しく握った。本当に今にも起きて「お兄ちゃん♪」と抱きついてきてもおかしくない。だが葵の目は開くことはなかった。
「……どうすりゃいいんだよ!」
智也は怒り、焦り、何よりもこれからの不安をどこにもつぶけられずにいた。
「智也さん……」
そんな智也の心境を痛いほど分かる碧は智也の手を両手で握り、安心させようとする。
「葵のお母さん……さっきはすみませんでした。怒鳴ったりして……」
「あら智也さんなら碧お姉さん♪ って呼んでもいいのよ♪」
っと右目を瞑りウインク1つ。こんな時でも碧は場を紛らわせるように茶目っ気をみせる碧。こんなところは本当に葵とよく似ている。不意にコンコンっとドアを叩く音が鳴る。「石井さんか?」と思ったが違ったようだ。
「……倉敷葵の病室ってのはここか?」
そこには水商売っぽい胸元が大きく開いた大胆な服着て、短すぎて下着が見えてしまいそうなスカートを履き、髪は長く金髪に染めている女性が許可なしに病室に入ってきた。年齢は……30代後半と言ったところか。とても看護師さんには見えない。
「(誰だ? こんな人がなんで葵の病室に? 部屋を間違えたのか? いや、葵の名前言ってたよな? なら碧さんの知り合いなのか???)」
だが、智也だけでなく碧も同じことを思っていたのだった。
「んっ? 違ったのか? 受付で301の個室って言われて来たんだがな……」
「301の個室ならここで合ってますけど……。失礼ですけど、あなたはどなたなんですか? ……もしかして、葵さんのお知り合い?」
物怖じせず、碧はその女に尋ねた。
「誰って……
「「はぁっ!?」」
一瞬、智也も碧もその女性の言っていることの意味が分からなかった。
「おっ! なんだよ。誰かと思ったら碧じゃねぇか! 久しぶりだな碧っ!!」
妙に馴れ馴れしく、その女は碧の肩を叩いた。
「えっ? はぁ…………っ!?」
碧はいきなり名前を呼ばれ、状況が上手く飲み込めていなかったが、何かに気づいたようだ。
「も、もしかしてあなた……
「(なんだって、葉月洋子……コイツがあの女なのか!?)」
碧とは別に、智也はそれが自分の母親だと驚いてしまう。
「なんだよ。今頃気づいたのか? おっ! そっちのは……智也か? もしかして智也だよな、オマエ?」
自分の母親だという派手な女性に声をかけられたが、智也はショックで声が出せなかった。
「洋子! あ、あなたその格好は何なの? それに今までどこに……」
「おっと、そうゆう細けぇ話はあとあと。それよりも今はとりあえず葵の方が先だろ。なんでも血が足りないんだってな?」
そうゆうと受け答えも聞かずに、部屋を出ようとする。
「……っ!? ま、待てよ! お、おい待てったら!」
智也の声を無視して部屋を去る洋子を追いかけようとする智也。
「待って智也さん! 今は洋子よりも葵さんの方が先決なのよ!」
そう言われ、智也の手が
智也はその場に座り込み、「チクショー!なんだって今頃あの女が現われるんだよ!」っと床に右拳で殴りつける。そんな智也を知らず暫くしてから洋子が帰ってきた。
「とりあえずは、採血して結果待ちだってよ。じゃあ、それまで昔話でもするか?」
葵が、実の娘がこんな状況なのに何故か楽しげな洋子を智也は無視するが、碧はそんなことお構いなしに洋子に問いただした。
「あなた自分の子供たちほったらかしで、今まで何してたのよ洋子っ!!」
とても碧とは思えない声量と、怒りが籠もった口調で詰め寄る。
「おいおい、ここは病院だぞ。葵もそこで寝てんだ。静かにしな」
「あっ……」っと碧は慌てて口を手で覆い黙る。
「さて、なにから話せばいいのやら……」
ぽつりぽつり、と洋子は語りだした。前半は碧から聞いた話そのものだった。だが、続きがあったのだと言う。
あの日、碧や朝子と別れてから男に襲われ……そして葵と智也の双子を身篭り出産した。だが、女で一人では二人を育てられないと考え、姉の葵を朝霧養護施設とは別の施設に預けたそうだ。智也は自分の傍で育てたが、生活苦から育てられず、朝子(朝霧養護施設)に預けたのだと言う。
預けた……っと言えば聞こえはいいが、実際は『玄関先に自分の子供を捨ててきた』が正しい。それからは色々な仕事を転々とし、やがて資金が貯まり自分で起業できるまでになった。そして最近なんとかその事業が軌道に乗る目途が立ち、今の自分なら智也と葵を自分の手元に置ける。そう考え、智也と葵の行方を捜していたのだと言う。そんな矢先に葵が事故に遭い、病院に担ぎ込まれたと報告を受け、急いで病院まで駆けつけたのだと言う。
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