第27話 驚愕の事実

 タクシーを降りると我先にと、智也は病院受付で葵のことを聞くと「今は手術中だから……」と言われ手術室の前に案内された。手術室の前には講師の石井さんがいた。石井さんはこちらに気づくといきなり頭を下げた。


「この度はこちらの不注意でこんなことになってしまい…………本当にすいませんでした!」


 そう何度も頭を下げ続ける。「一体何があったのか?」と智也も碧も同じく石井さんに聞いてみた。


 石井の話によれば、葵はトップタイムで午前の適正試験を終え、そして休憩を挟み、午後からニュータイヤでアタックし、車のセッティングを変える為に、ピットレーンに戻ってきていたのだ。……っとそこへ、オールドタイヤを履いていた他の生徒がホームストレートで事故を起こし、その際パーツが飛び散った破片が運悪く、ビットレーンにいた葵の胸部に当たり、病院に運ばれ緊急の手術を受けているのだと言う。


「ほんっとうに……すいませんでした!」


 石井は一通り説明を終えると、ひたすら謝るだけだった。


「葵さんは……ウチの葵さんは大丈夫なんですよね!? ね?」


 碧は鬼気迫るように石井へと問いただした。


「はい。傷自体は浅いようなんですが……」


「それ以上のこと事はまだわからない」っと石井は答えた。すると、手術室の手術中の赤いランプが消えた。中から手術用の緑の服を着た医師が数人が出てくる。


「…………ご家族の方ですか?」


 医師のその声はとても明るいとは言いがたかった。


「はい。私が葵さんの母親です。葵さんは大丈夫ですよね? ね?」


 いつもの冷静な碧とは言いがたく、酷く動揺していた。


「……え、ええ。傷自体は浅く手術自体は簡単で止血し、患部を5針ほど縫ったくらいなんですがその非常に言いずらい事なのですが。その言いにくいのですが……血が止まらなく出血量が多かったんです。どうやら葵さんの血液は特殊なモノでして、もしかするとご家族の方には輸血をお願いするかもしれません」


 っと申し訳なさそうに医師は碧の方を見たのだったが、


「あ、あの! 実は私……本当の親ではない・・・・・・・・んです。ですから……」


 碧がそう告げるとその事に医師は酷く驚き、そして何かを考え込む。そして「まずは血液を調べさせて下さい」と碧に採血を促した。


 っとそこで石井が思いついたように、碧の隣にいたオレに声をかけてきた。


「おい智也! 確かお前達は姉弟きょうだいだったよな? それなら血液型も一緒なんじゃないか!?」


 っと智也に輸血をするように促した。


 確かにこの状況ではオレが葵の助けになるだろう。なんせ本当の実の双子の姉弟なのだから……。皮肉にも、その事実が葵の助けとなろうとは夢にも思っていなかった。


「先生! オレの血を使ってください! オレと葵は実の双子の姉弟きょうだいなんです! だから例え血液型が特殊でもきっと合うはずです! だから! だからっ!!」


「それは良かった。ですが、まずは採血し、血液を調べてみないと……」っと医師は智也にも採血し、検査するように促す。


 さっそく智也は採血する部屋に案内され碧と智也は採血し、早速血液を調べてもらうことにした。結果は1時間もあれば出るそうだ。だがその1時間が何倍も長く感じた。


「智也さん…………葵さんの為に、ありがとうございます」


 採血が終わると碧はそう智也に頭を下げた。


「私では……葵さんの助けになりそうもないので…………」


 碧は泣きながら、自分の無力さに嘆くように待合室のイスに腰をかけた。


「葵は……葵は、オレの恋人なんです。……こんなこと当たり前です。だから、だからそんなことで気にしないで下さい……」


 智也はさも当然と言った感じでそう答える。1時間後、血液の結果が葵の担当医師から伝えられた。葵の血液はボンベイ(Oh)型とも呼ばれている100万人に1人のO型の特殊血液だった。碧はA型で当然合わない。智也も葵と同じO型だったが普通のO型なのだと言う。


『智也と葵は実の双子の姉弟どころか、そもそも血縁関係になかったのだ』


「な、何かの間違いだろ! だ、だって俺と葵は実の双子の姉弟なのに!!」


 智也は担当医師に詰め寄ったが、「なんと言おうと血液型が合わないので、これでは輸血をすることはできません!」っと断られる。


「(一体どうすればいいんだ? そもそも血液型が合わない?だったら俺と葵は実の双子の姉弟じゃないってことになるのか?)」


 智也は隣にいる碧に詰め寄った。


「どうゆうことなんですか! アンタがオレと葵は実の双子の姉弟だと言ってたでしょうが!?」


 智也の強い口調と、いきなり壁に詰め寄られた碧は震えながらにこう答える。


「ごめんなさい、智也さん。わ、私にもどうゆうことかわからないわ……」


 碧は首を横に振る。葵の里親の碧でさえも、その真偽のほどはわからないようだ。

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