第26話 事故

 朝子はちょうど1年前、智也がフィリス学園に入学すると同時期に朝子に子宮ガンが見つかり、検査入院したときには既に末期で手遅れだった。年齢推定33歳の若さであった。以前智也が朝子に年齢を聞いたとき、「おめぇ、乙女に年齢なんか聞くんじゃねぇよ!」と怒られ教えてくれなかったが、碧の話から孤児だったようで、自分でも本当の年齢を知らなかったのだろう。


何より先ほど碧の話を聞くまでは恋人だと思ってた葵が女の子で、しかもお兄ちゃんと慕う弟のような存在だったのに、今では双子の姉だと言う事実。智也はその事実をまだ受け入れられなかった。


「(…………待てよ)」


 智也は碧の話を自分の頭でもう一度深く思い返した。


「(さっきの話……なにかおかしくねぇか?)」


 頭の中で何かが引っかかった。


(そもそも葵とは実の双子の姉弟きょうだいなんだよな? だったらなんでオレは”それ”を知らないんだ? そもそもあの女と暮らしていたとき葵はいなかったよな? それにオレと葵が初めて出会ったのって、オレが朝子に拾われてから2年ほど経ってからだ。それが今からちょうど10年ほど前になる。そしてすぐ(1ヶ月ほどで)に葵は今の親(碧さん)に里親に出されたわけだよな? だとすると……時系列がおかしいだろ)


 智也は頭の中で考え、碧の話を整理しながらも考えをまとめていく。


「(そもそも碧の話は本当なのか? そもそも女が男子校に入学できるわけがないぞ。だったらオレと別れさせたいが為に嘘をついてることになるが、先ほどの碧の話をしているときの態度に嘘は感じられなかった。ほんと、どうゆうことなんだこれは?)」


 いま朝子が生きてればすぐにでも詰め寄ってでも聞くのだが、それもできない。葵に直接話を聞こうにも10年以上前の話になるだろうし、そもそも智也ですら覚えていないことなので葵に直接聞いても望み薄だろう。


「(……ここはやっぱり葵の母親(碧)にもう一度話を聞くのが1番だな)」


 っと結論付け「葵にはすまないが、明日の朝もう1度だけ話を聞きに行こう!」そう智也は思い、その日は葵が傍にいない部屋で一人眠りについた。碧の話を聞かされて、不安で不安で眠れないだろうと思ったが、意識を失うように深い眠りについた。


 翌日の早朝、葵には「体調が悪いからすまない」っと断りの電話を入れた。葵からは「お兄ちゃんほんとに大丈夫なの?ボクのことは大丈夫だから心配しないで早く治してね。あなたの恋人葵より(ハート)」と智也の不安を他所にラブコールを受けた。


 今頃葵はカートで走っていることだろう。今日が葵の人生・そして未来をを決める日になるかもしれない。そんなことを考えながら、智也は葵の母親に電話を入れた。昨日の別れ間際、碧から「何かあったら……」と電話番号を渡されていたのだ。


 トゥルルル~。

 呼び出し音の後に「もしもし、倉敷ですが……」と碧の声が聞こえてきた。智也は今から昨日のことも含め、色々と話がしたいと昨日のファミレスで待ち合わせの約束をした。それから30分後、ファミレスに着いた。


 そこには既に碧が昨日と同じ席についていた。智也はコーヒー2つと店員に注文し、注文したコーヒーが届くと、さっそく話を始めた。


「昨日の話を聞いて色々思ったことがあるんですが……いいですか?」

「昨日の話で何か疑問がある……ってことですね?」


 碧も智也の気持ちを察していた。


「そうです。まず、葵は本当に『女』なんですか? それなら何故、男子校であるフィリス学園に入れたんですか? これってもし葵が女だったら矛盾してますよね?」

「ふふっ」


 と碧は笑う。「あっ、笑ったりしてごめんなさいね」と碧は断りを入れこう話を続けた。


「はい。葵さんは正真正銘普通の女の子です。もし智也さんがお疑いなら……今度一緒にお風呂に入ってみたらどうですか?」


「あっ、いや、それはまだ……」っと顔が赤くなり智也は戸惑う、そんな智也を尻目に「まだ……なんですね♪」っとちょっと嬉しそうにしていた。


「……ま、それは冗談として……学園には入れますよ。そんなモノ書類を適当に誤魔化せばいくらでも簡単にできますしね」


 碧はコーヒーを口にして、いとも簡単だっと言った感じでそう答えていた。


「しょ、書類を誤魔化すって言っても、もしバレたら……」


 智也は言葉を続けようとするが碧が遮る。


「ふふっ、バレないですよぉ~……だって私の学園・・・・ですもん♪」

「……はぁっ? わ、私の学園? ってことはアナタが学園の理事長だったんですかぁっ!?」

「そっ♪」


 っと短く頷き、一口コーヒーを飲む碧。

 前に葵が転入したばかりの頃、転入した経緯を聞いたとき「親のコネか?」と聞いた質問に対し、「まぁそんなところ……」と答えたのはそうゆう意味だったのだろう。


「じ、じゃあオレと葵が実の双子の姉弟きょうだいだって根拠は……ちゃんとあるんですか?」


 っと詰め寄る智也に対し碧は、


「もしお疑いでしたら、お二人でDNA検査でもしましょうか? その方が智也さんも実際に目で見て納得できるでしょうしね」


 っと言葉を続けた。確かにそれが1番手っ取り早いが、実際の所智也にはそこまでの覚悟はまだできておらず、「いえ……」っと言葉を濁してしまう。


 リリリリリーン♪

 と突如として電子音が鳴る。どうやら碧のスマホから電話が鳴っているようだ。


「ちょっと失礼しますね」


 そう言うと碧はスマホを取り出し、電話に出た。


「ええ、はい。私がそうですけど…………えぇっ!! 葵さんが!?」


 碧はとても驚いているようだ。葵と名前を出して驚いていたので、もしかして葵の身に何かあったのだろうか?そして碧は智也の方に目を向けた。


 カタカタ、カタカタ』。よく見るとスマホを持つ碧の手は震えていた。


「(一体誰と話ているのだろう?)」


 っと智也は疑問に思いながらも、コーヒーを口にする。


「ええ、ええ、はい。…………葵さんは『伏見総合大学病院』なんですね! 今すぐそちらに向かいますのでっ!!」


 碧は言い終える前に電話を切った。そしていきなり立とうとしてフラフラっと立ちくらみを起こし倒れそうになる。「大丈夫ですか!」と智也が手を差し伸べようとするが、碧はそれを手で静止した。


「あの……葵に何かあったんですか?」

「…………」


 智也の問いかけに碧は一言も答えない。いや答えられないのかもしれない。電話口の様子から、ただ事ではないと智也も察していた。


「あ、葵さんが…………」

「えっ? 葵? 葵がどうかしたんですか???」


 葵は今この瞬間、サーキットで適正検査を受けているはずだ。


「葵さんが……病院に運ばれたって。さ、サーキットで事故にあって…………今は伏見総合大学病院に運ばれたみたいなの……」

「はっ? あ、葵が何だって? 事故? 病院? ……っ!? あ、葵は大丈夫なんですかっ!! 怪我の状態はっ!?!?」

「わからない! わからないわっ!! と、とにかく急いで病院に行かなきゃ。智也さんあなたも一緒に来なさい!」


「当たり前だ!」っと答え早急に会計を済ませ、ファミレスを出てすぐさまタクシーを呼び止め急ぎ、伏見総合大学病院に向かう。タクシーの中で智也も碧も何も話さない。葵の身に何があったのかまったくわからない、不安で不安で心配だった……。

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