第23話 お前なんかに娘はやらん!

 5分くらい過ぎると葵は電話をしながら戻ってきた。


「お兄ちゃん。あのね…………」


 いつもの葵とは違う。まるで何かを遠慮するかのように、おずおずと通話中のスマホを智也に差し出してきた。


「……はっ?」


 いきなりスマホを渡され戸惑う。


「ママがさ、お兄ちゃんと話したいって……」

「(ホワイ? なぜに?)」


 そう戸惑いながらも耳にスマホを耳に当てる。


「も、もしもし、えっと、お電話代わりました」

「まぁまぁ、あなたが智也さんですか? いつもウチの葵さんがお世話になっております。葵さんの母親の倉敷碧くらしきみどりと申します」


 馬鹿丁寧で綺麗な声が聞こえてきた。30歳くらいか? かなり若い声に思える。


「は、はい。オレ、いや私が朝霧智也です」

「ふふふっ。そんな緊張なさらないで下さい。いつもどおりの口調で大丈夫ですからね」


 そうは言われても動揺は隠せない。


「あ、そうそうお電話を代わっていただいたのは、これから葵さんと一緒に家の方に来ていただきたいからなんですよ。智也さんはお時間の方は大丈夫ですか?」

「は、はい。どこへなりとも葵と一緒に行きます!」


 緊張からか変なことを口走る智也。スマホからは「まぁ。葵さんと仲がよろしいんですわね。ふふふっ」と慎ましい笑い声、また隣にいる葵も笑ってしまう。


「それでは葵さんのことよろしくお願いしますね。智也さん」


 と電話が切られる。


「ふぅ~」


 息をつく智也。葵はまだ笑いが止まらないようだ。お腹を抱え笑っている。


「あはははは。お、お兄ちゃんさっきの何なの? (智也の声真似しながら)どこへなりとも葵と一緒に行きます! だってさ、おっかしーの」

「うっせ、緊張してたんだよ……」


 っと笑ってる葵を往なす智也だった。



「おいおい……ここが葵の家……なのか?」

(デ、デケエ。超豪邸だ。何の悪さしたらこんな家に住めるんだ?)

「うん?どうかしたの?」

「い、いやなに、葵って金持ちなんだなぁと思ってたな」


「あぁ~」っと、どこか納得したような表情をする葵。


「別にボクがお金持ってるわけじゃないよ。ママが会社の社長なんかしててね」

「(社長なのかよ!? ……でもあれ? 父親はいないのか?)」


 などと疑問に思ったが、聞けなかった。自分だって似たような境遇なので尚更だ。


「ママぁ~ただいま♪」

「あらあら~、葵さんおかえりなさい。まぁまぁ暫く見ないうちにすっかり大きくなりましたわね♪」


 葵の頭に手を当て大きくなったわね。と撫でている。

 おっとりした和服美人がそこにいた。パッと見で30歳前後、葵と姉妹と言っても全然違和感ないくらいの綺麗なお姉さんって感じだ。


「もう~ママったら、先週帰ってきたばかりでしょ!」

「あらあら~そうだったかしら?」


 そう答える葵の母親。

 確かに葵の夢であるモータースポーツをやりたいと親を説得しに行ったはずだ。 と、そこで碧は智也の存在に気づく。


「まぁまぁあなたが噂の智也さんなのね。いつも葵さんからお話聞いてますよ。葵さんとは恋人さんなんですってね。……もし良かったら智也さんもママって呼んでもいいですからね♪」

「(おいおい、葵のやつ俺と付き合ってるのもう話したのかよ!)」

「ママ! それは言わないでって言ったのに! もう~」


 葵はちょっとお冠のようだ。

「あらあらそういえばそうだったわね」とおっとり返答する碧。智也は疑問に思ってたことを口にする。


「そ、そういえばどうしてオレを呼んだんですか?」


 もっともな質問だ。


「う~ん。それはちょ~っと、ここでは言えないかなぁ~」


 碧はちらっと葵の方を見ながらそう言った。


「あ~っ、そうだわ! 智也君、……ちょっとおばさんとデートしない?」


 良いこと思いついたと言わんばかりに手を叩く碧。そしていきなりのデート宣言。それを聞いた葵が「ママ! デートってなに! ボクだってまだしたことないのに!?」さらに怒った。わりと本気ガチだ。そういえば葵と付き合ってからまだデートをしたことがなかったのを思い出してしまう。


「ほらほらアレよ、アレ。『お前なんかに娘はやらん!』みたいなノリの感じのやつよぉ~♪ とりあえずそこにある金属バット持って行くわね♪(ハート)」

「そっか~、なら仕方ないよね」


 っと何故か納得する葵だった。


「(仮にもしそうだとしても、否定すべきだし、そもそも俺の前でそれは言うことなのだろうか。あと……その金属バットはどうするつもりなんでございましょうか!?)」


「あっ葵さんは先にシャワー浴びててね♪」っとウインクして家の中に押し込む碧。

 そして葵がいなくなった途端、碧の雰囲気が変わった。先ほどのおっとりした雰囲気ではなく、冷たく突き刺すような鋭い感覚・殺気に襲われる。


「……ここではなんですし、近くのファミレスにでも行きましょうか?」


 殺気を帯びた碧の視線に尻込むように、智也は頷き後ろを付いて行くだけだった。

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