第22話 モータースポーツは実力と金を積んで、初めてゲームに参加できる!
「うーん、それにしても惜しくも葵君に次ぐ2位ですかぁ~。……いやはや葵君はロード(自転車)だけじゃなく、カートも速いんですねー」
「「っ!?」」
その言葉に葵と智也は驚く。
「(なんで大津は葵がロードをやってることを知ってるんだ? もしかして……葵のこと調べたのか!?)」
「おやおや智也君のその様子だと、葵君がロードJrで優勝したことがあるということを既に知ってるんですね?」
「えっ!?」
大津のその言葉に今度は葵が驚く。
「お、お兄ちゃん知ってたの?」
「あっいや、……さっき石井さんに教えてもらっただけだ」
智也は慌てて取り繕う。本来なら慌てるのは隠していた葵なのだろうが、隠していたことを知ってる智也の方が動揺してしまう。
「葵君……今智也君のことを『お兄ちゃん』と呼びましたか? ……いやはや、なんとも羨ましい響きですねぇ~っ!! 私も智也君に
ゾゾゾ~……っと寒気が智也に襲いかかってくる。
「(えっ? なにコイツそっち系なの? ……あっいや、オレも人のこと言えないけどね)」
「お兄ちゃんはボクだけのお兄ちゃんです! 大津先輩はどっかあっちの方にでも行って下さい!」
葵はまるで野良犬でも追い払うかのようにシッシッと手で追い払う真似をしていた。
「おやおや、葵君に完全に嫌われてしまいましたね。ま、私には大本命の智也君だけいればそれでいいですけどね♪」
「また気色悪いことを言いやがって……」っと智也はそんな表情を顔に出してしまう。……とそこへ、
「それではみなさん着替えてから、先ほど講習を受けた教室に戻ってください。30分の休憩を挟んだ後、そこで今日の結果と明日の予定を発表します」
そう講師が指示する。葵は着替えに行き、智也は先に教室に戻っていく。
「それではみなさん、お疲れ様でした。初めての経験で疲れたと思いますが……」
講師が話しを続けるが、智也の頭には大津のことが気になって集中できていない。
「お兄ちゃん、ちゃんと話聞かないと」
裾を引っ張られ葵に注意されてしまい、意識を講師の話に集中することにした。
「では結果を発表します。名前を呼ばれた人はこの場に残ってもらいます。残念ながら名前を呼ばれなかった人は退室して、隣の部屋に移ってください」
その容赦ない言葉に智也は驚く。ダメな奴はささっとここを去れってことなのか。
「それでは、倉敷葵さん、大津一哉君、秦加奈子さん……」
次々に名前が呼ばれる。きっとタイム順なのだろう、葵は1番始めに呼ばれ、大津が2番、3番目はなんと女の子だった。「女の子でもレースドライバーになれるんだなぁ~」と智也は関心していた。そして名前を呼ばれなかった人が退室する。涙を流す者、落胆し言葉を発せない者、その姿は死人そのものだった。
「それではこの4人で明日も講習を続けます。明日は朝からカートを使ってサーキットで走行してもらいます。午前は今日と同じく、午後からはタイムの良い人はニュータイヤに履き替えて走行してもらいますのでそのつもりでお願いしますね」
「(ニュータイヤ? タイヤを履きかえる?)」
聞きなれない言葉に疑問に思う智也や他の保護者に対し、
「ええ。今日はオールドタイヤ、つまりは使い古したタイヤで走行してもらいました。いくらスクール講習のカートとは言えども新しいタイヤは高いですからねぇ~、タイムが遅く
講師のその冷酷な一言に智也を含め保護者達は動揺を隠せない。既にスクール講義の時点で、過酷な競争は始まっているのだ。
だが葵を含め選手達は既にその意味を理解しているように冷静のまま、真剣に講師の話を聞いているだけだった。
『モータースポーツの世界とは、実力と金を積むことで初めてゲームに参加できるのだ!』
明日の説明を一通り受け今日は解散となり、先ほどの雰囲気を打って変わって葵はとても明るかった。1次予選を通過したことがとても嬉しいのだろう。もちろん智也も嬉しかったが、色々なことあって困惑した。
「(大津のこともそうだし、明日からのことを考えると……)」
「どうしたのお兄ちゃん? ボクが1次予選通過したのに嬉しくないの?」
しょんぼりした様子で葵が聞いてくる。
「あ、いやいや、嬉しいよ! 嬉しいに決まってるだろ!! ただ……オレが想像していたよりもレースの世界って厳しいんだなって思ってさ」
先ほどの講師の話が引っかかったのだろう。なんとも複雑な心境になる。
「あぁさっきの話ね。うん、厳しいよ。今日残れたからといって明日も残れるわけじゃないしね。それに明日は他の予選通過者もいるわけだしね。それに……みんな速いだろしね」
「他の?」
「うん、そうだよ。お兄ちゃん先生の話ちゃんと話聞いてなかったでしょ! 今日試験を受けた人だけが全員じゃないんだよ。何グループかに別けられてて、成績の良い人だけが明日の2次試験に残れるの。だからね、みんな速いだろうなぁ~……って思っちゃってさ」
そうして葵は言葉を詰まらせる。
「(うん、通過ということは明日来る人も葵と同じか、それ以上に速い奴もいるのだろう。不安にならないわけがないよな?)」
「ま、明日の事を今から考えても仕方ないよ! とりあえず今日は残れたわけだしさ、……ぼ、ボクちょっとママに報告してくるね!」
葵は不安を誤魔化すように、電話をするため智也の元を離れて行った。
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