第21話 意外すぎるライバル登場!?

 そして30分ほどの練習走行が終わり、ピットレーンに葵の青色のカーナンバー3が戻ってくる。智也は葵の元へ駆け寄る。カートから降りヘルメットを脱ぐと顔は汗でびっしょり濡れ、髪をボサボサになっていた。智也は持っていたミネラルウオーターを差し出した。


「葵、おつかれさま。大丈夫だったか?」

「お兄ちゃん! すっごく楽しかったよ♪」


「ありがとう♪」そう智也に断ると葵は受け取った水を一気飲みする。


「カートって大変なんだな……」

「ああ、これ? まぁ、ね。たった30分の練習走行でこれだもんね」


 そう言いながらタオルを受け取り、顔や髪の毛を拭く。


「でも最初エンストしたときはビックリしたぞ」

「あはははっ。お兄ちゃんよりもボクの方が驚いたよ。あの半クラッチ? ってのが意外と難しいんだよ。でもあとは上手だったでしょ♪」


 っとちょっと舌を出しながら、冗談交じりにそう言う。


「ふん。確かになかなかだったぞ。お前素質あるかもな。ま、俺には遠くおよばんがな」


「この人誰?」っと聞く葵に現役F3で活躍している石井選手と伝える。


「ありがとうございます。石井さんのような方にお世辞でもそう言って貰えると嬉しいですよ!」


「聞こえてんぞお前ら!」っと葵の頭を軽く叩く素振りをみせる。他の講師と違い意外と冗談が通用するらしい。


「……今のタイムならまず“今日は”残れるだろうな。ま、後は後半の奴ら次第だが……。ま、なんとかなるだろ」

「マジっすか!」


 先程と同じく驚く智也に対して「これもオフレコだから口外すんな!」と石井が口に人差し指を当てて冗談っぽく言った。


「お、お兄ちゃん!」

「葵……これはもしかすると、もしかするかもしれないな!」


 まだ決まってもいないのに抱き合って喜びを分かち合う二人。そして後続グループのタイムを見るために、ピットレーンの中にあるタイムシートが出ているモニターの前に立ち尽くす。


 今のところは葵がトップタイムだった。だがまだ走り始めなのでわからない。次々に名前が入れ替わる。石井も葵や智也の隣にやってくる。


「石井選手? ここにいていいんですか?」

「ん? ああ、俺は前のグループ担当だからな。今は休憩中、休憩中……っと、あとなんで俺の名前が疑問系なんだ?」


 コーヒー片手にタイムシート画面を見つめている。「いや、さっきもオレとずっと喋ってて仕事してなかったし!」と内心智也は思ってしまうが、敢えてそれを口にはしなかった。


「コイツ、コイツが特に要注意だな。始めは下の方だったのに、いつの間にか着実に早いタイムを刻んできているぞ」


 石井は現在5位の名前を指差す。そこにはローマ字で『Kazuya Otsu』と表示されていた。


「かずやおおつ……大津一哉!? なんでアイツがここに!?」


 そうフィリス学園の生徒会長で葵と智也に絡んできた上級生の名前がそこにはあったのだ。


「なんだお前ら知り合いなのか?」


 石井は智也が大津の名前を口にしたことに驚いていた。


「え、ええ、同じ学園に通ってる1コ上の先輩……なんです」

「そうなのか!? もしかしてフィリスってレベル高いのか?」


 何かを深く考えるように頷く石井。


「……お兄ちゃん」

「大丈夫だ。まだ葵がトップだし、それになにかあってもお前のことは守るからな!」


 なぜ大津がここにいるかはわからないが、何かあっても葵だけは守る。智也の服を掴んでいる葵の手の上に安心させるように手を重ねる。

 そしてポンっと大津の名前が上から2番目、つまり葵の下まできたのだ。


「おぉ~、こりゃ見物だな」


 っと何故か嬉しそうにする石井。この状況を楽しんでいるようだ。葵のタイムは1周『36秒01』、対して大津は『36秒23』。それ以下は37秒台がちらほらいるくらいだった。実質葵と大津との一騎打ちの形になる。


「……ここらあたりだろうな」


 石井はそう呟いた。

「何が?」と智也は聞こうとしたがその前に時間になってしまった。


 後半グループもピットレーンに帰ってくる。赤のカーナンバー1番から男が降りてくる。大津だ。パッと見、ひ弱そうな感じとは裏腹に何かを感じる。大津はヘルメットを脱ぐとすぐさまこちらを見つけ、少しだけにやりと笑う。それがなんだか余計に気色悪かった。


「おやおや~、誰かと思えば智也君と葵君じゃないですかぁ? こんなところで偶然出逢うとは、なんともはや運命を感じますね♪」


 オーバーリアクションで偶然と運命という言葉を嫌に強調する大津。「そんな運命お断りだよ!」っと言うように葵が少しだけベ~っ、と舌を出す。


「大津……なんでアンタがここにいるんだ?」

「……目上の人にはその後にさんか先輩と付けると好印象ですよ。智也君」


 アンタの好印象なんかいらないと言わんばかりに、智也は大津に詰め寄る。


「な・ん・で、アンタがここにいるんだよ!」

「智也君は分かりきったことを聞くんですね。私もカートというモノに興味があったんですよ。だから応募してしたんですが、飛び入りだったのが災いして葵君とは別に、後半のグループに追いやられて、今に至るわけですよ。くくくっ」


 どこで嗅ぎつけたかわからないが絶対ワザとだ。でなければ、飛び入りで参加するはずがない! だがここでそれを問い詰めたとしても煙に巻かれるだけだろう。

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