第12話 突然の転校生は男の娘《こ》?

「あれ~? 智也、今帰ってきたのか?」


 また佐々木に声をかけられる。


「(何コイツは暇なの? ストーカーなの? なんなの?)」


 ……っと思ったがさすがに口にせず、佐々木にこう答えた。


「あ、ああ。ちと色々あってな。そういえば佐々木、フクムラ潰れてたわ」

「マジかよ! やっぱりあの店潰れたのか!」


 っとやや大げさに驚いている佐々木を捨て置く。だってコイツの話長いんだもん。


 せっかく朝早く出たのに寮に帰ってきたのは午後2時すぎになっていた。あれから喫茶店を出てから目的地であるフクムラに行ったのだが、店のシャッターが閉まっており『当店は倒産しました。長年のご愛顧ありがとうございました』と書かれた張り紙がしてあったのだ。


 まぁあの商品ラインナップで今までやっていたのが、むしろ奇跡だったのだろう。智也は服を買えず寮に戻ろうとした帰り道の途中、ロードバイクの後輪がパンクしここまで押して歩いてきたのだった。サドル下に普段常備してある修理道具でもあればその場でも直せるのだが、生憎とパンクキットを装着し忘れていたのだ。近場の駅前に行くくらいなら必要ないと思ったのが誤りだった。


「腹減ったなぁ」


 お昼前には戻ってくる予定だったのだが、あのパンクは想定外だった。飲まず食わずでここまで戻ってきたのだ。フィリス学園の寮は基本的に専用のシェフが作る。これは学園にあるレストランが寮生の食堂という意味も兼ね備えていた。しかも料金は無料である。さすがバカ高い学費をるだけのことはある。


 だが、智也がそこで食事をすることは滅多になかった。なぜなら出てくる料理がフランス料理やイタリア料理などマナーが必要な洋食ばかりで、ご飯や和食・カップラーメンなどが好きの智也の口には合わないからだ。それに学園のレストランとはいえ堅苦しいマナーがあるので、あそこでは食べた気がしないというのもある。


「確かとんこつ醤油がまだあったはず……おっ! あったあった!」


 智也はバイト先であるコンビニで購入した、買い置きのカップ麺を取り出す。厨房でお湯だけをもらい自分の部屋で食べる。これがまた美味いのだ。


「おっし、3分経ったな」


 蓋を開け付属の香味油こうみあぶらを入れよくかき混ぜてから、ずるずるずるっ……っと音を立て一気に食べた。ビックカップで通常の1・5倍の麺の量なのだが、これだけでは育ち盛りの智也には物足りないだろう。さっき湯を貰いに厨房に行ったとき、丸い主食用のパンも貰ってきたのだ。


 それを手でちぎり余ったスープに浸して食べる。スープのうま味とパンの触感が相成って、これがまた美味かった。あっという間にスープまで飲み干し、「ふぅーっ」と人心地ついた。今日は色んなことがあったせいか、疲れていたのだろう、満腹になり落ち着いたこともあって、智也は目を瞑ると睡魔が襲ってきてそのまま寝てしまった。


「やっべ、このままだと遅刻する!」


 昨日遅い昼食を食べた後そのまま寝てしまったらしい。疲れていたこともあって智也は登校時間ギリギリになって起きた。この学園の寮は普通2人1組の部屋なので通常遅刻しそうな時は相方が起こしてくれるだろうが、智也の場合この春に隣人が退学したので一人部屋を満喫していた。


 ズボンを穿き、Yシャツ・ネクタイ・ブレザーと慌てて登校の準備をする。特待生でしかも授業料・寮費などを免除してもらってる智也は、遅刻するわけにはいかなかった。寮は学園の傍に併設してあることもあり、通学時間は5分もかからない。急いで学園までの道を走って行くが既に授業が始まる時間なので、さすがに周りには誰もいなかった。教室の前まで行くと、扉の前に誰かいた。


「うん? アイツは……転校生か? こんな時期に?」


 もう4月も半ばなのに転入する物好きがいるだろうか? そもそもここの学園は転入できるのだろうか……もしできたとしてもかなりの条件になるだろう。それは学力的にも経済的にもだ。

 後姿だけだが、とても綺麗な長い黒髪をポニーテールに結ってある。「女か?」と一瞬思ったが、いやそもそもここは男子校なのだから無条件で男しかいない。制服もブレザーだった。


「……ってよく見たら昨日の奴じゃねぇか! マジかよ」


 そう、それは昨日駅前で助けたあの男の娘だった。アイツがここにいるってことは、やっぱり女じゃなくて男だったんだな。


「( しかもよりによって同じクラス……アイツオレと同い年だったのか? てっきり中学生かと思ったぜ)

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