第11話 オレ達どっかで会ったことないか?

「お待たせしました!」


 注文した飲み物を可愛らしい制服を着た店員さんが持ってきてくれた。


「わぁ~かわいい服」

「そうかぁ~?」


 男の娘は制服を、智也は女の店員さんをと、違うことを指していた。


「う~ん♪ 冷たくておいしいね♪」

「ちっ……オレもそっち(冷たいの)にしときゃ良かったな」


 生憎とエスプレッソはホットしかなく仕方なかった。アイスコーヒーでも注文すればよかったのだが、智也はエスプレッソ特有の苦味が好きなのだ。


「……そんな苦いの、よく飲めるね」

「慣れればこの苦味が美味しく感じるんだよ」


 この苦味が大人の味だと智也は言うが、男の娘は「あっそ。それならボクは子供のままでいいよ」っとあっさり返されてしまう。智也は相手の手前、熱いのを我慢してズズッと、一口飲むがやはり熱かった。


「(こんな暑い日に飲むもんじゃないよな)」


 と智也は後悔するが遅すぎた。


「……ところで、お前年いくつだ?」

「お年頃の男の娘に年を聞くのは失礼なんだよ!」


「いや、別に『女』じゃないんだからいいだろうが!」と内心思った。じーっ、と目の前にいる男の娘を見つめる智也。


 髪は腰まで届くくらい長い黒髪でポニーテルに束ねていた。背は智也よりも低く150cmほどだろう。体は細身で頼りないか弱いイメージだ。「よくこんなんで、あの坂をあんなに早く走れるものだ。軽さが有利なのか?」と思っていると、


「あ、あのっ!! そんなじっと見てられると飲みにくいんだけどさ……」


 その男の娘は顔を赤らめてそう言ったが、智也はそれを無視するように別の言葉を口にした。


「オレとお前ってさ……どっかで会ったことないか?」


 確かにどこかで見たことあるんだが、どこだったか思い出せない。もし会ってるとすれば、コイツを忘れるだろうか?


「え? なにそれ? ボクのことナンパしてんの? ちょっとその手、古くない?」

「ちっげーよ! 確かに前にどこかで会った感じするだけだ。そもそも男同士でナンパもなにもないだろうが!」


 智也は内心焦っていたが、どうにか冷静さを取り戻す。


「ところでお前、名前は?」

「ナンパする人には教えません! プライバシーの侵害なんだよ」


 男の娘にきっぱりと断られ反論する間もなく、


「じゃあボクはこれで失礼するからね……。これから大切な用事があるからさ」


 アイスティーを飲み終わり、伝票を持ってさっさ帰ろうとする。


「お、おい! オレまだ飲み終わってないぞ」

「どうぞ、ごゆっ~くり。ここのお会計はさっきのお礼ってことでボクが払っておくからね。……またね、朝霧君・・・♪」


 男の娘は結ってある長い髪をなびかせながら、軽やかに会計に向かい支払いを済ませると智也を残し、さっさと店を出ていった。


「ほんと変なやつだった……」


 さっきまで熱かったエスプレッソはすっかり飲みやすい温度に冷めていた。それを口にしながら智也はこんなことを思っていた。


「それにしてもアイツ…………何でオレの名前知ってたんだ?」

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