対立組織あらわる!
「え、いや、ちが、違いますよ!」
否定するクリムゾンの声など聞こうともせず、リアルレッドは「なんだよぉ〜! オマエそういうことはマジ早く言えっての! チョメチョメしようとしてるカップル邪魔するとか、俺らバカみてぇじゃねぇかよ。なぁ?」と背後を振り返ってメンバーたちに同意を求めた。
「本当に違うんですって!」
「今日、参加してねぇと思ったら、そういう……あれ? でもオマエ、それならどうして全身タイツ着てるわけ? あ! ヒーロー戦隊プレイか! だろ? な!」
場所を
「じゃあ、なにか? オマエ、その人のこと本気で襲ってたのか?」
リアルレッドが女性へライトを向けた拍子に周囲が照らされ、クリムゾン以外にも複数の人影があるのが垣間見えた。
突然「おい、ちょっと待てコラ」とリアルレッドの声が尖り、先ほどまでの卑しい感じが消え失せ「周りの連中は誰だ」と警戒を含んだものへと変わった。
「えっと、彼らは……」
「クリムゾン……テメェ、ガチか?」
「へ?」
「ガチで女を集団で襲おうとしや」
と、その時、どこか遠くのほうでオーケストラが演奏しているような、安っぽい音質の音楽が流れてくるなり、思わず言葉を止めたリアルレッドが「おい、誰か携帯鳴ってんぞ!」とスマホのライトを振って周囲に光を走らせた。
「あら、私この曲知ってる」とトマトレッドが声を上げ、「これ、アレよね? あの、ほら、えーっと、なんだっけ? あの、ヤクザじゃなくって……ギャングでもなくって……そう! マフィア! マフィア、マフィア! マフィア映画のファーザーなんとかっていう、ね? 知ってるでしょ?」と隣のアメリカンレッドの肩を叩いた。
「知ってます。映画のThe Godfatherで使われたLove Theme from The Godfatherですね」
「ラブシーム? そんなタイトルだったかしら?」
トマトレッドが
「てか、今時こんな古い曲を着信にするとか、どこのおっさ」
すると出し抜けに「心に燃える赤い輝石、レッドジェイダイト!」と何者かが名乗りを上げ、リアルレッドが声のしたほうへライトを向けると、拳を握った両腕を胸の前で交差している、赤い全身タイツを着た男性の姿が照らし出された。
「レッドジェイ? 誰だよ、オマ」
「鮮やかな赤き閃光、カーマイン!」
物悲しげな旋律が流れるなか、リアルレッドが何事かを言いかけているのを無視して、またもや男性の声で二人目の名乗りが上がった。光を当てた先では、レッドジェイダイトとほぼ同色のタイツ姿の男性が、弓を絞るような姿勢で左手を前方に突き出している。
間髪を
派手な盛り上がりもないまま『愛のテーマ』は続き、「万物を魅了する崇高な赤、ビックスバイト!」と今度は落ち着きのある女性の声で、最前のビクスバイトに
「今、二人続けて同じ色じゃなかったか?」とリアルレッドが疑問を口にしたが、名乗りの最中だからなのか、誰からも返答はない。
「
眼前のクリムゾンが唐突に大声を出し、リアルレッドは反射的に「るっせぇよッ!」と怒鳴ると同時に彼の頭頂部を思い切り引っぱたいた。
「なにが孤独な赤き龍だ、コラッ! テメェこの前はカイガラムシとか言っ」
リアルレッドの言葉を遮り、「大地に轟く赤い
「我ら究極戦隊! エクセレンジャー!」
六人の声がハモるとともに、いつの間に誰が点火したのか、六連の花火が空高く打ち上がって派手な音を響かせた。
「あら! 綺麗ねぇ〜」
「本っ当! ま、私の美貌には敵わないけっどぉ〜」
トマトレッドとハッピーバースディが口々に感想を言い合っていると、リアルレッドが「
「おい、クリムゾン! こりゃ一体なんだ⁉︎ ナメてんのかテメェッ!」
「え? あの、リアルさん……なにをそんなに怒って……」
「なに俺らよりヒーローっぽい名前つけてんだよッ! 名乗りもいちいちカッコつけやがって!」
「ちょ、逆ギレっすか……まぁ、リアルさんたちとは違って、ウチらのチームは名前がカッコイイってのをコンセプトに立ち上げたんで……」
「ケンカ売ってんのか、あッ⁉︎ オマエなぁ! 仮にもだよ! 仮にも正義の味方ともあろう者が、ヒーロー
怒鳴るリアルレッドの背後から、ローズレッドが「
「
「だから本名で呼ぶなっつってんだろ! この孤独な赤き童貞ドラゴンッ!」
「Hahaha! Wow! あなたVirginなんですか?」
「童貞くんなの? かっわいい! オネエさんが優しく奪っちゃおうかしら」とハッピーバースディが気色の悪い声で舌舐めずりした。
「俺、その、そういう……どどど、童……じゃないですって!」と必死で否定するクリムゾンに、リアルレッドが「テメェが童貞かどうかなんて、どうだっていいんだよッ! 俺が訊いてんのは、オマエはヒーロー
「やっぱ気にしてるんじゃ……と、ともかく、それも誤解ですって! 俺たちはただ、彼女……こちらの女性が夜道を独りで歩いているところにたまたま遭遇して、それで防犯の意味で声をかけただけで……だから襲うだなんて、そんな……」
クリムゾンがしどろもどろに説明すると、リアルレッドは「はぁぁッ⁉︎」と大袈裟に大声を上げた。
「なんで先に言わねんだよ! そんな全身タイツ姿で、こんな真っ暗な場所に集団でいたら紛らわしいだろうがッ!」
自分たちに完全にブーメランのセリフを強気で吐き捨てたリアルレッドに、クリムゾンは口を半開きにしたまま信じられない思いで彼を見つめながら、言葉もなくただ呆然と立ち尽くしていた。
「黙ってねぇで、なんとか言ったらどうなんだ、あぁ⁉︎」
状況に理解が追いつかなくなったのか、それともリアルレッドの相手をまともにしてはいけないと判断したのか、クリムゾンは彼に背を向けると自分の仲間たちに「あのさ」と声をかけた。
「さっきの名乗りシーンの選曲って誰が担当したの?」
「無視かコラッ!」
「なんであの曲にしたの?」
「それは『メンバーがたくさんおり、かつヒーローを想起させるものを』という要望でしたので、イメージとして真っ先に浮かんだ映画『ゴッドファーザー』から、そのテーマ曲を採用させていただきました」
「
「シーッ! 現在は隠密活動中ゆえ、本名で呼ぶのは控えていただけませんかね、クリムゾン?」
「あ、すいません、瀬良さ……イト」
クリムゾンとセラサイトのやり取りを聞いていたリアルレッドだったが、いよいよ我慢の限界に達したらしく、「おいッ! いい加減にしろッ!」と
「俺もさ、もう二十三だろ? 世間で言うとこの新社会人なわけよ。いわゆるいい大人ってヤツ? だからさ、
「新社会人だったら二十二じゃね?」
リアルレッドがしたり顔で喋りはじめるなり、トゥルーレッドがすかさず指摘した。
「は? じゃあ、あれだ……院だよ、院! 俺、院でて」
「それだと二十四のはずじゃん。てかアンタ、前に高卒とか言ってなかったっけ?」
「トゥルー! テメッ、そういうこと新しいメンバーの前で言うんじゃ」
「この人、今It's trueって認めましたよ」とアメリカンレッドが勘違いして反応すると、すぐさまリアルレッドが「今のはそういう意味じゃねぇ! それにイッツなんて言ってねぇ!」と否定した。
「もう帰ってもいいかのう? ゴビンドラに餌をやる時間なんじゃ」
突如シグナルレッドが脈絡もないことを言い出したのを皮切りに、続いてカンガルーポーが「ぼ、僕も限定アイテムが……は、配布されるイベの……じか、時間に間に合わ……帰ろう、かな……」とぶつぶつと呟き、ワインレッドも「あのぅ……僕のスマホ、返してくれませんか? 明日から入院だし、色々と準備もあるので、そろそろ帰らないと」と彼らに便乗した。
「私も買い物に行かないと……あらやだ! もうこんな時間⁉︎ 急がないとスーパー閉まっちゃうわ!」
トマトレッドがあたふたしている横で、ハッピーバースディも「じゃあ私も帰ろうかしら? 髭……じゃなかった、ムダ毛の処理もしなきゃだし」と独り言にしては大きな声で呟いた。
場が騒然としてきたところで、リアルレッドが「あーッ! もうゴチャゴチャうるせぇッ!」と半ば叫ぶように怒鳴り、「オマエら多すぎるわッ! もう次から抽選で五人に絞るからなッ!」と宣言した。
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