新メンバー加入!
「いいやぁぁぁぁッ! 誰か助けてぇぇぇ!」
街灯も人通りもない片田舎の路地に、闇夜の静寂を切り裂く若い女性の悲鳴が響き渡った。付近には民家の明かりもなく、夜空に輝く星々だけが周囲の田畑をぼんやりと照らし出している。
「やめてぇぇぇッ!」
「し、静かにし」
揉み合っているのは男女二人だけではないようで、他に五つの人影が二人の周りを取り囲むようにして
「犯されるぅぅぅ!」
「だから、
と、その時、鼓笛隊が演奏するようなドラムマーチが濃厚な闇の中から流れてきた。等間隔で打ち鳴らされるバスドラムに、素早く小刻みなスネアの音が重なり、士気を鼓舞する勇猛なリズムを叩き出している。次第に吹奏楽器の派手なメロディーが絡みはじめた。
「ちょ、誰か携帯鳴って」
女性のそばに立つ人影が言い終わらぬうちに、男性の高らかな笑い声が聞こえてきた。もし民家があったならば、住人に怒鳴られてもおかしくないほどの声量である。
「これって、まさか……」
「雷鳴轟け
前回のセリフとは若干の違いがあるものの、オリジナルレッドの
「リアル? オリジナルだったはずじゃ……」
女性を襲った人影の呟きを無視し、「
「
「イカスミパスタ食べたいな! いや、カルボナーラも捨てがたし!」と若い女性の声が聞こえ、「裏の稼業はセクシー女優! ローズレッド!」と大胆なカミングアウトに続いて彼女もポーズをとったようだった。だが、やはり暗さのせいで地面に寝そべったということ以外、どういった格好をしているのか詳細まではわからない。
「
「Clammy Calamari Calamity!(クラミー・カラマリ・カラミティー!【湿ったイカフライ大惨事】)」
ほとんど視界がきかないにも関わらず、唐突に聞こえてきた英語に相手の人影だけでなく、その場の全員が身を固くしたのが空気で伝わってきた。
「Do I look like Spider-Man? No, that's wrong. I'm American Red!(スパイダーマンに似てるって? いいや、違うね。俺はアメリカンレッドさ!)」
未舗装の地面を踏みしめるザリザリという音で、アメリカンレッドが激しく動いているのだけはわかる。暗いのでハッキリしないが、自らも言っているようにスパイダーマンそっくりの格好をしているらしい。
「あらやだ奥さん、聞きました?」と中年女性の声が続き、「五時から惣菜二割引! 半額セールは土日だけ! 近所のスーパー、マジ助かる!」と主婦が知りたいお得な情報のような口上を述べ、「万引き絶対許さない! トマトレッド!」と
メンバーが出揃ったのを見計らい、リアルレッドが「我ら五人揃って、極限せ」と言いかけると、「飼いたい猫はアビシニアン。飼ってる犬はポメラニアン」と老人の
「我ら六人揃って」
「暴飲たたって糖尿病!」とまるでリアルレッドの言葉を引き取るように、今度は男性の悲愴な叫びが上がった。さらに「食事制限待ったなし!
「……我ら七人」
「軽い気持ちで課金した……」と若い男性の声が
大きな溜め息をついたリアルレッドが「我ら八……」と喋りだすや否や、「金さえあれば問題なし!」と
さすがにもういないだろうとリアルレッドが口を開きかけたところ「黒き黒髪、黒光り」と覇気のない声がし、彼は思わず「まだいるのか……」とうんざりした様子で本音を漏らした。
それを無視したベンタブラックは、「でも黒すぎる衣装はチョイスミス。仲間にさえも気づかれず。高かったのに報われない……こうなりゃ闇夜に紛れて闇討ちだ。
「我ら十……十人? 十人もいんのかよ⁉︎」と自分で自分の言葉に驚きつつも、リアルレッドは「まぁ、いいや。とりま……我ら、十人揃って極限戦隊! ゲンカイジャー!」と阻害され続けたセリフをようやく決めた。
すると、例によって前回の登場時と同じく、数テンポ遅れてから大きな爆発音が派手に鳴り響き、リアルレッドが「おい、チャイナ」という険のある声を上げると、それを掻き消すようにして九回もの爆発音が立て続けに炸裂した。
爆発音の余韻が収まった頃、女性を襲っていた人影が「あの、
「あぁ? 俺はリアルレッドだ! 聞いてなかったのか? てか、ちょっと待ってろ」
そう言って相手の言葉を制したリアルレッドは、「おい、チャイナ! オマエ爆発音どんだけ鳴らしてんだよ! 鳴らしすぎだろ! 聞いてんのかッ!」と並び立つ人影に向かって声を荒らげたが、明かりが乏しいせいで誰が誰だかわからない。
リアルレッドが人影たちのそばへと寄り、顔面を近づけて一人ずつ顔を確認していると「チャイナならいないぞ」とトゥルーレッドがもごもごと答えた。
「は? なんで? てかその声、ディープレッドか?」
「いや、トゥルーレッド」
「オマエさ、この前ディープレッドだったよな? なんで改名してるわけ?」
トゥルーレッドは「なんでって」とニヒルな笑いを漏らし、「俺の勝手じゃね。てか、アンタも改名してるじゃん。なんで?」と呆れたように訊ね返した。
「な……テメェがふざけた名前をつけ」と怒りを滲ませたリアルレッドだったが、深呼吸を一つして心を落ち着けると「つーかさ、トゥルーレッドってナニ?」と気を取り直して訊ねた。
「ナニってナニよ?」
「だからぁ、俺の名前と微妙に意味が被ってんだろって。なんだよ、対抗意識燃やしてんのか? こっちがわざわざ変えたってのによぉ!」と喋っているうちに興奮したのか、リアルレッドはすぐに「あとオマエまた殴っただろ、わざとかテメェ⁉︎」と逆上したように再び声を大きくした。
「別に。暗くてよく見えないし、ただの事故じゃね? てか、そんな細かいことどうでもよくない? アンタがリーダーなことには変わりないんだしさ」
目を見開いてトゥルーレッドを凝視していたリアルレッドは、リーダーであることを認められて溜飲を下げたのか、「まぁ……それがわかってんならいいんだよ」と恥ずかしそうにしながらも満足げに呟くと、「で、なんでチャイナ来てないわけ? あー、いや、韓国だっけか?」と話を戻した。
「さぁ? なんかこの前、
「柴犬の奇跡? 飼い犬が子供でも産んだのか?」
「それ、たぶん『シバ・ケセキ』じゃない?」
中年女性の声がしたほうへ、リアルレッドが見当をつけて顔を向ける。
「アンタは確か……」
「トマトレッド! ほら私、トマトみたいにまぁるいでしょ〜? 子供産んでからぶくぶく太っちゃってねぇ〜。もう大変よぉ〜。いくらダイエットしても元の体型に戻らなくってぇ〜」
あぎゃぎゃぎゃぎゃと豪快かつ奇妙な笑い声を上げるトマトレッドを、リアルレッドは冷めた視線で眺めつつ「へー……それで、さっきの言葉って」と控えめに先を促した。
「そうそうそう! でね、私、韓流ドラマにハマってた時期があったでしょ〜? その時に知り合った韓国人の友だちがね、よく言ってたのよぉ〜。それが若い男の子でね、けっこう男前だったんだけど、私が話しかけるたびに『シバ・ケセキ!』って」
「あったでしょって言われても……で、どういう意味?」
「それがね! えーっと……あら! なんだったかしら?
「それ、嘘つかれてるわよ」
夢心地で話すトマトレッドを、ハッピーバースディと思われる男性とも女性ともつかない声が遮った。
「え?」
「『シバ・ケセキ』はね、相手を罵倒する言葉でね、クソ野郎とか犬畜生とかって意味しかないわよ」
茫然とするトマトレッドに追い討ちをかけるように、トゥルーレッドが「よく言われてたって、それ、友だちだと思ってたのオバサンだけじゃね?」と聞き取りにくい声で彼女を容赦なくバッサリと斬り捨てた。
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