第55話 普通を求めて
私とフナはハティーワートを出て、フナが言っていた宿へと向かっていた。私はデッヒと2日後に会う約束をしていた。ナグナ王国にあるダランゼラという酒場に来いと。
迷いの森を抜けて、ナグナ王国に向かう道中で、デッヒの仲間を名乗る少女、フナと出会い、一緒に行動する事になった。
うっすらとした路地裏を抜けて、私とフナは人通りの多い表通りへと出る。
私の前をフナが歩き、私はそれに続く。
「……人多いですね」
「ニミちゃんそんなに人間が嫌いなの?人間不信なの?」
「人間が嫌いって訳では無いですよ!好きな人間だっていますし……ただ、人がたくさんいるところが嫌いなんてです。みんな同じように同じような事をして、ヘラヘラ喋って、笑って……どうしてこんなにどいつもこいつもヘラヘラ出来るんですかね?」
「ニミちゃんも、考えが捻くれてるねぇ!やっぱり自意識過剰なんじゃないのぉ??ぷぷぷ」
「別に誰も私のことなんて興味がない事ぐらい分かってますよ!赤の他人ですし……この人たちがどんな風に過ごそうと、別に良いんですが、なんでみんな幸せそうにいられるんだろうなぁって思っただけです。……すいません、私も何言ってるか分からなくなってきました」
そう、私も自分が何言ってるのかよく分からないのだ。
ただ、気になってしまった。
何故、道ゆく人々が、平然と楽しそうに、幸せそうに過ごす事が出来るのか。
「フナは、ニミちゃんが何言ってるか全く理解出来ないんだけど、デッヒ様が”自分と異なる考えを持つ者を理解しようとしない事は、本当に愚かな事だ”って言ってたから一応理解しようとするね!ニミちゃんの為じゃ無くて、デッヒ様に怒られないようにする為だから、勘違いしないでね!」
「別にフナさんの言葉にして今更一喜一憂する事は無いので、気にしなくていいですよ」
「そっか!じゃあ、安心して話せるね!」
一体どんな事を話すつもりなのか……
私は少し身構えていた。
「うんうん、よし!ニミちゃんの疑問は、”なんでみんな幸せそうにいられるんだろうなぁ”つまり、”道ゆくナグナ王国の人々が、どうして幸せそうに暮らしているのか?”って事だよね?」
「ええ、まあ。そうですね」
「ニミちゃんの疑問の中に、もう答えが出てると思うけどなぁ。ニミちゃんと違って、みんな幸せだから、幸せせうに暮らしてるんじゃ無いかなぁ?ナグナ王国は比較的豊かな国なんだから、”まともな最低限の生活”は送れるだろうし」
「私は、別に不幸せでは無いです!今の生活に満足しているし、今の生活を守る為に今ここにいる訳ですから!」
「ここにいる人たちは、みんな”普通”の人だから、普通の生活、普通の人生を送れていて、だから何も考えず、命危機に晒される事も無く平和に暮らせている。平和に暮らせているのは、ナグナ王国の騎士団が優秀だからってのもあるけど……ニミちゃんは”普通”じゃ無いし、普通の人生も送る事が出来ていないから、普通に幸せに生きている普通の人に嫉妬しているんだと思うよ!だから、ニミちゃんは、そんな彼らに疑問を持ったんじゃ無いのかなぁ?どう?フナの考え当たってる??当たったなら、褒めて欲しいなぁ!ねぇねぇ!ニミちゃん!褒めて褒めてヨォ!」
「普通じゃ無い……ですか。確かに嫉妬はあるかもしれません」
彼らのように、ロホアナ、ススと三人で一緒に何者に邪魔される事無く、平和に暮らせる事が出来たのなら、どれだけ良いか。私の望みだった。私達が大変な思いをしているのに、何も知らないまま呑気に暮らしている彼らに対して、嫉妬のような感情が生まれてしまったのだろうか。
「あの、フナさん。私って普通じゃ無いんですか?」
「え?逆にニミちゃん自分の事普通だと思ってたの?」
フナは本気で驚いたような言い方をする。
「……そ、そんなに驚く事ですかね?」
「驚くよぉ!ニミちゃんが普通な訳ないよ!フナだって、自分が普通じゃ無いって思ってるもん。そもそもフナとニミちゃんはファーゼなんだよ?普通じゃ無いんだから、普通な人生を送れる訳ないよ!だ・か・ら!ニミちゃんも、街行く人たちにガンを飛ばしてないで、ニミちゃんの可愛らしい笑顔を、見せてあげるべきだよ!!」
「ガンなんて飛ばしてませんよ!もう!やっぱりフミさん嫌いです!ふんっ」
「ぷいっとした顔もかーわいっ!フナはニミちゃん好きなんだけどなぁ!面白いし!」
「面白いとかそんな問題じゃ無いです!さっきのフナさんの考えは当たってますよ。お話はおしまいです!私は”普通の生活”を求めて、”普通じゃ無い人”と一緒に”普通じゃ無い人”に会いに行くのですから!さあ、宿に連れてって下さい!」
「あははっ!正確に言うと、”普通じゃ無い人”が”普通の生活”を求めて、”普通じゃ無い人”と一緒に”普通じゃ無い人”に会いに行くだね!みんなおっかしい人〜!あはははははっ!」
フナは愉快そうに大笑いしている。
「わ、笑い事じゃ無いです!もうっ!フナさんのバカっ!」
私の声(もしくはフナの声)が思ったより、大きかったのか、近く人達が私とフナの方をジロジロと見ている。
「いやいや、どう考えてもニミちゃんの声が大きかったからだよ!」
「フナさんの声だって、大きいです!」
「あ!また大きな声だした!やっぱりニミちゃんのせいだよ!」
「フナさんだってまた大きな声出してるじゃ無いですか!フナさんのせいです!!」
「ニミちゃんまた大きな声だした!!」
「フナさんだって!!」
わーわーわーわーわー!
ぎゃあ!ぎゃあ!ぎゃあ!
と、まるでススの時のような、お馴染みのやり取りを私は、フナと繰り広げる。私が、フナの事を苦手だと思うのは、ススと似ている部分があるからかもしれない。思った事をパッと言ってしまう毒舌ガール。ススよりも更に饒舌なので、心に結構ずしんと突き刺さるような言動をしている。痛い。
おまけに私が嫌うファーゼ出身の人間だと。
よくよく考えたら、デッヒはファーゼと内通していて、2日後にダランゼラに行くという命令に従わなかった場合、三人の家の居場所を、ファーゼにばらすと言っていた。だが、おかしく無いか?フナの話が本当ならば、デッヒはファーゼから私達と同じく追われる身だ。私達の居場所をファーゼに教えれる筈がない。フナが意図的に話したのではないと仮定すると、フナが誤って、デッヒの過去の話を私に話してしまったと考えるのが妥当だろうか。まさかデッヒが自分に不利な話を、フナに話すように命令する筈もないだろうし。だが、どうにも腑に落ちない。見たところ、フナはデッヒを崇拝しているようだし、デッヒにとって不利な事をするようにも見えない。
一体何が……?
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