第54話 ハティーワートのハティーワートさん
「うん?」
「?どうかしたの?クヨちゃん」
フナが私の事を不思議そうに見ている。
「今の人、なんかこっちをじろじろと睨みつけていたような……」
「今の人って、今出てった人たちの事?」
「はい。最初に出て行った男の人が、怖い顔で私の事を睨んでました。怖かったです。私また何がしちゃったんですかね?」
「もー!そういうのを、自意識過剰っていうんだよ!見ず知らずの人が、 全く知らない相手を睨むわけないよ!それに、ニミちゃんの事なんて、だーれも、興味ないから、安心して!」
また失礼な事を平然と……
別にあの男が私の事を嫌おうが、興味が無かろうがどうでもいい。
だけど、あの男のあの目……怒りの矛先を私に向けていたような……何があったのかは、分からないけど、怖かった。
この様子だと、フナは気づいていないようだが、私は本気であの男に殺されるのかと思った。身構えてしまった。それ程の”目”。只者では無さそうだが
一体誰なんだ……?それにどうして……?気になるけど、今はどうしようも無い。
「もーお!考えすぎだって!大丈夫大丈夫!フナつっよいから!ニミちゃんをばっちし守ってあげるから!ね!座ろ座ろ!」
フナに押されて、私は手近な席に座る。フナは私の前に座っている。
「おっかしいな。フナが大きな声で叫べば、ハティーワートさんすぐに来てくれるのに」
「フナさん、ハティーワートさんって誰ですか?」
「ハティーワートさんはね、ハティーワートさんだよ!ハティーワートのハティーワートさん!」
「いや、説明になってないですよ。ハティーワートのハティーワートさん。つまり、この店はハティーワートという名前で、経営している主人の方の名前も、店名と同じくハティーワートという事ですか」
「さっすが、ニミちゃん!理解力があるね!」
またまたフナに褒められてしまった。
私は軽く店の中を見渡す。外見と比べて、店の中はしっかりと掃除されているのか、多少の古さは感じさせるものの、清潔感溢れるよい雰囲気だった。
フナが外見で判断してはいけないとか言っていたが、まさにその通りかもしれない。先入観で決めつけるのは良くないだろう。
しばらくすると、店の奥から一人の男が現れた。
長身でガタイが良く、しっかりとした顔つきの男だった。彼がハティーワートの主人、ハティーワートさんなんだろうか?
「ん?フナか?さっきまでいたお客さんたちは?」
「あ、ハティーワートさん!男の人も、女の人も、さっき帰っちゃったよ」
「そうか……いつもなら最後に一声かけてくれるんだがな。急用でも出来たのか……」
「”いつもなら”って事は、常連さん?ハティーワートにフナ以外のお客さんがいるなんて、珍しいなぁって思ってたけど」
「別にフナだけの為に店開けてるわけじゃねぇんだ。客はわんさかいるよ」
「えぇ、ハティーワートはフナだけの店だと思ってたのにぃ。なんかショック」
「相変わらずだぜ、全く……」
ハティーワートらしき男は、呆れたように言う。ハティーワートは、フナの性格を良く理解しているようにみえた。
「それで、そっちの子は誰だ?」
「この子はニミちゃん!フナの友達だよ!」
とりあえず私も自己紹介すべきか。
「えっと、ニミです。よろしくお願いします」
「わあ無難!無難過ぎるよ!ニミちゃん!無難すぎて、フナ、ブナァァァァン!ってなっちゃった!」
ブナァァァァン?
「フナと一緒にいるってことは、よっぽどの変人かと思ったが、案外まともそうな子じゃないか」
「まともじゃないよぉ!なんせ、ニミちゃんは、ファ……」
「まともです!私はこの子とは違います!どこにでもいるフツーの女の子です!決して、友達の事を馬鹿にしたり、友達の素性をベラベラべラベラベラベラベラ話すような人間では無いので、ご安心を!」
「え、ニミちゃん?どしたの?急に」
「あなたのせいですよ!フナさん!」
「えぇ!?フナ、なんか変な事言ったぁ??」
わーわーわーわーわー!
ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ!
「とりあえず、二人とも厄介そうな点では似てるって事は分かった」
「いや、どうしてそうなるんですか!?全然分かってないですよ!!」
「まあ、とりあえず、俺はこのハティーワートって店の主人をしてるハティーワートってもんだ、よろしくな、変人の友達は変人!」
「何ですか、その標語みたいなワードは!私は普通の人間です!」
「プププッ。普通の人間は普通って言わないんだよぉ〜!プププッ。ニミちゃんは変人でしたぁ。でも面白いからフナは好きだよ!この世で変人であるニミちゃんを理解してあげれるのは、世界一の常識人、フナだけ!」
「どうしてフナさんが常識人で、私が変人になるんですか!ほら、あなたも考えを改めて下さい!」
「え?俺?」
「さあさあさあさあ!」
「お、面白そう!じゃあフナも!さあさあさあさあ!」
「さあさあさあさあさあさあ!」
「さあさあさあさあさあさあ!」
「え、ちょっ……」
私とフナに詰め寄られて、ハティーワートは困惑しているようだ。
「「さあさあさあさあさあさあさあ!!」」
「ま、待ってくれ……?」
「「まともなのは、どっち!?ハティーワートさん!!!????」」
「か、勘弁してくれよぉぉぉぉぉぉぉ!!!????」
***
「はあ、びっくりした。小便ちびるかと思ったぜ」
「もう!食事中に汚い話しないでよ!だから店に客も来ないし、結婚も出来ないんだよ!ハティーワートさん!」
「一つめは同意するとして、もう一つは関係ねぇだろうがよぉ!?」
「うん、料理は美味しいですね。ハティーワートさんは図体だけ図太い筋肉バカかと思いましたが、料理は美味しいし、小便はちびるし、結構繊細バカなんですね」
「いや、君も初対面の人に対して、よくそんな暴言吐けるな!?びっくりしたよ!やっぱり君も充分変人だよ!」
「すいません、今までの流れと今の雰囲気と、フナさんのハティーワートさんに対する言動を見ていたら、ハティーワートさんはガンガン虐めて、泣かせても笑いになるタイプの人間かなぁって思いました。間違ってたらすいません」
「間違ってるよ!どうやったらそんな発想になるの!?怖いよ!フナ以上だよ!だけど、料理褒めてくれた所は素直に嬉しいな、へへっ。ありがとよ」
「フナは暴言排出機のニミちゃんも、小便漏らしのハティーワートさんも大好きだよ!だから、泣かないで、死なないで、ハティーワートさん!」
「小便は漏らしてねぇから!泣いてもねぇから!はぁ……はぁ……ああ、疲れた。俺もう寝るわ、お前らとっとと帰れよ。はぁ……」
ハティーワートはそう言うと、奥へと去っていく。
随分お疲れのようだ。
ハティーワートの店に、ハティーワートはどうやら住んでいるようだ。奥は調理場だけじゃ無く、ハティーワートの家にも繋がっているのだろうか。
「ハティーワートさん、面白い方ですね」
「でしょでしょ??料理も美味しいし、ハティーワートも面白いし!知る人ぞ知る名店と、名店主って感じかな!」
「それならば、王都の表通りに店を構えてもよさそうなんですけどね。なんでこんな辛気臭い誰からも見つからないような場所でハティーワートさんはハティーワートを経営してるんでしょうか?」
「ハティーワートさんは人と話すのが苦手だからね!特に初対面の人は!ハティーワート顔真っ赤にしちゃって!面白かったなぁ!せっかくはじめてのお客さんだったのに!」
初見の客を迎える人見知りハティーワートさんか。ちょっと見てみたい気がする。
「だけど、私がハティーワートに来たのも今日がはじめてですよ。フナさんに教えて貰うまで、こんな店の存在も知りませんでしたから。完全な初見さんです。なのに、ハティーワートさんは私にはフナさんが言うほど人と話すのが苦手なようには、見えなかったのですが」
「ニミちゃんは特別なんじゃない?ニミちゃんは声も見た目も良いし、明るい性格だから、ハティーワートも話しやすかったんだと思うよ」
本当にそうだろうか?
「と・に・か・く!料理を食べ終わったら、フナと一緒に宿に行こ!」
「一緒にって……約束の日までまだ時間がありますよね?まさか、宿も一緒に過ごすつもりじゃ…….」
「宿だってフナお気に入りの宿だし、もう二人分のお金払ってるから、フナも一緒だよ!」
「ま、マジですか……」
「うん?マジ!」
フナは満開の笑顔で言う。
早速雲行きがますます怪しくなってきたぞ……
フナと一緒に宿で生活?
「まさか同じ部屋じゃないですよね?」
「もーう!ニミちゃん!贅沢言わないでよ!贅沢ばっかりしてると、ありがたみを忘れるよ!」
「あ、ありがたみ?」
「食べることのありがたみ、生きることのありがたみ、寝ることのありがたみ、歩く事のありがたみ、ハティーワートさんへのありがたみ!神様へのありがたみ!お金へのありがたみ!何にでも感謝しなくちゃね!」
ロホアナ、ススへのありがたみ……。
「勿論フナへのありがたみ、感謝も忘れないでね!」
「分かってますよ。ありがとうございます、フナさん」
「いいね!ニミちゃん!じゃあじゃあさあさあいこ行こ!宿へゴー!」
私達は奥にいるハティーワートにお礼を言うと、ハティーワートを出て、フナの話す宿へ向かった。
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