第50話 プニプニと幸せオーラ

いつの間にか、世は明け、日はすでに登り始めていた。

 大雨も収まり、ようやく山に静寂が訪れる。


「はっ……!?」


 ススはふと目を覚まし、起き上がる。

 いかんいかん、寝てしまっていたようだ。そうだ、刺客は……


 ススの「光の輪」で拘束されている刺客もスヤスヤと寝ていた。

 疲れているのだろうか、ぐっすり寝ている。ロホアナも同じくだ。

 いや、何を敵に同情しているんだ。

 刺客が現れた以上、いつまでもここでのんびりとしている訳にはいかない。

 早いこと、山を出たいけど……

 問題はこいつだ。


「……どうしたものデスカネ」


「……」


 ちょっとだけ、ちょっとだけ……

 ススは刺客のほっぺに軽く触れる。

 うん、プニプニしている。

 本当に刺客とは思えない程可愛らしい顔をしている。

 ススの好みの顔だ。

 良い顔立ちである。


「ただ、敵デスカラネ……ウーン」


「そんなに気に入ったのか?」


「ヒャアッ!?ロホアナ様ッ!?いつのまに起きテ……!?」


「いやぁ。ススの可愛らしい顔がうっすら見えたから……違う違う、ススの幸せオーラをビンビンに感じたから、つい起きちゃった」


「訂正になってないデスヨ!全く……」


「まあ、どのみち刺客が現れた以上は、これからの事を考えないとね。とりあえず、山を抜けようとは思うが……この娘どうしようかね?」


「……」


「ススならどうする?」


「私は……口封じ、と言いますカ……こちらの素性を知られた以上、彼女を生かしておく理由はアリマセン。彼女がロホアナ様を殺そうとした以上、こちらにもその権利はあると思いマス」


「私もそう思う。が、彼女の正体が分からないだろ?」


「確かに……ただの盗賊なのか、傭兵なのカ….…雇われた暗殺者の可能性もありマスシ……」


「ススの見立てはどう?」


「かなりの戦闘経験があるように感じマシタ。普通の人間では無いと思いマス」


「普通の人間ではないねぇ……マーイヤナがプロの傭兵を雇ったのかな?」


「可能性はアリマスネ。それで、どうしマスカ?ロホアナ様のご要望なら、私が始末シマスガ」


「始末ねぇ……ススは物騒な言葉を平気で使うなぁ」


「デスガ、それ以外に方法がアリマセン……」


「いや、あるよ?」


「エ?」


「彼女を連れていけばいいんだ」


 ***


 雨が止み、空がようやく青さを取り戻す。辺りも、段々と明るくなって行く。

 ススとロホアナは洞窟を出て、山道を歩いていた。


 そしてススが背負っているのはーー


「本当に、良いんデスカ?ロホアナ様」


「大丈夫大丈夫。ススなら背中に多少隙があっても、何とかしてくれると思ってね」


「隙しか無いデスヨ……デスガ、ご安心を!ロホアナ様は必ず守りマス」


「ああ、ありがとう」


 ロホアナの意向により、ススたちはこの刺客を連れ歩く事にした。

 刺客は未だにスヤスヤと眠っている。

 だが、小柄な体をしている為、ススが背負うのにそこまで苦痛は無かった。

 刺客の正体を知らない以上、安心は出来ないけど。


 ススたちは、山を離れて、ある小さな町へ到着する。

 その町にはロホアナの知り合いである研究者がいるらしい。

 名前は、忘れたが、確か男だった気がする。可愛らしい助手を連れていた。

 彼の開発した人間の精神を抑制、調教する装置によって、刺客の正体を暴こうとした。


 その結果、彼女は暗殺傭兵組織ファーゼと呼ばれる闇の組織に所属する暗殺者で、マーイヤナ王国の命により、ロホアナを暗殺しようとした事が明らかになった。


 ロホアナの予想通りではあったが、まさかファーゼが既にススたちの居場所を特定し、刺客を送ってくる事はかなりの脅威だった。


 研究者の男は人体実験の為に、刺客を欲しがっていた。しっかりと処分はすると明言していた。

 どのみち、彼女の正体が分かった以上、これ以上彼女を連れ歩くメリットは無いと、ススは思ったので、ロホアナに賛成を促したのだが、ロホアナは違った。


「いや、彼女は私たちが連れて行く」


「ろ、ロホアナ様ッ!?一体何を……」


「見たところ、彼女は生まれ変わったんだしね。元のファーゼじゃない。私たちの為に、彼女はきっと働いてくれる。そうだろ?」


 刺客はうっすらとした目でロホアナを見ている。自身の状況が分からず、困惑しているようだった。


 という訳で、ススたちは刺客こと、ニミを仲間に迎えいれる事になるのだった。




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