第49話 三人の最初の出会い

 ***


 ススがロホアナと出会い、一緒に行動している時の話だ。

 ある日のこと、二人は、ある山奥の洞窟に身を潜めていた。

 様々な街を渡り歩き、ある牧場で、ようやく仕事を貰えた。住む場所も提供して貰えたのだが、牧場主の親戚問題、借金問題などを押し付けられただけでなく、理不尽な理由で追い出されてしまい、ようやく見つけた山奥洞窟で何とか飢えを凌ぎながら、二人は途方もない生活をしていた。

 その日は天候がかなり悪く、大雨だった。

 雨が降り注ぐなか、ススとロホアナは、お互いを励まし合いながら、一夜を過ごしていた。

 特にロホアナはかなり疲れ切っており、体調も良くなかった。

 ススは心配だった。ただ、このような状況の中で、冷静さを失ったらどうなるのかをススは一番理解していた。

 だから、冷静さを失わないようにした。だが、冷静さを失わないように意識している時点で、既に冷静さを失っている事に気がついたススは、ますまず焦った。

 とにかく、まずはこの山を超えないといけない。いつまでもここに留まるわけにはいかない。

 とりあえず、気休めとして光の結界を洞窟の周りに張っておいたが、あくまで気休め程度で完全に安心出来る訳では無い。



 ロホアナは寝息をたてて、スヤスヤと眠っている。雨音がしとしとと、降り注ぎ、洞窟中に響き渡る。

 この洞窟はそこまで深くまでは続いていないが、身を隠すには最適な場所だろう。


 ススは「ふわぁぁ」と小さく欠伸をする。

 ススも少し眠たくなってきた。

 精神的にも肉体的にも疲れが溜まっている。

 誰かの気配がすれば、すぐに起きて、反応出来るはず。


「少しだけ寝ますカ……少しだけ……」


 ススも目を瞑り、睡魔に身を委ねる。

 心地よい雨音が気持ちを少し落ち着かせてくれるようだった。

 意識は少しずつ溶け始め……


「……」


 ***


 どれぐらい時間が経っただろうか。

 ススは反射的に目を覚ます。

 ススの神経がピッシリと研ぎ澄まされる。


 ーーーこれは……!?


 ススはロホアナを起こそうと思ったが、止めた。

 ただでさえ、疲れが溜まっているロホアナにこれ以上迷惑をかけたくなかったし、なるべくススだけで問題に対処したかった。

 そして、ススが感知したのは光の結界に何者かが侵入した事だ。

 光の結界を破る人物、只者では無い。

 もう少し強く光の結界を張れば良かった。今更になって後悔するも遅い。

 とにかく、侵入者について把握しないと。


 ススは洞窟から出ると、辺りを入念に見渡す。

 激しい雨がススの頭に打ち付ける。

 冷たい感覚がススを襲う。だがそんなのは関係無い。

 辺りは暗く、よく見えないが侵入者の気配は感じる。

 全神経を研ぎ澄まし、侵入者を探す。


「……っ!?」


 ーーー見つけた!


 ススは侵入者を感知した方へ全力で走り出す。


「ハァハァ……」


 しばらくした所でススは立ち止まる。


「おかしいデス……”気配”が消えた……?」


 確かにススは侵入者の気配を探知した筈だ。なのに、見つからない。


 ーーーこれは……まさか……!


 嫌な予感がした。


 ーーー私は騙されたのか?


「ロホアナ様っ!」


 ススはロホアナが寝ている洞窟へと急いで戻る。


「ハァ、ハァ……」


 雨でビシャビシャに濡れた事など気に留めないぐらいに、焦っていた。

 やがて、洞窟に到着する。

 洞窟の中に入り、最初に目に入ったのはーーー


「……!?ロホアナ様!」


「っ!?」


 寝ているロホアナの前に立つ人らしきもの。

 手には刃物のようなものを持っているのが見えた。

 ロホアナに振りかざそうとしているのか。

 ーーーやはり、刺客か!


 ロホアナにススの攻撃が当たるのが心配だったが、とにかく刺客を始末するのが先だ。

 ススは「光の槍」を出現させ、刺客へ振りかざす。

 刺客はこちらの存在に気づいたのか、ロホアナから素早く離れる。

 ロホアナはまだ刺客に気付いておらず、スヤスヤ眠っている。

 ロホアナを起こす必要は無い。穏便に済ませたいけど……


 ただ、この洞窟はそこまで広くなく、尚且つ刺客がいる場所は行き止まりだ。ほぼ、追い詰めたも同然である。

 刺客は逃げられない。ススの方へ向かって来ない限りだ。


 ススは刺客の方へ「光の槍」を向けながら、ゆっくりと進んで行く。


 刺客はナイフをこちらに向けている。

 フードを被っており、顔は見えないが、随分と華奢で小柄な体型をしている。女性……だろうか?


「あなたは何者デスカ?」


「……」


 刺客は答えない。


「答えないのなら仕方ないデスネ。乱暴な真似は、ロホアナ様の前では控えていたのデスガ、緊急事態デス。仕方ないでショウ」


 ススは「光の槍」に強力な魔力を込める。スス以外の相手がこの槍に触れたいらひとたまりもない。

 滅多に使わないが、刺客相手なら大丈夫だろう。


 刺客はナイフを構えて、こちらへ向かってくる。

 確かに動きは早いが、対応出来るはずだ。


 ススはナイフを光の槍で受け止め、ガシンと鋭い金属音が、鳴り響く。


「ぐっ……!」


「……」


 華奢な体をしている割に、意外とチカラが強い……!

 ススと刺客は何度か剣を交わえるも、お互いに決定的な隙を見せない。

 ススは間合いを取り、隙を見つけようとするも、刺客も素早い。

 明らかに戦闘慣れしている!

 一体何者なんだ……!?


 ーーーこのままでは、らちがあかない!少し、強気に攻めるしか無い!


 刺客もこちらの様子を伺っている。

 ならば、こちら側が相手が予想しないような一手を打つしか無い。

 相手がナイフだからってススが合わせる必要は無いのだ。

 バーンと一発!


 ススは「光の爆弾ライトボム」を出現させる。そして、刺客めがけて打ち込む!

 刺客は恐れて、後ろへ後退りするが、後ろはただの壁!

 逃げ場はない!


 強烈な爆発音と共に、煙が立ち込める。


「うーん……何だ?」


 ロホアナがようやく目覚めたようだ。


「ロホアナ様、刺客デス!私の後ろへ!」


「し、刺客だって!?」


「奴は……!?」


 ススは、ロホアナと話した後、「光の爆弾ライトボム」を打ち込んだ場所を確認した。

 その直後だった。


 刺客がナイフを構えて、ロホアナへ再び振りかざす。


「ロホアナ様っ!」


 ススは刺客へ体ごと飛び込み、タックルする。


「っ!?」


 ススも刺客もその場に倒れてしまう。その反動でススの頭が刺客の顔にぶつかる。


「ううっ……結構痛いデス……」


 ヒリヒリ痛む頭をさすりながら、ススは刺客の方を見る。


「スス、大丈夫か?」


「大丈夫デスヨ。ロホアナ様、起こして申し訳アリマセン」


「私の事は良いよ。それより刺客は……?」


「……」


「どうやら、気絶しているみたいデスネ」


 刺客はふにゃふにゃと目を回し、気絶しているようだ。



「ススの石頭で気絶するとは……そこまで大した相手では無さそうだね。私でもススの石頭に勝てるもん」


「そういう問題では無いデス!ロホアナ様。やはり、マーイヤナの刺客でショウカ?」


「まあ、その可能性は高いだろうね。マーイヤナというより、マーイヤナが雇った傭兵か……それとも単なる金銭目的の盗賊か……にしても、どうしてこの場所が分かったのだろう?」


「あの牧場からつけられていたのでショウカ?」


「分からないね。どれどれ……」


「ああ!ロホアナ様、安易に近づいてハ!ちょっと待ってクダサイ!こんな時に使える万能光魔法がアリマス!」


 ススはフラフープのような形をしている「光の輪」を出現させると、刺客の首、両腕、両足にはめる。

 自分自身では中々取れない「光の輪」。


「首にはめ込んだ理由は?」


「首の『光の輪』は単なる拘束だけで無く、『光の刃』で出来でイマス。私の指示で、いつでも首をはねる事ができるのデス」


「処刑用か、怖っ!何でもありだな!光魔法、恐るべし!」


「処刑ではアリマセンヨ。確かに、処刑の手もアリマスガ、あくまで最終手段デス。こちらに死を与える権限があると、理解させたうえで、尋問を行う事がデキマス」


「ますます怖いな!光魔法、超恐るべしっ!」


「そんなに怖がらないでクダサイ。あくまで敵に使うだけデスカラ」


「私はとんでもない娘こを味方にしたのでは……?」


 ロホアナは、刺客のフードを脱がし、顔を確認しているようだ。


「おおっ!結構可愛い娘だね!ほら、みてよスス!」


「本当に女の子でしたカ……まだ若いデスネ……金銭目的の盗賊か山賊でショウカ?」


 刺客は整った顔をした少女だった。

 非常に可愛らしい美少女だった。


「どうだろうね。このご時世だよ。幼くとも、傭兵や暗殺者として生計を立てている者もいるからね」


「彼女は明らかに戦闘慣れしてイマシタ。きっと、今まで何度も……」


「彼女の口から話してもらうしかないだろうね」


 と、次の瞬間だった。


「ウガァァァァァァァァァァ!!!!」


「ふえっ!?」


「な、何デスカ!?」


 捕われていた刺客が、「光の輪」を破り、ロホアナに襲い掛かった。

 だが、お得意のナイフはこちらが預かっている。首の「光の輪」は健在だ。

 首の「光の輪」はこんな風にも使える。


「ギャァァァァァァァァッ!?」


 首の「光の輪」から刺客の体に電撃を流す。刺客の悲痛な悲鳴が洞窟に響き渡る。


「ふにゃぁ……」


 再び刺客はその場に倒れ込み、気絶する。


「ふぁっ……びっくりした……」


「まさか光の輪を破壊されるとは……もっと強い魔力で沢山作らないと」


 ススは頭から足先まで、刺客の体に「光の輪」を何個もはめこむ。先程よりも、厳重に作ったし、恐らく大丈夫だろう。


「さて、この刺客どうシマスカ?」


「とりあえず拘束した状態で、様子を見るしか無いね。ふわぁぁ……私はもうねむたくて……」


「ロホアナ様は寝ていてクダサイ。刺客は私がみてイマス」


「ススは大丈夫なのかい?」


「私は大丈夫デス。いつ何時でもロホアナ様を守るのが私の使命デスカラ」


「そうか、ありがとう……」


 そう話すと、ロホアナは横になり、眠り出す。


「……」


 使命、目的が無いとススは生きていけなかった。

 ヒミの時もそうだった。

 マーイヤナでロホアナと出会えて良かった。心底そう思う事は出来た。


 ススは電撃で気絶している刺客をみる。


 刺客の正体は気になるが、刺客の声、結構可愛い声だったな……

 なんてことをススは思うのであった。












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